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【第9話 早朝の訪問者】

翌朝、予想通りというか、まだ夜が明けて間もないのにドアをノックする音がした。久しぶりに眠ったのに、こんなときに限って起こされるとは何というバッドタイミングだろう。ドアを開けると騎士の装備に身を包んだ男と後ろに人影が2つ。


「こちらは、フィル殿のお部屋で間違いありませんか?」

「そうですが、こんなに朝早くから、何のご用でしょうか。」


「早朝に失礼します。冒険者の朝は早いと聞いておりましたので、確実に会えるように朝早くから訪問させていただきました。」

「私はミルマ公国の守護騎士でソルトと申します。先日は我が公国の姫を救出してくださりありがとうございます。つきましては、とりあえずはまずお礼を述べたいと思い、お邪魔しました。」


「フィル、妹とうちの兵士たちが世話になった、ありがとう!」

「あれ?キュエルどうしてここに?」


「可愛い妹が行方不明ともなれば俺だって飛んでくるさ。ところでどうしてフィルはここでもその顔なんだ?」

「あぁ、まぁいろいろあってね。この顔でしばらくは過ごそうと思っている。」


「早く誤解が解けるといいな。俺は応援してるから。とにかくこの度はありがとう。それでな、うちの城に招待したいんだが、都合はどうだ?」

「すまん、今日は20階層まで降りる計画だ。王子の誘いを無碍にはできないが、明日でもいいか?」


「20階層ですと!」

「あぁソルト、この人は強いぞ。勇者も一緒だし20階層なんて軽くクリアしてしまう実力の持ち主だよ。」


「そうなのですか、お見それいたしました。それと、キュエル王子とお知り合いのようで、重ねて失礼をお詫び申し上げます。」

「それは気にしないでください。それでキュエル、今晩から町の西にある元貴族の別荘を借りたので、そっちに滞在する予定なんだ。明日は予定をあけるので明日にしてくれると助かるんだけど。」


「わかった、じゃぁ、明日招待することにするよ。時間はその元貴族の別荘に伝えればいいかな?」

「できればそうしてくれ。場所はわかるのか?」


「その別荘って、でかい風呂が2つで2階建てだろう?それ、ラノムに行く前まで俺が住んでいたところだよ。」

「そうなのか。世間は狭いね、なかなか居心地が良さそうなところだ。」

「それは保証するよ。じゃ、ジュリアちゃんはもちろん、メンバー全員を招待するのでよろしくな。」

「了解。」

「フィル様、朝早くからすみませんでした。それでは失礼いたします。」


いつの間にか殿が様に変わってるよ。去り際に侍女からジュリ宛の手紙を預かったので朝食のときにでも渡すとしよう。


「フィル殿、早朝の来客対応ご苦労様。漏れ聞こえたのだが、明日は城に行くことになりそうなのですか?」

「うん、今晩招待状が届くと思いますよ。よろしくお願いします。」


「皆さん、おはようございます!今日は迷宮探査です。頑張ります!」

「ジュリ様、おはようございます!」「ジュリちゃんおはよう、今日も元気そうですね!」

「ジュリ、おはよう。」「ジュリさん、皆さん、おはようございます。」

「マシュウと申します、皆さんよろしくお願いします。」


朝の定例念話にマシュウくんも加わり、いっそう賑やかになってきた。ここで明日の登城について話をする。


「じゃあ、宿を移ってからでも正装を取りに行く時間がいりますね。」

「部屋割りした後にでもみんなで準備時間をとりましょう。」

「そうしていただけると助かります。」

「フィル様とジュリ様、勇者様の着替えは私が準備しておきます。」

「ミル、ありがとう!」「ありがとう!」


朝の念話の後、メンバー全員で朝食を摂り、昼食を買って迷宮入り口に到着する。手紙を読んだジュリからは何も聞いていないが、きっと王族同士の話なのだろう。受付の前に行くと、「時計売り」が自信作と言って時計を売り込んできた。面倒なので勇者の頃にラノム王から送られた立派な懐中時計を見せて引き下がってもらった。


迷宮に入ると昼夜という感覚が無くなってしまうため、迷宮の入場受付で確認される条件の1つが時計を持っていることだ。メンバーの誰かが時計を持っていれば念話で時間の確認ができるので、1つ持っていればいい。


以前は出入り口に「時計屋」といわれる人がいて、念話契約して時間を教えていたが、「時計屋」が寝ていたり詐欺でいなくなったりと問題が多発したため、その後「時計売り」が流行った。しかし粗悪品が多かったため、結局自己責任で準備することになった。未だに「時計売り」もいるけどね。


この世界にはちゃんと機械仕掛けの時計がある。時計は針が円を描くタイプというところは同じだが、24時間という概念ではなく1日は12時間、つまり短針が一周すると1日たったことになる。この時計の精度が高くないために、時間の概念は緩やかだ。


一般社会に腕時計は出回っていないが、懐中時計や壁掛け時計は一家に一台はある。街の中央には時計塔があり、こちらの世界でいうところの1時間おきにベルが鳴るので、家庭や商店では手が空いているときにそのベルが鳴ってから針をあわせるという、のんびりとした生活だ。


今日も時計を見せてメンバー名や帰還時間、挑戦階層を書いて手続きを済ませる。正直に20階層と書くと、今日の受付が満面の笑顔で「12はこう書くんですよ」と言って「12」と書き直してくれた。その後ろでデルやザクは不満げな顔をし、ジュリやマシュウくんたちは首を傾けたりして苦笑いをしている。あえて「ありがとう」と返しておく。こういうのも面白くていいな。


俺たちは2階層から8階層まで飛び、順調に13階層にいく。昨日助けたグループからかなり先までのマップをもらっていたので、途中までは迷わず進めた。さらにマッピングしながら進むと、高レベルの9人が魔物と戦っていた。かなり効率的に魔物を倒した後、リーダーらしき人物が話しかけてきた。


「君たち、この先は魔物も強いぞ。あれ、マシュウさん!」

「やぁウォルフくん、順調みたいだね。」


「公国の名にかけて部下と共に最前線で頑張っています。どうして勇者であるマシュウさんがここに?」

「ちょっと調査で下の階層まで行ってきます。すまないけど先に行かせてもらうよ。」


「それは構いませんが、魔物が強いので他の方々が大変かもしれません。」

「大丈夫だよ、たぶんみんな私よりかなり強いから。」

「えっ???」


驚いた顔で俺たちの顔を順番に確認していくウォルフくん。当然知った顔はいない。マシュウくんがうちのメンバーを紹介してくれたのですべての対応をお任せした。さすが社会人というか、とても社交的で話もうまい。こちらの情報は最小限にして相手を気持ちよく納得させる話術には感心する。


ウォルフくんは一度仲間の元へと戻り話をした後、全員でやってきて14階層への階段が記載されているマッピングデータを渡してくれた。仲間は全員がミルマ公国の騎士で、今日の昼までマッピングをして夜は来賓の歓迎レセプションに戻るそうだ。もしかしてキュエルに招待されたあれかな?


「では、私達は地道に頑張ります。マシュウ様ご一行も気をつけられてください。」

「マップデータをありがとう。みなさんも気をつけて。」


こうして俺たちは階段のある場所へと進む。この辺りに来て気づいたことがある。それはゆっくり移動していると魔物に出会わないことだ。地上でレベル上げしたときは、レベル差があると魔物の出現が悪くなるのは体験したが、迷宮でもこれは変わらないらしい。


14階に降りてからは、分かれ道になる度に分かれてマッピングを続ける。最前線を超えたので他の人に見つかることもない。気兼ねなく実力を出した上で高速移動であっという間にマップデータがたまっていく。


データの共有は、先日俺が提案した念話と同じように画像を送る方法を使った。これは思っていたより簡単な方法で実現できたが、新しい魔法はここ数百年発見されていなかったそうでみんなに絶賛された。俺たちはこの魔法にテルビジョンと名付けたが、一般への公開はラノム王国に戻ってからということにしている。


マッピングの途中で下層への階段が見つかったので、15階層に進む。ここの魔物もまだ相手にならないレベルだ。イレギュラーと出くわしたジュリが一撃で撃破したようなので、予定していた20階層辺りまでは楽に倒せる魔物しかいないようなので楽に進めそうだ。


15階層はとにかく広い空間がいくつかあるだけだった。出現した魔物は大型が中心で、レベル40クラス。一般的な上位騎士なら5人程度で当たれば倒せるだろう。部屋数が少なかったのですぐにマッピングは完了した。階段は一番奥の部屋で、レベル48程度のカマキリ型の魔物がいたが、先行したマシュウくんがフィニッシュブロー一発であっさり排除した。


16階層に降りると慎重にマッピングを開始する。この階層にモノリスがあると考えた理由は簡単だ。モノリスが発見された階層は、2、4,8階層。つまりモノリスが設置されている階層の2倍の数値になっている。8の次は16だと単純に判断したわけだ。ということは、最下層は32階層か64階層あたりだろう。


結局、16階層には魔物は出現しなかった。マッピングもすぐに終わったので、メンバー全員でモノリスの前に集合する。


「マスター、何と書かれているのですか?」

「いや、古代語は知識にないからわからないよ。」

「ミーナも読めないの?」

「ジュリ様、私も読めません。これはミルマ公国の学者に任せた方が良さそうですね。」

「これを王子へのお土産にしましょう。」

「それが良さそうだね。ところで、この横のガラスの壺は何だろうね。」

「えらく厳重に保管されているから、きっと大切なものでしょう。とりあえず置いていきますか?」

「他にここに到達する冒険者もいなさそうだし、置いていこう。」


こうして俺たちはモノリスの文字を複写して17階層へと降りた。17階層は明るい緑の草原と木立の階層だった。天井は光る石が一面に張り付き、その光を受けて緑が生い茂っている。気流魔法エアで天上まで昇り、光る石をサンプルとしてアイテムボックスに入れる。光る石は岩盤からしみ出る液体が結晶化してできている。


この階層で散見されたのは、一般的に地上で見られるオークとハイオーク、オーガとゴブリンだが、なぜか15階層の魔物よりレベルが低い。ただし魔力と使う魔法は強めで知能も少し高かった。この階層だけで食物連鎖をしているようで、こちらを気にかけながらも魔物どうして狩りをしている。


続いて18階層以下に行くと、そこは今までの階層と同じ緑のない世界だった。魔物のレベルも45から50レベル辺りだ。この辺りからは普通に鍛えた騎士や冒険者も苦労しそうだ。32階層が最下層だとしても、そこにいる魔物はかなり強そうだ。人族がたどり着くのは不可能に近いかもしれない。


その後、17階層まで戻って昼食を摂り、再び下層に進んで20階層まで降りたが、この辺りからジュリやデルが魔物を倒すのに少し時間がかかり始めた。これ以上下層に進むには、最低限ペアでの行動が必要だろう。


俺たちは20階層までのマッピングを終えてから迷宮を出て街のギルドに行き、マップデータと光る石を少しだけ渡して新しい宿となる屋敷に向かい、屋敷のドアを開けてびっくりした。そこには懐かしい顔ぶれが集まっていた。

次話の投稿は明日の予定です。

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