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【第6話 純情メビス迷宮】

「フィル、起きてる?あ、いた、おはよう!」

「ジュリア、おはよう!元気そうだね。」

「今日は迷宮に行くんだよね。マシュウくん、どんな様子だった?」

「むちゃくちゃ緊張していたけど、どうやら脈があるっていうより嬉しそうだよ。」

「よかった。いまね、屋敷に戻ってきてるんだけど、ナディアは昨日から一緒にお泊まりして作戦練ってたの。」

「ほ、ほどほどにね。旅に影響ない程度にお願い。」

「任せておいて。じゃ、マシュウくんのところに移動するね。」

「はいな。行ってらっしゃい。」


いよいよマシュウくんの正念場か。この後のマシュウくんの様子が楽しみだな。そういえば、ソルトくんの思い人が誰か聞くのを忘れてた。まぁそんなに興味があるわけでもないからいいか。


朝食を摂っているとマシュウくんがえらく嬉しそうに降りてきた。どうだったか聞く必要もなさそうだ。しばらく無関心を装っておこう。迷宮に集中しなきゃね。


朝食を終えた俺たちは、中庭に移動して出発することにした。見送りに来てくれた兵士や冒険者たち、ハルス公爵と奥さんのラフィーヌさん、カティーナ、ティア-ネやお世話になった方たちにお礼を言ってカフスくんの周りに集まりルウで出発した。


到着した場所は拍子抜けするほど開けた街の中だった。目の前に『迷宮入り口』と書いてある巨大な看板がある。


「フィルさん、ここが最近はやりの迷宮入り口です。遺跡はこの街の北門を出てそのまま北に少し進んだところにあります。昼間は若者のデートスポットですが、夜になるとどこからか魔物が沸いてくるので誰も行きません。」


「ありがとうカフスくん。旅が終わったら、また顔を出しに行くよ。皆さんによろしく伝えておいてください。」

「わかりました。こちらこそ、色々とありがとうございました。よい旅を!」


カフスくんがすぐにルラで戻っていったので、俺たちはまず宿を探した。迷宮と遺跡の攻略に数日かかりそうなので、宿に腰を落ち着けてから食料は必要なものを揃えて遺跡の方から調べに行くことにした。


街の中心から少し北寄りの落ち着いた感じのところにミルの配下が経営している宿があったので、そこに即決した。みんなは街の様子を見て回るというので、俺は1人で散歩を兼ねて遺跡に行ってみることにした。


北門を出ると、もう前方に遺跡らしきものが見えている。意外と近い。多分ここが正面入り口だったんだろう。大きな石門の崩れた後が赤土に半分埋まった状態で横たわっている。


奥に進むとなんだかいちゃいちゃとお花畑状態の2人組が数組いたが、構わず中央付近まで進む。大きな亀裂が周りから落ち込んだ土や脊柱で埋まった状態で、とてもこの下から地下に進むのは無理そうだ。


ざっと全体を見て回ったが、入り口らしきものがない。やっぱり街の迷宮入り口から入るのが妥当だろう。しかし、夜になると魔物が沸いてくるというなら、きっとどこかに魔物の出入りする穴があるはずだ。今晩また来てみることにして街に戻った。


街でギルドに顔を出して冒険者たちから迷宮の様子を聞いてみた。主な魔物は甲虫や八虫類型で、火と氷の魔法でなんとか倒せているようだ。現在の到達階層は16階層で、アルタ迷宮で見られたモノリスはないようだが、10階層で転移魔方陣が見つかっているそうだ。多分20階層に行けば10階層との行き来が可能になるんだろう。


宿に戻って昼食を済ませた俺たちは、街で必要なものを買い込んで夜に迷宮の下見に行くことにした。迷宮入り口で、1人銅貨3枚を払いギルドカードを見せて入場リストに名前と職業を書いてという流れはアルタ迷宮と同じだ。


地下に入ると外より多くの人がひしめき合って地図や回復アイテム、食料の販売をしていたり、魔物のドロップアイテムの売買も行われていた。テントも多数見られる。もしかして、ずっとここに住んでいるのか?


デルとミーナが先頭を切って進み、俺とマシュウくんが並んで後を着いていく形で下層へと降りていく。事前に16階層までのマップを買っていたのでルートは把握できているんだが、パーティーのレベルが高いためか、それとも冒険者たちが多くて狩り尽くされているからなのか、冒険者たちと戦っている以外のモンスターに出会うことなく16階層まで降りてきた。


16階層でもいくつかのパーティーが魔物を狩っている。結構ハードな戦いをしているパーティーもあるな。ここから先はマップがないのでマッピングしながら進んでいく。


前回の迷宮探索で効率的なマッピングに慣れているので、4人で手分けしてマッピングを開始する。1階層のマッピングに要する時間は平均15分程度のペースだ。


誰が言い出したのか、いつの間にか下層に降りる階段を見つけた数が一番少ない者が晩飯代を出すことになったので、みんな楽しそうにマッピングをしている。


楽しい時間はあっという間に過ぎるとよく言うが、気がついたら4時間かからずに30階層まで到着していた。この迷宮に階層主らしき魔物は見られなかった。


「マスター、ここの迷宮も30階層まで来ましたが、強力なモンスターには出会いませんね。最下層はまだまだなんでしょうか?」

「ミーナ、今日はここまでにして、最下層は明日の楽しみにしておこう。」

「それがいいです。街に戻ってご飯にしましょうよ。俺腹が減っちゃった。」

「デルさんは相変わらずですね。ところで、私は皆さんに相談があるのですが。」


お?マシュウくん、それってまさかナディア姫のことじゃないだろうね。っていうか、皆さんと言うからには真珠色の翼のメンバー構成に関係することなのか?


「ええとですね、今朝、ナディア姫からテルビジョンが来たのです。」

「よかったね!」

「おぉ、マシュウさんは、モテますねぇ。」

「こらデル、話の腰を折らないで。いいよ、話してくださいマシュウさん。」


「この度、わたくしマシュウは、ナディア姫と婚約することになりまして。」

「はぁ?なんでいきなりそんなことに!急過ぎだろう。」

「は、はい。なぜか、お付き合いを申し込まれまして、この旅が終わってからのお返事でと申したのですが。」

「それが何で婚約に?」

「『他に好きな人がいらっしゃるのですね』と言って泣かれてしまい、パニクって思わず『いえ結婚したいくらい好きです!』って言ったら『では結婚してください。』『は、はい。』っと言う流れで・・・。」

「何ですかそれ。本当は好きじゃないんですか?」

「そんなことはありません!ずっと気になっていた女性で、ただ身分がとか、色々考えてしまって。」

「好きならいいじゃないか。婚約おめでとう!」

「それでですね、ここの迷宮探査が終わったら、一度きちんとした話をしにミルマ公国に戻ってこいとミルマ大公殿下および王妃のミネア様から言われて、さらにはラノム国王の承諾もとってあるそうです。とりあえず戻らなくてはならないかと。」

「え?ナディア姫のテルビジョンに大公と王妃も参加してたの?ラノム国王の承諾まで?」

「はい。」

「なんかそれって半分以上はめられた感が強いな。まぁ、2人が幸せならいいんだけどね。」

「申し訳ありません。」


俺たちは話し合い、明日はミルマ公国に戻ることになった。大陸の地図も手に入り位置関係も掴めたので、俺の魔力ならルラも使えるだろうから明日試しに飛んでみる。無理だったら北のルーマ王国にあるヨシルから船でキャベルまで行き、ルラで飛ぶことにした。


とりあえず宿に戻って祝賀会をすることになり、4人揃って転移魔方陣で10階まで戻る。魔方陣の側にいた人たちがむちゃくちゃ驚いて後ずさっていたのにはこっちもびっくりした。そういえば転移魔方陣を使うための階層までは、誰も到達していなかったな。


こっちのメンバーは気にせず迷宮入り口まで戻ったんだが、魔方陣の場所から着いてきた冒険者たちから下層の話を聞かせてくれとせがまれたので、デルに説明を任せてさっさと宿に戻った。


宿では宴会の準備が進み、ちょうどその宿に泊まる人たちにも料理や酒を振る舞うことになった。デルが戻り、一息ついてから食堂に行き、デルの乾杯の合図で宴会がスタート。


「マシュウさん、婚約おめでとうございます!ご列席の皆様、今宵は冒険者グループ真珠色の翼のマスター、フィル様のおごりです。ご一緒に祝っていただけると幸いです。乾杯!」


おいおい、俺の払いか?そういえば、下層への階段探し、俺とマシュウくんが最下位だっけ。デルのやつ、自分が払わなくていいからって一般宿者まで巻き込みやがって。なんだか自分の立場が『魔王』から本当の『仲間』として扱われてると感じで嬉しくなったのは秘密だ。そして祝宴は深夜まで続いた。

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