【第13話 魔族の正体と戦いの発端】
ミルマ公国の貴賓室では、俺を含む各国の代表(といっても国王だけどね)とモノリスの研究チームが真剣な顔で話し合いをしていた。この大陸の王たちは、魔族との戦いや魔物との戦いを除き、人族同士での争いが起こることなく、ある意味平和な世界に長く浸ってきた。そのせいで危機感というものが少ないようなので、俺がそこを指摘する展開になった。
「では、16階層で見つかった細菌に感染すると魔力が身につき、32階層で見つかった細菌に感染すると魔族になるということに間違いはないのか?」
「いえ正確には、32階層で見つかった細菌だけでは勇者レベルの力と魔力を得ることになります。16階層の細菌に感染したあとに32階層の細菌に感染すると魔族と同等の能力、正確には魔族になります。」
「ということは、魔族は元々人族ということなのか?」
「はい、それは間違いありません。モノリスに書かれた文章にはそう書かれています。」
「16階層の細菌は魔力を生み出す力を与え、32階層の細菌はその変種で魔力と力を生み出す力を与えます。その両方とも、一度体に入り込むと体を細胞レベルで変化させ、親から子へも遺伝するようになります。」
「それは取り除くことはできないのか?」
「新しく特殊な魔法を作れば、またはこの細菌に対応した薬を開発すれば可能かもしれません。しかし、この世の中から魔力を消滅させるようなことを望む者がいるでしょうか。」
「うむ、それはいないとは思うが。」
「皆さん、俺はこの細菌を利用することの恐ろしさを考えたのですが、お話ししてもよろしいでしょうか?」
「恐ろしさ?いったいどんな恐ろしいことがあるというのだ?魔族になるといっても人族と同じならばそんなに問題でもないだろう。」
「私もそう思うが他に何があるというのだ?ぜひ聞かせてくれ。」
「ではお話しします。フィレン王国の乗っ取りを進めた魔女ルミスは、魔物を矢に変化させて私達を襲いました。おわかりのように魔物に殺されると復活できません。この方法は、今までこの大陸にはなかったものです。」
「うむ、私もその事実を知ったときに戦慄を覚えた。まさかそんな方法があるとは気づきもしなかったからな。」
「この細菌は魔力を持たない人々に感染させて魔法が使えるようにできます。魔力を持たないよその大陸の人なら、いくらお金を払ってでも魔力を身につけたいという人も多いでしょう。やり方によっては大金を手に入れることができます。」
「当然そうなるだろう。しかし、この大陸に来れば魔力を得られるとわかれば、魔法が使えない人が集まり交易も盛んになるから国が栄えるのではないか?」
「それだけではありません。もしこの事実が広まれば、よその大陸の大国が黙っているとは思えません。32階層の細菌を手に入れれば簡単に勇者や魔族と同等の力を得ることができるわけですから、細菌を奪おうとして数々の新たな敵が攻めてくるでしょう。」
「あぁそうか!魔族や勇者レベルの能力と魔力を持った戦士を大量に増やせるなら奪おうとするわけか。」
「その通りです。例えばラウデン王国は敗戦後、魔法使いの育成に力を入れ始めました。この細菌の情報を得れば、当然死にものぐるいで狙ってくるでしょう。なんといっても最強の軍隊があっという間にできるのですから。そのほかの大国も同じです。またこの大陸が戦渦に飲み込まれるのは明らかですよ。」
「それは困る。なにか良い方法はないものか。」
「そうですな。32階層の細菌は秘密にして誰も手が出せないところに封印する方が良いですな。」
「それは賛成だが、安全な場所はやはり迷宮の最下層ということか。」
「そうですね、迷宮の最下層か、それとも魔王城の中が良いと思います。」
「おぉ、魔王城なら一番良いではないか。最強の戦士で溢れておれば安心できる。」
そういうわけで、16階層の細菌は各国が研究用に少しずつ、残りは32階層の細菌とともに魔王城に保管することになった。この場では敢えて言わなかったが、これらの細菌を体から排除する新魔法や新薬を作ればこの世界から魔法も魔族も消し去ることができ、実はすでに俺はその魔法を完成させている。迷宮の魔物で試し、実用性も確認済みだ。
この世界にも病気は細菌がもたらすという考え方は根付いている。詳しい研究が進んでいないのは解毒魔法や再生魔法など、魔法に頼ってきたためだ。細胞や細菌に関する専門的な知識がないと、細菌の除去魔法や除去するための新薬は作れないだろう。俺が除去魔法を完成させることができたのは、元の世界で大学生のときに培った知識があったためだ。
「次にモノリスの解析でわかった人族と魔族の争いの原因についてです。」
「本当にわかったのか?」
「はい。すべて書いてありました。その文を発表します。」
『新発見の細菌による感染により魔力と体力が驚異的に上がる。彼らを人と区別し魔族と呼ぶ。魔族の一部が魔物と融合し大陸を支配しようとする。彼らを悪魔と呼ぶ。人族と魔族は協力して勇者と魔王を召喚し悪魔を退ける。魔族は争いを避けゴムラに移住する。魔族を恐れた人族は新たな勇者を召喚して魔王討伐を始める。魔族は対抗し魔王を召喚し今も戦いは続く。』
「悪魔は生き残ってよその大陸に行ったのか全滅したのかは不明です。また、悪魔に関する記述はどの国にも残っておりません。」
「この内容が本当なら悪魔討伐後に人族が魔族に戦いを挑んだことになる。」
「魔族の力を脅威に感じることは理解するがちとひどいな。」
「この事実は人族にとってつらいものだが公開せねばならんな」
「最後に転移魔方陣のことですが、未だに動作することは間違いありませんが、どこに転移するのかは調査が進まずわかりません。こればかりは実際に使ってみないことにはわかりようがないのです。」
「それについてですが、俺たち真珠色の翼のチームのうち、魔族だけで一度転移してみようと思います。」
「フィル、私も一緒に行かせて!」
「ジュリ、それは無理だ。どんなところに飛ぶかもわからない危険な場所に連れて行くわけにはいかない。」
「うむ、私もジュリアが行くのは反対だ。可愛い娘はフィル殿に嫁にやっても危険な場所にはやれん。」
「お父様、結婚しても良いの?」
「あ、う・・・、うむ、元は同じ人族ということもわかったし、国民も寛容なようだし、し、仕方なかろう。」
「ありがとう!」「おめでとう!」「姪の結婚式か、やっと報われたな!」
こうして突然のことだが俺とジュリの結婚が許可された。結婚してすぐに未亡人にするわけにも行かないということで、俺が転移魔方陣を使って移動し、転移先を確認して無事に戻って来てから式を挙げるということになった。
最後に新しい魔法テルビジョンの魔法術式をその場で公開し、ラノム王国が発祥の魔法ということで一般にも公開することで快諾された。迷宮の32階層にあるモノリスの映像と人族と魔族の争いの発端、魔族は魔力と力が強い人族であるという事実を大陸の全国民に最初に発表することになった。
数日後に俺と真珠色の翼のメンバーは転移魔方陣を使って移動してみることになった。その先に何が待つかはわからないが、もし戻る魔方陣が使えなかったとしてもテルが使えれば戻れる。どんな世界が待っているのかを考えると勇者として召喚されたときのようなワクワクして楽しみでしょうがない自分がいた。
次回から四章に入ります。転移魔方陣の先には何が待っているものは何か。結婚式の日取りはどうなるのでしょうか。




