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【第4話 魔王になった勇者】

【第4話 魔王になった勇者】


ミザーナが真剣な面持ちで振り返り、片膝をついて私に問いかけた。


「魔王様、私どもの召喚魔法に何か不備はございませんでしたでしょうか?」


ミザーナは王国軍の最高位の魔法使いと同程度の魔法を行使する。多彩な魔法を駆使して苦しめられたものだ。腕力を感じさせるような体格ではなく、どちらかと言えばファッションモデルよりもグラビアアイドルといった体型で、腰のくびれが綺麗な曲線を描き、抜群のスタイルである。整った顔立ちでヨーロッパの白人女性を思わせる目鼻立ちをしている。いわゆる北欧美人というところだ。しかし、魔族なので顔には魔族の紋章が刻まれている。膝下から首までと、肘のやや下までは、体に張り付くような薄いワンピース型の水着を着ているように見える。腰には短めでシースルーのパレオを巻き、胸元は大きく開いていて胸がこぼれ落ちそうだ。そう、本当にこぼれ落ちそうなんだ。つい目を奪われたが、目線をミザーナの目に戻す。


「いや、特に問題はない。体調も良好のようだ。」


「そのお言葉を聞いて安心しました。ありがとうございます。」


それにしても、どうしても気になることがある。この際なので、手っ取り早く確認してみることにしよう。右手で自分の顔をひとなでして、いつも鏡で見ていた自分自身の顔だと確信しながら疑問の答えを求めて口を開く。


「総司令デザミー、私の顔を覚えているか。」


デザミーとは数日前の魔王城戦までに顔を忘れることができないほど刃を交わした。敵の勇者の顔を忘れることはないはずだ。


「はい、魔王様。いつも我らに勇気を与え、攻め入る敵をなぎ倒す偉大な魔王様のご尊顔に間違いございません。」


おかしい。魔族達の目には、私の顔は勇者の顔に見えないのだろうか。もしかすると召喚されたときに姿形も魔王に見えるように変わってしまったのか。自分の手で確かめた自分の顔の感触に自信がなくなってきた。ついでにザールにも聞いてみよう。


「騎士団長ザール、私の顔は魔王の顔か?」


前魔王との戦いの中で、ザールとは100回を超えるほど刃を交わしている。たぶん、お互いにそこのところは共通の認識だろう。それだけに、互いの顔は忘れようがないはずだ。


「はい、私ども魔族が忠誠を誓う、唯一無二の魔王様のご尊顔に間違いありません。」


なんだか自分で確かめた手の感覚が間違いであったかのような答えが返ってくる。あまりにも予想に反した2人の答えに戸惑ってしまった。自分の顔は本当に変わってしまったのだろうか。何か確かめる方法はないものかと考え、とても簡単なことに気がついた。そう、この世界にも鏡があるじゃないか!


「魔王軍情報団長ミルノよ、鏡を持て。」


「わかりました、魔王様。すぐに持って参ります。」


ミルノは返事をすると、瞬間移動したかのようにその場からかき消えた。ミルノは四天王の中では唯一未成年に見える。年の頃なら16,7というところだ。まだあどけなさの残る顔は、私の感覚で言えば可愛いアイドル系の部類に入る。ただ残念に思うのは、顔にはやはり魔族の紋章が刻み込まれているところと、こぼれそうという言葉とは縁のない胸だ。そのうち大きくなるのかもしれないが実に惜しい胸だ。しかし、人間なら今のままでも王国でもベスト3に入るほどの可愛さだろう。体格は華奢で戦闘向きではない。しかし、情報収集に適した魔法を駆使し、非常に高い情報収集能力を持つ。王国の情報は、ほぼ筒抜けの状態だったのが正直なところだ。


しかし、なぜこんなにも魔族達は私に忠実なのだろう。魔王に忠誠を尽くすのはわかるが、私はお前達の仲間や魔王を倒した元勇者だ。もしかすると、本当に私の顔が魔王の顔に変わってしまったのだろうか。先ほど自分の顔を触った感覚や自分の手を見る限り、勇者だったときと何も変わらないように思えるのだが。色々と考えていると、つむじ風とともにミルノが戻ってきた。


「魔王様、こちらの鏡でよろしいでしょうか?」


「うむ、それをこちらに向けよ。」


ミルノが差し向けた鏡に映った顔は、落ちくぼんだ目と、しわにまみれ、まがまがしい妖気を放つ魔王の顔とは違う、勇者であったときの私の顔だ。ただ違うのは、私の顔にも魔族のものと思われる紋章が刻まれていることだ。


「ミルノ、私の顔は、先の魔王とうり二つに見えるか?」


「いえ、先の魔王を超える力を持った、新しき、若々しい魔王様の顔に見えます。」


「では、勇者の顔と比べるとどのように見える?」


「先の勇者よりも強大な魔力と力強さを兼ね備えたご尊顔に見えます。」


う・・。これではらちがあかない。意を決して直接聞くことにした。


「単刀直入にきこう。お前達は、私の顔が先の勇者の顔と同じことに気づかないのか?私自身が先の勇者であるといっているのだ。」


「はい、存じております。」


フロアの魔族は一斉にそう答えた。


「なぜ私が先の勇者だとわかっても、恨みの表情一つも顔に出さず、忠実に従おうとする?何かの思惑があってのことか?」


しばらくの沈黙の後、魔王軍騎士団長のザールが最初に口を開いた。


「恐れながら、魔王様。我々が願いを込めて召喚させていただきました魔王様であるからには、今ここに立っておられるあなた様が、紛うことなく私たちのすべてを捧げる、忠誠を誓うべき魔王様でございます。ましてや、先代の魔王様を倒したほどのお方です。誰とて不服の一つも申しませんし、思いもしませぬ。」


続いて魔王軍情報団長のミルノが口を開く。


「もし、万が一、不満のひとかけらでも心に宿らせる不届き者がおりましたら、私どもの手によって復活できぬ永遠の死を与えます。それが私自身や他の四天王であってもです。魔王様の配下である魔族は、永遠に魔王様に忠誠を誓います。」


「では、そなた達に問おう。もし私が、人間のために魔族全員がミルノの言う<復活できぬ永遠の死>を望めば、お前達はその死を受け入れるのか?」


「もちろんでございます。一言おっしゃっていただければ、私たちは進んでその永遠の死を受け入れます。」


なんということだろう。これでは本当にあっさりと魔王軍を滅ぼすことができるではないか。私がこの魔族達に永遠の死を望むことを伝えるだけで解決するのだ。しかし、本当にそうなのだろうか。疑念をぬぐえないまま、今までに起きたことや今の状況、これからのことを考えるための時間がほしくなった。


「お前達の忠誠心はわかった。私もいらぬことを申した。すまない。しばらく休むこととする。」


「滅相もございません魔王様。私たちが至らず申し訳ございません。」


「床につかれるなら、ご案内いたします。」


「いや、ここでよい、皆の者もさがって休め。ミルノ、配下を使い今からしばらくの間ラノム王国の情報を集めよ。また、すべての魔族の魔王城以外での交戦を禁ずる。ただし、自らの命に危険が及んだ場合はこの限りではない。」


「わかりました魔王様。早速配下の者をラノム王城に潜入させます。」


「うむ。」


このやりとりの後、静かに目をつむると、魔族達は全員この謁見の間から音も立てずに退出した。魔王の能力で魔族の位置を調べても謁見の間の入り口に兵士が4名いるだけであることがわかる。


さて、どうしたものだろう。何から考えるか。祭壇のそばまで来ていたジュリアはあれからどうしただろうか。魔王が召喚されたのなら、新しい勇者の召喚の儀も始まる頃だ。新しい勇者はまた3人だろうか?勇者達と戦うことになるのだろうか。いや、ジュリアを含め、王国の友や兵士、庶民を絶対に傷つけたくない。


このまま魔族を<復活できぬ永遠の死>によってこの世から消し去っても、魔王が生きていればまた勇者は召喚される。私が死んで勇者が元の世界に戻っても100年後にはまた魔王が召喚される。魔族が勇者に死を与えれば勇者達は元の世界に戻れるが、また召喚されてしまう。この流れは、解決することのできない、永遠に終わることのないループの世界のようだ。


魔王である私が自らの命を絶てば、100年間は平和な世界が続くことになる。勇者もその100年間は召喚されない。しかし、そうすると残された勇者達は魔王を討伐したことにはならないな。元の世界に戻れないということだ。勇者に打たれなければだめだと言うことか。


しかし、私が倒されたら残された魔族達はどうなる?前魔王を倒したとき、魔族は一時消え去った。しかし、私が魔王として魔族に召喚されたと言うことは、魔王が死んだあとも魔族は生きながらえると言うことだ。魔王がいない100年間、軍に殺され続けるか、自分たちで<復活できぬ永遠の死>を選ぶか・・。魔王のいない魔王軍は、確実に駆逐され、支配されるだろう。そんな無責任な道を私が選んでもいいのだろうか。


考えてみれば、私が勇者として召喚されてからずっと魔族や魔物と戦っていると聞かされ、助力を頼まれたので、あまり深く考えずに自分たちが正義だと思い込んで戦っていたような気がする。もっと魔族のことを知らなければいけない気がする。その後でどうするかを考えても遅くないのではないか。


とりあえず、気分転換が必要だ。魔王城の中は戦いながらここまで必死で上がってきたのでどんな建物なのかもよく知らない。上から下までのんびり回っているうちに良いアイデアが浮かぶかもしれない。そうだ、魔王軍情報団長のミルノにでも案内させよう。いや、可愛いから選んだわけではない。情報団長だから色々詳しいと思ったんだ。そうなんだ、うん。


ついでに勝手に頭に浮かんでくる魔王の能力を色々と試してみよう。

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