【第4話 実戦訓練スタート】
「お、おはようジュリ。どうしてここに?」
「それはね、こういうことよ。」
隣に現れたのはソーニャ、キュエル。
「ジャーン、フィル様おはようです。念話増幅装置の完成披露でした!」
「フィル、残念だがこれはテルビジョンだぜ。俺に会いたかったら早く帰ってこい。」
「いや、別にキュエルに会いたいわけじゃないし。」
「じゃあ、いったい誰に会いたいんでしょうねぇ、うふふ。」
「キュエル、ソーニャ、あんまりいじめちゃだめよ、フィルが困ってる。」
「はぁい。」
テルビジョンの効率的な使い方を国王と話し合うためにジュリとミルは昨日から2日ほどラノム王国に行っている。先日俺の念話をキャッチしたジュリが、ミルに返事が届かないと愚痴ったところ、密かに開発していた増幅装置の試運転を兼ねて朝から使ってみたそうだ。
ご丁寧にも、ジュリが使っている香水と同じものをわざわざ朝早くから団員に用意させて部屋に振りまいていたらしい。挨拶が終わるとすぐにテルビジョンは切れた。増幅装置の限界らしい。
昨日旅に出たばかりなのに、ジュリの姿を見て声を聞いたらなぜかとても心が落ち着く。身軽な服装に着替えてドアを出ると、ほぼ同時にマシュウくんがドアから飛び出してきた。
「マスター、幻覚魔法の攻撃だ!」
「幻覚魔法?」
「今、部屋に、ナディア姫が現れて『おはよう』と言って消えたんだ。」
「ほう、それは大変だね。それ、夢じゃないよね。」
「夢じゃない。間違いなくナディア姫だった。」
「それで、マシュウくんはちゃんと『おはよう』って言ったのかな?」
「いや、何も・・・。」
「ナディア姫も、かわいそうに。」
「いや、マスター、幻覚魔法の攻撃だぞ。」
「きっとそれ、テルビジョンだよ。」
「え?」
「俺はさっき、ジュリやキュエル、ソ-ニャから来たよ。」
「どうして私の所にはナディア姫が?」
「鈍感さん、それが乙女心ってやつだよ。」
「?????」
マシュウくんには次があれば、ちゃんと返事を返すように言って階段を降りた。朝食の場所にはデルとミーナが先に席に着いていた。この2人にもミルとジュリからのテルビジョンが来ていたそうだ。俺は朝からからかわれたことは秘密にしておいた。
マシュウくんは根っからのまじめ人間だから一筋縄じゃ行かないってナディア姫に伝えた方が良いかな?いや、人の恋路に手を出すのはヘルプが来てからか。デルとミーナとそっと見守ることにしようと話し合った。
午前の訓練は、俺とデル、マシュウくんがまず剣技と魔物の弱点攻撃についてレクチャーし、その後武器に魔法を付与するいくつかの方法を教えた。
ミーナは少量の魔力で防御魔法を張り結界を作る方法をレクチャーし、体の中に空間を持つ魔物に有効な火炎魔法フレアの使いどころを教えた。
午後はそれぞれ個別に課題に取り組みながら、順番に俺たちと木刀を使って実技訓練をした。レベルは低いが、なかなか筋の良い兵士が多いので3日で仕上げるのも十分可能だろう。明日の実戦訓練が楽しみだ。
初日を終えてかなり動きや魔法の使い方が上達した兵士たちに、勝手に外で力試しをしないように十分言い聞かせて解散し、ここの責任者のサイラスさんにもよく言い含めて訓練場の出口に向かった。
出口の手前ではマシュウくんが兵士たちに囲まれて、鉾の扱いについての質問攻めに遭っていたが、世話好きのマシュウくんのことだからそのままスルーして置くとしよう。
廊下を歩いて行くと、ミーナが若い女性兵士たちに何かを教えている。恋のレクチャーかな?そういえばデルも訓練場で男の兵士たちに囲まれていたっけ。青春してるなあ。
***
翌日の実戦訓練では、トカゲ型の小さな個体を相手に3人一組での戦い方を試す。長いシッポの攻撃と舌の攻撃を警戒しつつ、右に注意を引きつけて正面を囮にして左から首に切りつけ落とす。何度かの実践でコツが掴めると、魔法のフレアで目の瞬膜を閉じさせると同時に切りつける方法なども試させてみた。
本当にここの兵士たちの成長は目を見張るものがある。単純な戦い方を地道に練習していたので基本が体に染みついているからか、応用することを教えると1時間もかからすに身につけてしまう。
工夫を自分達で考えられるようになってきたので、基本の戦闘知識はもう俺たちが教えることはほとんどなさそうだ。午後からは自分達で戦う方法を考させてみるか。
午後はサソリ型の個体で実践訓練をしてみた。数体を俺たちで倒して見せ、サソリの攻撃パターンを覚えさせる。その後は自分達でフォーメイションや戦い方を話し合わせてグループごとに順番にサソリ型の魔物と戦わせてみた。
サソリ型はシッポには毒があるが、体の構造から体をひねらないと真横には毒針が向かない。前方を意識させて尾が上を向いているときに斜め後方から剣で尾を切り落とせばいい。
他には尾を前方に差し出したときに下腹の柔らかい部分に切りつける。尾が機能しなくなったら関節部に剣を刺して健を切り動けなくする。
そして大きな個体を相手にするときは魔法で腹部の空間に火炎弾を作り出して腹部を破裂させる。そうしておいてとどめをさせばいい。各グループは数度の実践と話し合いで、これらを組み合わせて臨機応変に狩ることができるようになった。
いよいよ明日は最終日。大型の魔物を相手にサポートなしで魔物を狩ってもらう。大型の側にいる中小型のモンスターも俺たちは手を出さず、しっかり対応してもらう予定だ。
明日はこの街にいる冒険者も多数参加するようで、この街では久しぶりの大規模な魔物狩りの実施になるようだ。これが終わったらバルニアの南方にあるメビスに向かう予定だ。そこには遺跡とダンジョンがあるということなので、もしかしたら何かの情報が得られるかもしれない。
ちなみにその街へは訓練のお礼にカティーナの弟のカフスがルウで送ってくれるように話がついている。カフスはこの2日の訓練で素晴らしい成長をしている。たぶん訓練の参加者の中でも3本の指に入る強さだろう。
さて、夕食が終わり風呂にも入ったことだし、バルニアの村の辺りまで大型の魔物の巣を探しに行ってくるか。廊下に出ると大勢の人だかり。ミーナ、マシュウくん、デルの部屋の戸が開けっ放しになっている。
なんか、各部屋の中では魔法や鉾、剣の有効な使い方とかのレクチャーが始まっていた。中に入りきれない兵士たちが廊下に溢れて声を抑えて説明を聞き逃すまいとしている。すごいね、この向上心!
そういえば俺の所に聞きに来ないのはなぜだろう?なんだかちょっと羨ましくなったけど、そんなそぶりは見せずにその横を通り過ぎて夜の門を目指して歩く。明日の訓練にちょうど良い魔物が早く見つかるといいな。




