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【第10話 モノリス】

新しく借り入れた屋敷で待っていたのはラノム王国から派遣された侍女のソーニャとメアリとアルマ、それにお目付役の聖堂院副院長のシア、魔王城からはミル、公国からキュエル王子と第一王女ナディアにその侍従と侍女たち、そしてキュエルが手配した屋敷を管理する執事と召使いたちだった。キュエルが手配した執事たちは、みんな俺たちの正体を知った上で、魔族に偏見をもたず自分の仕事に誇りを持って協力するメンバーだそうだ。


紹介が終わったすぐ後に、俺たちは勝手に割り当てられた部屋に放り込まれ、風呂に入って着替えてから客間に来るようにいわれた。侍女たちはジュリにはメアリ、マシュウくんにはアルマ、俺にはソーニャが担当するらしい。また天然の入った茶化すような言葉が聞けそうだ。


客間では、城ではあまり話せないかもしれないからと王女ナディアから先日の救出に関する感謝の言葉とお礼の品をもらい、ジュリとの結婚に協力を惜しまないことをキュエルと共に約束してくれた。公王と王妃も結婚に賛同していることや、公国側から魔族との和平を持ちかける予定だと教えてくれた。


都合の良い展開過ぎる気はするが、2人に感謝の言葉を述べた後にキュエルとナディアに光る石とマップ、モノリスの写しを渡した。2人と従者は今晩の招待で迎えの馬車を準備していることなどの確認をして帰って行った。ジュリが言うには、ジュリとナディアは大の仲良しだそうで、今朝の手紙は俺たちの結婚をすごく楽しみにしていたので絶対に実現するように協力するという内容だったそうだ。


「マスター、私は公国でモノリスの古代文字を研究したいの。今日は一緒にお城に連れて行ってね。」

「問題ないと思うよ。それに16階層にあったガラス容器の中身も解析して欲しいからちょうどいい。」

「フィル、早く謎が解けてすべてが解決するといいね。」

「ジュリア様、いえ、ジュリ様、式の準備はラノム王国で進めておきますね。」

「もぉ、ソーニャったら気が早いです!」

「ソーニャ、あんまりジュリア姫をからかってはいけませんよ。」

「フィル様、迎えの馬車が到着いたしました。そろそろ出発の準備をお願いいたします。」


こうして俺たちは王城に向かい出発した。王城では立食パーティー形式だったが、豪華な料理が並ぶ会場にミルマ公国の公王家族に重臣が勢揃いし、楽団の演奏付でダンスタイム有りと、俺が勇者だった時と同じように国賓待遇で迎えられた。


最初にミルマ大公(国王)とミネア王妃から王女と同行の騎士たちを救出した礼を言われた。この会の後に別室でモノリスの解析結果について報告をしたいので、別室で話をしたいといわれたので快諾した。それとミルの希望である古代文字の研究の協力をお願いすると、快く引き受けてくれた。


その後、ジュリと国王たちは久しぶりの会話で盛り上がっていたので、俺とミーナとザクは、キュエルとナディア、第二王女のメディーナから迷宮の20階層までの様子と16階層の状態を話していた。


マシュウくんは騎士長のウォルフや騎士ヤマテ、サイラスたちに滞在中に手ほどきを受けたいと懇願されて引き受けたようだ。デルはテーブルに張り付いてたっぷりと美味しい料理を堪能している。


「では、そのガラスの容器の中身に関する情報が書かれている可能性も十分あるのですね。」

「そう思います。何かの魔法薬かそれに類するものかもしれません。」

「そして次は32階層にモノリスがあるとお考えなのですね。」

「予想通りに16階層にあったわけですから、そう考えるのが妥当かと思います。」

「今の我々の力では32階層は不可能に近い。しかし是非行ってみたいものです。」


ナディアとメディーナ、キュエルがガラス容器の中身と32階層にあると予想されるモノリスに興味津々で聞いてくる。実際のところ、たぶん32階層は勇者のマシュウくんでも苦しいだろう。しかし、俺たちと一緒ならなんとかなりそうだ。ナディアの強い希望で、両親の許可があればという前提をつけて16階層まで一緒に行くことを約束した。


「フィル、踊りましょ!」

「喜んで、ジュリ。」


王と王妃との話が一段落したのか、ジュリがダンスに誘ってきた。ダンスは得意じゃないけどジュリと踊るのは久しぶりなので即答する。俺たちが踊ると、王と王妃、キュエルとメディーナと、続々とダンスを始める。さすがに王族はダンスがうまい。


いつの間にかナディアがどこからか騎士ソルトを連れてきてダンスを始めた。「ソルトはね、ナディアの幼なじみでお気に入りなの。うまく行くといいわね。」とはジュリの談。俺たちは一曲でダンスを終えてテーブルに側に移動してナディアとソルトを温かいまなざしで見守る。


「ではフィル殿、そろそろ別室で込み入ったお話をしましょう。」

「わかったキュエル。ところでうちのメンバーは全員で行っていいのかい?」

「当然です。料理も運んであるので、あちらで話しながら食事も楽しんでください。」


こうして俺たちはキュエルたちと隣の部屋に入り話し合いをすることになった。国王と王妃からは平和協定の提案が有り、ありがたく締結させてもらう。フィレン王国とともにこれから交流を盛んにして最終的には俺とジュリの結婚式をラノム王国で実現させることも狙いだと断言してくれた。


次に迷宮についての話しだ。たぶん俺の予想通り次のモノリスは32階だと考えられ、公国の騎士数名とナディアを同行させて欲しいという申し出を快諾。とりあえず16階層に遠征拠点を設置してレベル上げも兼ねながら32階層を目指すことになった。


そして解析の結果、重要な内容がモノリスに書かれていたことがわかった。それは、この世界に魔力が生まれた始まりの物語だった。


『人類がこの迷宮を発見した当時は魔物もいない平和な世界だった。迷宮を下っていく段階で、多くの者が風邪に似た症状を発症し、いったん地上に戻った。その病は地上にいた人々にも感染した。熱は3~4日で収まり、そのときから精神をコントロールして使う力が身についた。これを魔力や魔法と呼ぶことになった。ここは、人類の魔法発祥の地である。その証に病気の元をこの容器に収める。』


16階層のモノリスに書かれていた内容は以上だ。一部魔法が使えない人族の住む地方があると聞いているが、ほとんどの人族は魔法を使う。ということは、長い年月を経てこの迷宮から始まった病気が世界中に広がったと考えられる。インフルエンザのような感じだろうか。


魔力は遺伝で新しい命に受け継がれている。ということは、一度感染したら遺伝子情報の中に組み込まれて子に遺伝するということだ。これはまるで原始地球の海の中でミトコンドリアを餌として食べた生物の細胞の中で、ミトコンドリアが共存し、呼吸によって生命活動のエネルギーを作り出す働きを担うようになり、親から子へと受け継がれてきた現象と同じ原理のようだ。


16階層でみつけたモノリスの横にあったガラス容器の中の細菌かウィルスが人間の体内に入ると、全身の細胞に取り込まれながら共存・繁殖し、やがて細胞の一部としてはたらき魔力を作り出す。つまり、魔力を持たない人間に感染させれば魔力が身につくということになる。


この情報は、かなり危険な重要機密事項ではないだろうか。ということで、とりあえず一般公開は控えることになった。しかし、16階層のモノリスには人族と魔族の違いは書かれていない。ということは魔力の大きさが異なる種族の違いが生まれた理由か争うようになった理由辺りは32階層のモノスに書かれている可能性もある。


これからしばらくの間、ゆっくり迷宮の下層に潜り確かめていくことになった。だいたいの話を終えて俺たちは城を後にした。王女や騎士たちは明日一日で迷宮に潜る準備を整えるそうだ。つまり迷宮調査は明後日から行動開始だ。俺たちは明日、真珠色の翼のメンバーと一緒にもう少し深い階層に行ってマッピングしてくるとしよう。


今日も恒例の<おやすみコール>を終えて各自が部屋で床につく。今日はジュリとダンスできたし協力も得られたし、いい1日だった。今晩、みんなが良い夢が見られますように。

次話の投稿は水曜日辺りの予定です。

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