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【第11話 ソルトの秘密】

ここは27階層の中央に広がる大空間。昼の弁当を食べて腹ごなしを兼ねてマシュウくんとミーナ、デルが10分ほど前から身長5m程度のメタルゴーレムと戦っている。さすがにこの階層になると倒すまでに少し手間取るようだ。俺はソロ、ジュリアはザクとともに周囲を警戒し、たまに襲ってくる魔物を駆逐する。


マシュウくんは現在、勇者レベルで43まで上がり、上層の魔物では伸び率が頭打ちになる頃なので、下層に行けばまたレベル上げできそうだ。それでも人族レベルに換算すると65を超えるし、戦いのセンスはとても高いのでレベル以上の能力を発揮している。ジュリはさっきレベル62になったばかりだ。数ヶ月ぶりのレベルアップでとても喜んでいる。


ミーナは魔族レベル52、デルが魔族レベル44、ザクが魔族レベル65だが、人族より遙かに魔力も身体能力も高い。それぞれ人族レベルに換算すると67、57、84くらいだ。だいたい人族の30%増しと考えればいいだろう。


俺は勇者の頃はレベル57だったので人族ではレベル85くらい。今はまだ魔王レベル1で、魔王はレベルが上がるほど弱くなる。しかし現時点で人族のレベルで100は遙かに超えているだろう。そもそも魔王レベル1で最強なので、どの種族とも能力値の比較対象にならないほどの差がある。


「フィル、そろそろ下層に行きましょうよ。魔物の経験値が良くなってきたから、明日また上がりそうよ。」

「マスター、私も魔物とのレベルバランスが良くなってきましたよ。」

「フィル様、私には少しきつくなってきましたが、そのぶん経験値が多く入ります。」

「ザクはもっと下に行かないとだめですね。私ももう少し下に行きたいです。」

「私は30階層あたりでソロ狩りの限界でしょう。どこまで降りるかはマスターにお任せします。」

「今日は様子見だから、この階層で階段を見つけたら戻るとしよう。」

「了解!」「わかりました。」「了解です!」


迷宮を出ると、一斉に視線が集まり大勢の冒険者や商人たちに囲まれた。下層で狩ったモンスターの皮や牙などのアイテムを譲ってくれと勝手にオークションまで始まってしまう。真珠色の翼グループは、まだ数日しか迷宮に降りていないのに最深部攻略組として認定されたようだ。


仕方がないので冒険者には安目に、商人には通常価格で過剰なアイテムを売り身軽になる。そういえば魔王特権なのか、無限収納ほどではないがかなり入るアイテムボックスにも色々使わないアイテムがあったのでついでにここで処分しよう。


屋敷に戻りみんなで風呂に入って寛いだ後、居間で明日の攻略予定を立て終わったときに来客があった。召使いに案内されて居間にやってきたのは第一王女ナディアと守護騎士ソルトだ。打ち合わせは明日の朝だったはずだが何の用事だろう。


「フィルさん、実は相談があるのですが、時間は大丈夫でしょうか?」

「ナディアさん、ちょうど明日の打ち合わせが終わったところなので大丈夫です。」

「ありがとうございます。いずれはみんなに知られることになりますが、とりあえずはここはだけの話として聞いてもらえますか?」

「はい、構いませんよ。」

「ありがとうございます。」


恋愛話が大好きなソーニャとミルに口を挟まないように念話で注意して話しに耳を傾ける。ナディア姫によると、騎士ソルトは人族の騎士と魔族の母の間に生まれたハーフで、素性を隠しながらアルタの町外れで暮らしていた。12歳になった頃に病で母親を亡くし、14歳になったときに父親がギルドのクエストで魔物を退治に行ったが、イレギュラーに襲われて亡くなる。


10年前にミルマ国王が公国を立ち上げて国内を視察していたときに、たまたま狩りをしていたソルトが目にとまり、その機敏な動きと誠実さに惚れ込んで騎士として育てるために引き取ったそうだ。もちろんハーフであることを知っているらしい。


「迷宮でも一緒に攻略組として最深部に潜っていましたが、私が迷宮についていくと、ソルトは私を守ることを優先して本当の力を発揮できないんです。そこで、ソルトを実力に見合った階層でもっと力をつけて欲しいのです。」


「ナディア姫、私は貴女を守るのが仕事です。それが一番大切なことなので、ゆっくりでいいんですよ。」

「でもそれじゃ、思いっきり暴れられないでしょう。あなたが力を隠していること私知ってるのよ。」

「姫、そんなことはありません、買いかぶり過ぎですよ。」


ナディアの話しに割って入ったソルトだが、確かに彼は実力を隠している。先日救助したときには魔力も体力もかなり消耗していたが、それでもケガのひとつも負っていなかった。ナディアを守るために必死だった割にはだ。


「それでは明日の16階層調査のときに、ナディアさんは待機してもらい、ソルトくんにはうちのメンバーと少し下まで行ってもらいましょう。とりあえずはそういうことでいいでしょうか。」

「はい、よろしくお願いします。我が侭を聞いてくださりありがとうございます。」


その後は明日の予定や16階層の調査、特にガラス容器の中身の扱いなどをミルを中心に熱心に話し合っていたが、いつの間にか夕食の時間になったのでナディアとソルトは暇乞いをして帰って行った。


「マスター、絶対にナディアちゃんはソルトくんに恋してますよ。」

「私もそう思う!ソルトくんもまんざらではなさそうだったし。」

「いや、私はそうは見えなかったけど?仲のいい姉妹みたいに感じたよ。」

「勇者様は乙女の恋心がまだわかってないんですよ。絶対間違いなく相思相愛です!」

「はいはい、ミルもソーニャも、もっと核心に迫ってからにしましょうね。まだまだあのお二人には時間がいりそうですもの。」

「ジュリちゃんはいいよね、もう公認みたいなものだし、うふふ。」

「そうよ、先に赤ちゃんを作ってからご両親に結婚の事後承諾っていう手もあるよ。」


「ちょっと、俺たちはあの人たちを裏切らないから。二人とも茶化すのやめてくれ。」

「マスター、そういえば、明日は何人の騎士が一緒に降りる予定でしたか?」

「たぶん調査の研究者を含めて10人くらいだろう。16階層ではじっくり調査してもらうから、ミルたちも一緒に降りて共同研究を頼むよ。」


大人なマシュウくんは話題を上手に変えてくれたので助かった。ソーニャ一人でも対応が苦しいのに、2人組になってあの勢いで迫られるとタジタジだ。


---


ここは16階層のモノリス前。現在、調査のための研究者4名とミルがガラス容器の扱いや保管場所について話し合っているところだ。今から真珠色の翼のメンバーが2人組になり、騎士の2人とグループを組んで4人一組で下層に向かう。


俺はジュリと組み、ソルトくんとサイラスさんを加えた4人組でさらに下層を目指す。マシュウくんとデルは女性騎士のマリンさんとミライさんと組んで14階層に上がりレベル上げと戦い方を教える。ジュリはザクと組んで騎士のヤマテくんとミニーさんと組んで15階層でレベル上げをする予定だ。


これから昼食を挟んだ5時間でどれくらいレベル上げができるだろうか。たぶん騎士のみんなは確実に2レベル以上上がるだろう。みんなの一番の関心事はソルトくんがどれくらい戦えるかだ。たぶん俺たちのグループは18階層あたりまでは行けると思うんだが、とりあえずは行ってみてから判断しよう。


17階層に降りると早速天井の光る石を多めに採取してアイテムボックスに入れる。王城でもかなり貴長品として人気が高く、次に降りたときには是非にといわれたので、ついでにフィレン王国やラノム王国の王たちにもお土産に持って帰ることにした。


相変わらずここは緑の草原が広がり、オークやハイオーク、オーガ、ゴブリンたちが徘徊している。レベルは14階層の魔物と同じくらいだが、魔力が高いので油断は禁物だ。俺はレベルを落としてジュリと一緒にモンスターに近づいてターゲットをとりソルトくんとサイラスさんの元へと誘導する。余分な魔物は近くで処理しようと思ったが、騎士の2人は難なく倒してしまう。


ソルトくんは当然と思ったが、サイラスさんも思ったより巧みな体捌きと剣技であっさりと魔物を倒してしまう。そこですぐに18階層へと移動し、強力な魔物を相手にする。さすがにサイラスさんはソロでの狩りはきついようで、階段のそばで狩ることにしてジュリがサポート役に徹することになった。ジュリにも経験値が入るということで喜んで案に同意した。


俺はソルトくんを連れてさらに奥へと進む。18階層は急激に魔物のレベルが上がる。オーガの上位種や高レベルなハイオークが徘徊しているので、レベルが合えば経験値が多く入るし遭遇戦が楽しめる。


ソルトくんの戦い方は元が我流だったようで、騎士の剣捌きに加えて殴りや蹴りが加わり、まるで高レベルの冒険者のようだ。俺が魔族と戦い始めてから身につけた戦い方をソルトくんはすでに身につけている。この戦い方だけでもレベル以上の強さを発揮する。


ソロで戦っている様子を見ると、人族のレベル的には50辺りだろうか。うちのメンバーでいえばデルより少し下という感じだ。もう少しレベルが上がってからデルと張り合わせたら、お互いにいいライバルになるかもしれない。


「マスター、みんな、そろそろお昼にしましょう。16階層に戻ってきてね。」

「わかった、今18階層でいいところだから、少ししたらから戻るよ。」「了解しました。」「今から戻るね。2人とも頑張ったよ。」


俺はソルトくんが目の前の魔物を倒してから2人で階段のところまで戻り、ジュリとサイラスさんと合流してから16階層に戻った。それにしてもソルトくんは無口だ。さっきから何か言いたげな様子は見せるが話しかけてこない。ま、気長に待ってみることにしよう。


16階層に全員が揃うと、上がったレベル自慢が始まった。確かに一気に2レベルも上がると嬉しいのはわかるが、城に残った後発組の騎士たちにねたまれないようにね。


昼食の後、研究者とミルのチームから今後のガラス容器の扱いについてと、もう一つ重大なことが発表され、それを聞いた全員から一斉に驚きの歓声が上がった。

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