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【第9話 王国と陰謀】

【第9話 王国と陰謀】--------------------



ミルノの情報部員は非常に優秀だ。この大陸の各町だけではなく、他の大陸の王国や公国の城下、城内にまで情報部員が入り込んでいるという。そして、その情報部員からもたらされた内容は耳を疑うほどの詳しさだった。


一番の驚きは、フィレン王国が魔女に乗っ取られているということだ。半年前に魔法大臣に昇進したルミスが腹心の部下ガルスとともにフィレンの国王を魔法で操り、実権を握っていること。ルミスは8年前に別の大陸からやってきた魔法使いで、7年前にフィレン王国の魔法省に入り4年前から頭角を現してきたらしい。


フィレン国王の命令で側近は王子達とともにフルド近くの山岳地帯の魔物討伐へ駆り出されて城に戻れない状態。王妃は病で寝たきりとなり、ルミスが指名した専属の侍女が世話をし、医者以外の者とは接触を断たれている。王女が1人いるが、現在はラノム王国の王立学校に留学中だ。


ラノム王国からの正式な魔物討伐要請により、フィレン王国との国境であるナルーガにフィレン王国騎士団が移動しつつある。しかし要請のあった5千人に対し、実際には3万人規模で集結しつつあり、そのメンバーの多くがここ4、5年で騎士団に入隊した者らしい。一見、フィレン王国騎士団やラノム王国騎士団によって魔王城の包囲網が完成しつつあるように見えるが、別のいやな考えが頭の中をよぎる。


アルとリチで増えている傭兵やならず者達はフィレン王国騎士団とは関係なく、魔女ルミスの腹心の部下ガルスの息のかかった者の指示で動いていおり、主にフィレン王国のカルナから来ているようだ。カルナは自然の地形に恵まれた城塞都市だ。よその大陸とも交流が深く、魔女ルミスもこの町を経てこの大陸に来たと言っている。目的は不明だが、フィレン騎士団や傭兵達が動くということは、戦争を起こそうと考えていることは間違いない。しかし、このまま魔王城に攻め込むには少し動きがおかしい。


山岳地帯の魔物は、山岳ルートと洞窟ルートの出入り口周辺、特にラノム王国側に大量に集まっている。魔物はなぜかドルイド達には手を出さない。そしてラスクと呼ばれる強力な魔物はここ数ヶ月姿を見せていない。自分の縄張りである山岳地帯を少なくとも月に一回は巡回していたのに不思議だとドルイド達がいっていたそうだ。


ラノム王国騎士団が魔王城へと進行すれば、城の警備が手薄になる。もしそこに山岳地帯の多くの魔物とフィレン王国騎士団3万、リチに集まった傭兵やならず者までが王都に攻め込めば、場合によっては王都陥落の可能性も出てくる。考えすぎでなければいいのだが。


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今回聖堂院で召喚されたは勇者は3名。有能な情報部員カルサによって勇者達のだいたいの武器や身体能力、性格までわかった。勇者マシュウは鉾戦士で25歳。突進力とその早さ、打撃力はこれまでの勇者最強。誰にでも優しくでき、話がわかる人物らしい。武具による争いより、話し合いによる平和的な解決を好む。会社の残業中にうたた寝をして召喚されたようだ。順応性が高いのか、すでにこちらの世界に馴染み、楽しんでいるらしい。彼なら話し合いに応じてくれるだろうか。


勇者アゲハは20歳。動きが素早く、武器は手裏剣と小太刀。多様な手裏剣技を持っている。まるで忍者だ。謎の病で寝込んでいる兄の看病疲れで倒れたところを召喚されたようだ。元の世界に残してきた兄のことが心配らしく、毎日の訓練の後、元の世界に戻る方法を探して聖堂院に相談に行き、夜は王家の図書館に通い詰めているそうだ。この世界には召喚の儀式はあっても送り返す儀式はないらしい。この世界で死ねば元の世界に戻れるのだが、それを知る方法は限られているので自力ではどうしようもないだろう。20歳といえば、たぶん私の妹の一つ年下。そういえば妹はどうしてるだろう。


勇者シコクレンは19歳の両手剣使いで剣技に優れており、手数の多さはそのまま防御力にも破壊力にも繋がっている。アゲハにも劣らないスピードで動くそうだ。普段は誰にでも優しいが結構気が強く「剣を持つと修羅のごとし」らしい。夜ゲームをしていて寝落ちしたところを召喚されたというだけあって、自分のレベル上げが楽しくてしょうがないようだ。魔王として出会ったら、有無を言わせず戦いを挑んできそうでちょっと怖い。


最後にジュリア。気丈にも新しい勇者達に状況の説明をしたり生活面での便宜を図ったり、毎日一緒に訓練をしているが、やはり顔色は悪く元気がない。食も細く体重が激減しており、ただでさえ華奢な体が悲鳴を上げているようだ。夜のミーティングを終えてお風呂を終えると、自室に入るなり倒れるように眠りについている。やはり早急に様子を見に行かねば。


「ミルノ、多くの情報をありがとう。デザミー、今の状況から見て、魔王城への進行と、もう一つの可能性としてフィレン王国からラノム王都への進行が考えられるのだが、どう思う?」


「魔王様、さすがに頭脳明晰なお方でございます。おっしゃるとおり、フィレン王国が魔女の手に落ちた今、ナルーガに集結した騎士団とリチの傭兵達、山岳地帯の魔物が一斉にラノムの王都に攻め込めば、王都陥落は十分に可能かと思います。」


「デザミー、魔物を操るのは私たちでも困難じゃない?私の魔法でもうまく制御できないよ?」


「ミザーナ、もしかすると魔女は他の未知な魔法か何かを使ってるんじゃないかなぁ」


「ラスクがここしばらく現れないのも魔女が関係している可能性が考えられます。」


「魔王城への進行、ラノム王都への進行どちらの場合も考えて対策を考えたいんだけど、それぞれ進行するならあと何日くらいかかりそうかな?」


「ナルーガからの移動で考えますと、早くても魔王城へはあと10日、ラノム王都へはあと7日くらいはかかると思われます。」


「わかった。じゃあ、デザミーとザールで魔王軍を2つのパターンで動かせるように2日以内に再編成してくれる?」


「仰せのままに。」


「ミルノは引き続きフィレン王国の情勢とナルーガ、リチの騎士団や傭兵達の情勢、王都の様子を探って。」


「わかりました。」


「あの、魔王様、わたしは・・・」


「あぁ、ミザーナには悪いんだけど、今晩一緒に王都に飛んでくれないか。」


「はい!」

「ついに!」

「愛ですな。」

「私もいく~!」


ほんと、息の合った四天王だ。結局、今晩ミザーナとミルノとともに王都に飛ぶことになった。その前に、ちゃんと呪文で目的の場所に行けるか魔王城とゴムラを何往復かして練習することになった。ゴムラ洞窟の様子も見てみたかったのでちょうどいいか。


しかし、魔女の目的を早く確認して、場合によっては魔女の排除とフィレン王国の解放も考えないとだな。ラスクは私の手で軽く倒せるらしいので、いざとなったら私が手を出せばなんとかなるだろう。デザミー達は私の力をできるだけ温存してほしいようだが、普通に数年ごとに勇者達と戦って魔王として君臨するにしても楽に60年は無敵らしいので、ここは出し惜しみする必要もないだろう。


やっとジュリアに会える。まぁ、ジュリアが寝ているときに様子を見に行くだけなので会話はできないだろうが。そういえば、結婚式から何日たったんだろう。あまりにもめまぐるしい日々で、もう数ヶ月も前だったような気がする。


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「魔王様、いきましょう!」


元気に扉を開けて飛び込んできたミルノとミザーナが、とてもにこやかに私の前で移動魔法「ルウ」のピンポイント移動に関するレクチャーを始めた。

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