【第7話 婚約そして新メンバー】
「フィル、おはよう!」
「ジュリ!おはようっていうか、えらく急ぎで色々企んだね。こっちは大変だったよ。」
「マシュウくん、喜んでた?」
「嬉しそうだけど、迷宮調査が中断することを結構気にしていたよ。」
「そっか、フィルたちまで巻き込んじゃってごめんね。」
「旅に影響ない程度とはほど遠い結果になったけど、なったものは仕方ないよ。」
「なんかね、お父さんや叔父さんたちが、ものすごく乗り気で暴走しちゃったみたい。」
「了解。ミルの情報団員が里帰りを兼ねて同行するらしいから、確実に今日ルラで戻れそうだ。」
「わかった。ミルマ公国のお屋敷で待ってるね。」
「うん。みんなにもそう伝えておいてくれ。じゃ、後でね。」
「はい。待ってます!」
食堂に集合して朝食を食べていると、昨日の晩ご飯をごちそうになって宿者たちに改めてお礼とお祝いの言葉をたくさんもらった。迷宮探査の装備や食料は宿の倉庫に一時保管してもらい、倉庫の脇の部屋に集まってルラでミルマ公国の屋敷に飛ぶ。
なんとか俺の魔力で屋敷に無事に到着できた。屋敷にはジュリとメアリ、ソーニャにキュエルが待っていて、マシュウくんは速攻でキュエルに拉致されていった。たぶん王城に連れて行かれたんだろう。残った俺たちはバルニアでの出来事やメビス迷宮の様子を土産話にして少しだけ盛り上がった。
ジュリが言うには、なんでも俺たちは王城の昼食会に招待されているらしい。昼食会の後、正式にナディア姫とマシュウくんの婚約発表をするらしい。ミルの開発した増幅装置を使い、テルビジョンで大陸中の人に知らせるイベントで盛り上がっているようだ。
俺たちはとりあえず風呂に入って旅の装備から正装に着替え、昼前に馬車で王城に向かった。城下ではすでに婚約の話しで持ちきりだった。魔族との戦いがなくなったとはいえ、勇者が王家に入ることは、王家にとっても国の民にとっても名誉なことだ。
城下では婚約の正式発表に合わせて祝賀会が至るところで計画されている。もう、国を挙げての大宴会が始まることは間違いないようだ。ここは素直にこの流れに乗ってしっかり楽しませてもらおう。
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「そこで提案なんだが、勇者マシュウくんの代わりにソルトを連れて行ってくれないだろうか。」
「私からもお願いします。ソルトは責任感が強くて気配りもよくできるんだけど、自分に厳しくて自分のことを後回しにし過ぎるの。そのために悲しんでる娘がいるのに気づかない鈍感さんでもあるのよ。」
「そこはマシュウくんに似てるのかな?」
「いえ、私は鈍感じゃなくて言い出せなかっただけです!」
「言わないとわからないこともあるのよ、マシュウくん。」
「まあまぁ、そこはもうクリアしたんだから、ソルトくんについての話を進めようよ。」
そんな感じでキュエルとナディア姫がソルトくんをパーティーメンバーに押してきた。そういえばミルやソーニャはソルトくんが好きなのはナディア姫だって言ってたけど、結局違うのかな?ソルトくんに思いを寄せているのは誰でソルトくんの思い人は誰なんだろう。
「ナディア姫、それでソルトくんに思いを寄せているのは誰なんだ?もし旅先で万が一のことがあったら俺たち恨まれないのか?」
「それは大丈夫と思います。王家の娘はそれくらいの覚悟はありますから。」
「あぁ、ソルトくんに思いを寄せる人が誰かわかったよ。ナディア姫もそうだけど、王族のお嬢さんたちってしがらみもなく青春してるよね。」
「女性も真の愛を自分で勝ち取る時代ですから。ジュリアちゃんもそうだったでしょう?ね、フィル様?」
「ブーメラン来た・・・。全くもってその通りですね。」
「でも、フィル様がじゅりあちゃんと無事に式を挙げていたらマシュウ様とも出会えなかったので、変な言い方だけど、そこは感謝いたします。」
「それで、話を戻すけどソルトくんの思い人って誰なの?長い旅になるかもしれないけど、大丈夫なのか?」
「ソルトはまだ自分が弱いので好きな人を守り切れないことが一番心に引っかかっているんです。迷宮でも絶対に私を守り切って生きてメディーナに会うんだってつぶやいていたもの。」
「あぁ、両思いってことか。わかった、連れて行くよ。ただし、もう途中で婚約とか言って戻るのはなしにしてくれ。」
「ご、ごめんなさい。」「す、すみません。」
婚約前から息の合った2人だった。しかし、マシュウくんとナディア姫の場合は勇者と王女だから問題ないけど、ソルトくんとメディーナ姫は大丈夫だろうか。王家を継ぐのはマシュウくんとナディア姫だから、別に問題ないのかな?あまり突っ込んだ話しをする立場でもないし、まぁなんとかなるんだろう。この話しはここで一応終わりとなった。
昼前の婚約発表は盛大に行われた。テルビジョンで大陸全土に婚約発表のシーンが披露され、照れるマシュウくんと頬を赤く染めてマシュウくんに寄り添うナディア姫の姿はとても初々しく、非情に多くの祝福に包まれた披露宴となった。
デルはなぜかミルマ大公やミネア王妃にもよく知られていて、色々と話しかけられていた。愛想よく答えていたが、話を聞きながらものすごい勢いで料理を平らげている様子を見て大公と王妃がいっそう嬉しそうに目を細めたことにデルが気づくことはなかった。
デル、キミの大食いはついに国のトップにまで知れ渡っていたんだね。護衛兵や招待されたラノム国王や王妃、騎士たちも、とても幸せそうな顔でデルの食べっぷりを見ている。デル、キミの大食いは世界を幸せにする力があるのかもしれない。でも、どうして太らないのかが不思議だ。今度聞いてみようかな。
国を挙げての祝い事に水を差す事件もなく、とても平和な一日が過ぎた。この後、マシュウくんはこの国に残り、結婚式に向けての準備や兵士たちの訓練に力を注ぐことになる。マシュウくんがいれば迷宮攻略も進むことだろう。
俺とミーナ、デルは翌日早々にソルトくんと一緒に迷宮に潜り、ソルトくんの力を見てみることにした。分かれてから数週間しか経っていないが、出発前に一緒に迷宮に潜ったときには力を隠していたので、実力を見るのが楽しみだ。もう少しレベルが上がればデルのいいライバルになりそうだと思っていたが、じつはデル以上だったりするとデルが焦るだろうね。
久しぶりのアルタ洞窟。4人パーティーで20階層まで降りてデルとソルトくんが前衛になって魔物を倒す。この階層の魔物はすでに2人のレベルには合わないようなので、2人に自分の実力の限界辺りの魔物が現れるまで下層に降り用途提案する。
2人は顔を合わせてニヤリと笑うと、ゆっくりと下層に向かい歩き始める。どうもお互いにレベルが近くライバルと感じているようだ。結局、2人が共闘するとかなり高レベルの魔物まで倒してしまうので、会えてソロで戦ってもらい結果として27階層まで降りることになった。
実力は十分だし、デルとほぼ同じ反応速度と体術。さすがに魔族とのハーフと言ったところか。でも実はまだ見せていない力を秘めている気がする。まぁ、そのうち見る機会もあるだろう。今日は合格と言うことで屋敷に戻った。
「じゃ、明後日の朝からメビス迷宮の攻略に飛ぶので、明日の夜にはこの屋敷に来てください。新メンバーとしてよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いいたします。精一杯、努めさせていただきます。では、失礼します。」
こうして真珠色の新メンバーのソルトくんを加えた俺とデル、ミーナはメビス迷宮攻略のリスタートを切った。




