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【第7話 魔王と四天王】

【第7話 魔王と四天王】--------------------



最初に口を開いたのはミザーナだ。


「魔王様、恐れ多いこととは存じますが、おひとつ伺ってもよろしいでしょうか。」


いったい何を聞きたいのだろう。玉座の肘掛けにもたれながら答える。


「申してみよ。」


ミザーナ、ザール、デザミー、ミルノが一斉に口を開く。


「実は、ラノム王国の王女のことでお話があります。」

「勇者についてお話があります。」

「先代の魔王様についてお話があります。」

「魔王様についてお話があります。」


「ちょっと待ってみんな、ジュリア王女のことが心配でここに来たんじゃなかったの?」

「いや、ミザーナ、それも大切だが、魔族のことを考えるとだな。」

「王女のこともあるが、どうしても魔王様に先代の魔王様のことを知ってもらわねば。」

「ミザーナの言いたいこともわかるが、魔王様のことを最優先で考えるとだな。」



私は、お釈迦様でも聖徳太子でもない。一斉に4人に別々のことを言われても聞き取れないんだが。しかも連続して話がかぶるなんて、変な意味で息の合った四天王だな。いったい何を言いたいんだ。ミザーナの言いたいことはジュリアのことだとはわかったが。


しかし全員ばらばらの話なのか。4人の真剣な顔を見ると、ミザーナの話だけを聞いて残りの3人に下がれとは言いにくい。どうするかな。ジュリアのことは、さっっきの報告で病に伏せっていると聞き、心配でたまらないのだが、心を見透かされたのだろうか?やっぱり一番気になるミザーナの話から聞いてみるとするか。


「うむ、ではミザーナ、ザール、デザミー、ミルノの順に話してみよ。」


ミザーナが淡々と話し出す。


「魔王様、私はミルノから、魔王様がラノム王国の王女、ジュリア様との婚姻の儀の最中に私どもが召喚してしまったと聞きました。」


「そ、そうだが・・・。」


「だったら!」


4人が口をそろえて大きな声を出したのでびっくりして玉座に座り直してしまった。何なんだ四天王、息が合いすぎだろう。


「し、失礼いたしました。でしたら、当然ジュリア様が病に伏せっておられると聞いてお心を乱されたのではないでしょうか?」


「いや、そうでもないとは言えぬわけでもないのだが。」


やばい、ミザーナの迫力に気圧されて、動揺で言葉がおかしくなっている。ミザーナが話を続ける。


「実は、私は魔法団長をつとめさせていただいておりますゆえ、それなりの魔法を行使できます。たとえば姿を消す、気配を消すなどです。今の魔王様にも容易くできることとは存じますが、今からジュリア様の様子を見に行かれるなら、私も同行させていただくのに、ちょうどよい魔法だと存じますが、いかがでしょうか?」


「そ、それはどういう意味だミザーナ。」


「では、そのものずばりを申し上げます。差し出がましいようですが、魔王様と私でラノム城に行き、ジュリア王女の容態を見に行くというのはいかがでしょうか。当然、敵情視察ということでございます。私の魔力を使えば、病であれば重くも軽くもできるかと存じます。」


これはどういう意味だ。まさか、私のジュリアへの思いを行動に起こせといってくれているのか。または病状をもっと悪くしてラノム王国の陰を大きくしようと提案しているのだろうか。私が魔王として召喚されたことでジュリアや勇者であった頃の仲間達が心を痛めていることも想像できる。そして、ジュリアが悩み、そのせいで伏せっていることも推測できる。さて、どう答えたものだろうか。返答をしかねている間にザールが話し出す。


「魔王様、実は私は勇者を力をつける前、つまり今すぐにでも倒したいと考えております。」


これは直接的な提言であり、正論だ。確かに、力をつける前なら倒しやすいだろう。何度召喚しても、レベルを上げる前なら倒すのも容易いことだろう。勇者が最短でも1年ごとに召喚されるなら、召還後すぐに倒してしまう方が楽でいい。その後1年は勇者が現れないのだから。しかし、魔王軍の騎士団長と言えば正統派の騎士として名を轟かせた猛者である。その猛者が弱いうちに倒してしまおうというのは、少し買いかぶりすぎたのだろうか。


「実は、先の魔王様よりお話を聞き、勇者の秘密を知ってしまいました。」


「どういうことだ?」


「先代魔王様のお話によると、勇者は我々魔王軍に倒されると、元の世界に帰れるそうです。」


「な、なぜそれを知っている!」


あ、なぜって、先代魔王から聞いたとさっき言ったな。まずいな、テンパってきた。


「いや、先代から聞いたのであったな。」


「はい、勇者は死ぬと聖堂へは帰還しません。今までの勇者は、この世界で死ぬと、そのままどこへも復活できずに終わってしまうと思い、なかなか倒すのに心苦しかったのですが、先代魔王様からその話を聞き、できれば早く元の世界に帰したいと思うようになりました。」


これは勇者のためを思っての発言なのだろうか。それとも一人でも多くの勇者と戦いたいのか。騎士団長という誇り高き戦士が口に出すのだから、前者と解釈しても良さそうだ。間が空いた隙を突いてデザミーが発言する。


「魔王様、どうしても魔王様には先代魔王様のお心を知って頂きたく、この卑しき口からの言葉でお耳を汚させていただきます。」


あぁ、もう前置きはいいから本題に入ってくれ。どんどん頭が混乱してくる。先代魔王が勇者の秘密をなぜ知っているのか、そのあたりのことも話してくれると助かるんだが。まさか<天の声>を聞いたとでも言うのだろうか。


「実は、先代魔王様は、先の勇者様に倒される日を心待ちにしておられました。」


「何だって?先代魔王は倒されたいと願っていたのか?」


「はい、その通りでございます。」


なんと言うことだ、そういえば、思い出したぞ。忌の際の言葉<勇者よ、あり‥>。では、あれはアリの分際で!とかではなく、<勇者よ、ありがとう>だったのか!一番なさそうな選択肢だったが、どうしてありがとうなのだろう。


「なぜ先代魔王はそう願っていたのだ?それはどうしてわかったのだ。」


「はい。先代魔王は、記憶を持ったまま元の世界に帰られた勇者様でした。」


なに?記憶を持ったままってことは、変人扱いされて記憶を消されるようになったその前のことなのか?しかし<天の声>によると、たぶん先々代の魔王が君臨した時代以降は記憶は消されていたはずだ。もしかしたら、別の世界で勇者だったのかな。


「なぜそれを知っているのだ?」


「先代魔王様が召喚され、降臨なされたとき、そちらの玉座で多くのお嘆きの言葉を口にされ、その中に記憶に関するお話もございました。そして、意を決された先代魔王は、少しでも多くの勇者を、あまり年月が過ぎないように送り返そうと、力を振り絞られて戦われたのです。」


それって、60年より前に召喚された勇者が記憶を持ったまま元の世界に戻って、また召喚されて先代魔王になったってことか。<天の声>よ、記憶、消えてないぞ、いい加減すぎる!ってことは、もしかして先代魔王はものすごく優しい、いいやつだったってことなのだろうか。


「勇者の召喚と召喚の間には、少なくとも1年の月日が必要です。そこで、初めのうちは召喚されてすぐに力を振るわれていたのですが、長い年月の間に、戦いの中で少しずつ力を失われていき、あなた様が勇者になられたときには力が拮抗して倒すことができず、とうとう逆に先代魔王様が元の世界に帰られました。」


その話が本当なら、魔王は戦うたびに力を失うということだろうか。それとも年齢とともに力が衰えていくという意味なのだろうか。そのあたりは重要な情報になるので、後でもいいから詳しく教えてほしいものだ。


「本当は、あちらの世界に奥様やお子様がいらっしゃって、ご自分が早く元の世界に帰りたかったのに、前途ある若者のためにと頑張られたのです。ご存じかとは思いますが、勇者が召喚される年齢は、あちらの世界で18歳から22歳までです。それに対し、歴代魔王が召喚されるのは、若くても40歳以上になります。魔王様のようにお若い魔王様は、今までに召喚されたことがなく、私たちも驚いております。」


 そうか、魔王や召喚年齢のことは<天の声>に聞いていなかったな。新しい情報だが、その話が本当なら私はどうして召喚されたのだろう。魔族も驚くほど若い魔王か、若くても40代の魔王ばかりだったのに、20代の魔王が召喚されればまあ、誰でも驚くだろうな。


しかし、話が本当なら先代の魔王は勇者のために戦ったことになる。たしかに私以外の勇者達は、召還後少なくとも1年以内には元の世界に戻っていった。そして戻りたかった魔王は私に倒され、やっと戻ることができたので<ありがとう>なのか。これは余計に混乱する情報だ。


「魔王様!私は魔王様について、この身を挺してもお伝えし、お願いしたいことがあります!」


あぁ、まだ1人いたんだった。ミルノ、これ以上頭を混乱させて欲しくないんだが。でももう聞かないとは言えないなぁ。


「いえ、どうしても聞いていただきたいのです!」


あ、やばいな。頭の中で強く思ったから?口に出さずにミルノに伝わってしまったらしい。仕方ない、言葉で言おう。


「話してみよ。」


「魔王様、私は先の勇者として戦われた目の前の魔王様を尊敬しておりました。」


おいおい。何を言い出すかと思えば、急に勇者の時のことを褒められ尊敬していたと言われてもな。いったいここからどんな展開になるんだ。早く結論を言って欲しいんだが。


「そしてこのたび、召喚で降臨された魔王様のお姿が目に入ったとき、感動に打ち震えました。」


いや、目に入ったら痛いよ絶対に。いかん、とうとう混乱して突っ込みに走り出してしまった。もうちょっと頑張ってまじめに聞こう。


「そこで、魔王様にお願いがございます。ぜひ、海や山にいる強大な魔物と戦われて、少しでもお力を落とされた後に勇者と戦い破れてください!」


私に勇者と戦い、負けろと言うことなのか?それと、やっぱり戦うたびに魔王としての力が落ちるらしい。しかし、私が負けて魔族に何の得があるというんだ。魔王城ツアーの前にあれほど考えたが、私が死ぬと魔族の未来は不幸しか思いあたらなかったんだが。


「実は、魔王召喚の儀式は延期も中止もできない魔族の絶対条件です。放棄しても勝手に召喚されてしまします。魔王様を召喚した側なのにこんなことを申しますと、大変ご立腹なさるとは思いますが、少しでも早く元の世界に戻られ、あちらで平和に暮らしていただきたいと思います!」


あぁ、そういうことか。しかし!! 私はこの世界でジュリアと平和に暮らすのだよ!できれば魔族や魔物、人間の間に争いのない、平和な世界で。そのためのアイディアならうれしいんだがなあ。


「ミルノよ、それはできぬ。私はどうしてもこの世界でかなえたい夢があるのだ。その夢を叶えるまでは、勇者の姿であろうと魔王の姿であろうと、あちらの世界には戻れぬ。」


「ジュリア様とご結婚されるのですね!」「ジュリア様とのご結婚ですね!」「ジュリア様と暮らすことですね!」「ジュリア様と・・・・・・。」


一瞬の間をおいて、四天王が声をそろえて叫んだ。やっぱりこの四天王達は呼吸がぴったりだ。しかし、私の心の核心部分を何度もつかれ、しかも合唱のように声をそろえられると、魔王の威厳が崩れ落ちていくような気がする。


「お前達、何をそう興奮しておる。話は聞いた、少し考えるのでさがっておれ。」


これ以上この4人の話につきあうと、頭の中がまとまりそうにないので一旦さがってもらうことにした。


「明後日までに考えをまとめて招集をかけよう。それまでに先の話の情報を集めておくように。」


「わかりました。魔王様、私どもの言葉でお耳を汚し、申し訳ありませんでした。早速行って参ります。」


そしてあっという間に4人の姿が謁見の間から消えた。今の4人の話をよい方に解釈するなら、デザミー魔王軍総指令、ザール魔王軍騎士団長、ミザーナ魔王軍魔法団長、ミルノ魔王軍情報団長は、人間よりも人情味あふれる魔族のような気がする。本当のところはどうなのだろう。いや、あの口ぶりからして、たぶん本当に人情に厚い魔族なのだろう。しかも、とても息の合った。

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