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【第8話 迷宮の貴族】

俺を代表とする冒険者グループ「真珠色の翼」の今回の遠征メンバーは、俺とジュリ、ミーナにデル、ザクに加えて勇者マシュウくんの6人。ミーナのルウで飛んだアルタの街は、冒険者や観光客をあてにした軽食や装備を売る露店で賑わい、活気にあふれていた。


迷宮の攻略拠点となる宿は、迷宮入り口から少し離れた場所にとった。民家を改造したのか、小さな風呂とトイレはあるが食堂がない急造の宿だ。迷宮の入り口近くはすでに満員で入れないこともあったが、俺たちのメンバーの性質上、人が少ない方が情報漏れが少ないと判断したためだ。長居をするなら一軒家を借りた方が良さそうだ。


冒険者ギルドに顔を出すと、さっそく迷宮マッピングの依頼を受けた。現在は12階層まで攻略が進んでおり、依頼は13階層以下、一階層ごとに依頼完了の報酬が50%上乗せされていくようだ。依頼は誰でもうけられるが、依頼の完了は一番早く提出した者に支払われる。ただし、マップの提出後に検証が行われ、確認でき次第報酬が支払われるシステムらしい。


俺たちはギルドで12階層までのマップを購入した後、街を観光しながら迷宮攻略用に数日分の携帯食料や水を買い込んで宿に戻った。午前中は宿で迷宮攻略について話し合い、とりあえず初回の迷宮探索は下見に徹することにした。


「マスター、マップに書いてある内容からすると、モノリスのある階層間は転移陣で移動できるようです。」

「でも一度、下の階層も転移陣から上の階層の転移陣に飛ばないと自由に行き来できないみたい。」

「つまり、一度は歩いて下まで降りないといけないのね。」

「うん。ルウが使えない迷宮だけど、この移動魔方陣があるおかげで一度降りれば次は楽に移動できるってことだね。」

「じゃあ今回は最深部の13階層まで降りた後、帰りは8階層まで戻ってから転移陣を使って2階層に飛んで戻るのね。」

「今日の昼食は、それぞれ早めにとってから迷宮入り口に集合しよう。じゃあ、残りの時間は各自自由時間にするよ。とりあえず解散!」


俺はジュリとマシュウくんと3人で中央広場に向かう露店街で昼食を摂りながら、マシュウくんと親交を深めることにした。残りの3人はミルと念話で連絡を取り、今回のメンバーが落ち着ける一軒家を探すことにしたようだ。


「ジュリ、映像魔法のビジョンに似ていて念話みたいに相手の脳に映像を送れる魔法はないの?」

「う~ん、そういえばそんな魔法はないわね。」


「マシュウくんはスマホとか知ってるよね?」

「うん、仕事用と私用の2台を使い分けしてたよ。そういえばこの世界に来て念話が気に入っていたから気づかなかったけど、映像とかも送れるといいのにね。」


「マシュウくん、スマホって何?」

「ええと、手のひらくらいの大きさの薄い板で、相手と直接話をしたり、見ている風景とかを送りあったりできる道具だよ。相手が寝ていても、その板に風景や言葉とか文章を文字で残すことができるんだ。」


「へぇ~、その道具があったら、ものすごく便利かもしれませんね。」

「そうだね、こっちに来てから念話で十分だと思っていたけど、写真とか、あ、写真は自分が見ている風景とかの映像のことだ。それが送れると、いちいち書き留めなくてもいいし見たまま相手に伝わるから説明も楽だよ。」

「そんな便利なものがあったのね。すごいなぁ。」


「そこでね、テルで念話が送れてビジョンで空中に映像が映せるなら、この2つを組み合わせれば念話に映像を一緒に送れるんじゃないかと思うんだ。」

「そっか、それができたらすごく便利よね。でもいままでそんなこと考えたこともなかったなぁ。」


「ちょうどいいことに、俺の魔力はたっぷりあし、これが簡単にできるようになったら、みんなの暮らしが便利になると思うから色々試してみるね。」

「フィルマスター、目の付け所が違いますね。是非成功させて教えてください。」

「私も期待して待ってるね。」


こんな感じで親交を深めながら昼食を終えて迷宮入り口に向かった。入り口付近にはひっきりなしに出入りする冒険者や、冒険者に高めのマップや食料を売り込もうとしたり、安くアイテムを買い取ろうとする露天商やおこぼれに預かろうとする子供たちが集まり賑わっていた。


「マスター今到着しました。少し遠いのですが、なかなかいい物件が見つかりましたので、迷宮から戻ったら一度見に行きましょう。」

「お疲れ様、それは楽しみだね。ここから少し遠くても移動はテルが使えるから大丈夫だよ。」


「それと、先ほど中央広場に20人ほどの騎士や傭兵と思われる人たちが集まっていました。話によると、帰還予定を過ぎても戻ってこない貴族の捜索隊が編成されているということでした。」

「もしその貴族らしきグループに出会ったらついでに助けよう。では出発しましょう!」


迷宮入り口で代表とメンバーの名前やレベルを書き込み、期間予定日時を書いて中に入る。1階層からしばらくは、あまりにも冒険者が多くて魔物の沸きが間に合わないのか、冒険者にしか出会わない。やっと魔物と接触できたのは6階層だった。しかしマシュウくんの鉾の一振りであっけなく倒してしまい、よそ見をしていた俺は生きているその姿を見ることができなかった。


基本的に迷宮の魔物は、そのシステムはわからないが倒しても時間がたつと同じ種類の魔物がその階層に沸く。たまにイレギュラーな下層の強い魔物が上層に現れることがあるが、その階層に出現する魔物より飛び抜けて強いものは現れない。


低レベルの冒険者たちは1~5階層、レベルが上がると転移陣で移動後すぐに狩りができる8階層を起点とした6~10階層に集中していた。攻略組と呼ばれるマッピングを主体とする冒険者のみが11階層以深にいるが、最深部まで行ける冒険者は限られているようだ。


さすがに11階層を過ぎると冒険者の数は急激に減り、それに反して魔物の数が急増した。それでもマシュウくんをはじめとした真珠色のメンバーには魔物の強さは物足りないレベルで、軽い一撃で倒してしまう。このメンバー構成なら楽にもっと深い階層まで行けそうだ。


12階層では4~10人規模のグループで狩りをしている集団をいくつか見つけた。みんな魔物との十分なレベル差を守って狩りをしているようだ。魔物に殺されると聖堂での復活ができないので、十分な安全マージンを取るのが基本だ。レベルを上げるにしても無理は禁物だ。


最深部の13階層に入り、マッピングしながら進んでいると、やや広い場所にアイテムや食料が入ったバッグが散乱していた。たぶんここで魔物の群れに襲われ、アイテムを捨てて避難したのだろう。その先には3つの分岐があり、痕跡から見て3つの通路にバラバラに進んだようだ。


「マスター。どうしますか?」

「本当はこの層から下への階段を見つけてから戻りたいけど、拾ったものは持ち主に届けた方がいいだろうね。」


「賛成ですね、困っているかもしれないので届けてあげましょう。」

「あの捜索隊が探そうとしてる人たちかもしれませんし。」

「助けに行きましょう。」

「この先に下層への階段があるかもしれませんしね。」


全員の意見が一致したので、ペアになってそれぞれマッピングしながら3つの通路を進むことにした。俺とジュリは左、マシュウくんとミーナが中央、デルとザクが右を選び、念話で状況を確認しながら進む。


「中央は右に曲がったところで行き止まりになっていました。一番奥で魔物2匹と冒険者3名が交戦中でしたが、救援要請があったので魔物を排除しました。冒険者は軽傷で、すぐに回復魔法リアで回復させ、今から分岐点に戻るところです。」


「右の通路はさらに分岐があり左は行き止まりでした。今、右に進んでいますが、途中で血痕と槍の刺さった魔物の死体が1体、絶命した冒険者1名の遺体があります。交戦中らしき物音がするので急いで向かいます。」


「左は曲がりくねった長い通路が続いている。バッグが裂けたのか、アイテムが点々と落ちている。急ぎ足で先に進んでいるが、まだ物音も気配も感じない。」


「右の通路奥も行き止まりでした。今、魔物3匹を始末して冒険者2名を救出したところです。2人ともかなり消耗して骨折や擦過傷多数。今、治療と回復中なのでしばらく移動できませんが、動けるようになったら左通路に向かいます。」


「中央通路分岐点より左通路に入りました。急いでマスターたちを追います。」


「左通路、先は大部屋になっている。部屋の左に冒険者4名交戦中。周りは魔物9匹でさらに増加中。今から排除する。」


俺とジュリはエアを使って高速で接近しながらジュリが回復魔法とエアシールド、対物理結界を冒険者たちにかける。俺は冒険者に向かって右から突進していく魔物の前に火炎魔法で壁を作り、足が止まったところに横1m程度の氷の刃を数枚作り出して魔物に向けて放つ。これで魔物5匹が一気に体を切り裂かれ絶命する。


さらに冒険者を追っていたと思われる目の前の魔物に接近し、こちらに気づいて振り向く前の魔物4匹に向かって剣を振るい命を奪う。接近中の他の魔物は、あっという間に死んでしまった仲間を見て足を止め、こちらをうかがいながら逃げていった。


「こちら左通路。魔物の排除完了。冒険者男3名のうち1名が右腕骨折、もう一名は左肩口に深い傷、もう1人は軽傷。女性は1名で軽傷だが精神的なショック状態。他に逃げた仲間なし。デルとザクは遺体を回収して分岐点で冒険者を守りながら待機。俺たちはマシュウくんとミーナが到着次第そちらに戻る。」


「了解です。」「もうすぐ着くよ。」


こうして魔物を排除して襲われていた冒険者の救出は終わった。話を聞くと、マッピング中に出会ったイレギュラー(その階層にいる魔物より数段強い魔物)を振り切ったが、他の魔物をトレイン(注意を引いて引き寄せること)してしまい、さらに上層に戻る途中の通路を魔物の集団に塞がれたため3方向に散会して逃げたらしい。


ジュリが心配そうに女性に声をかけて励ましている。やっぱり女性には女性がついている方がいいだろう。冒険者たちの服装をよく見ると、貴族や騎士団の装備だ。たぶん出発前に聞いた帰還しない貴族たちで間違いないと思われる。


全員が分岐点に揃ったところで、冒険者たちの前後を固めて8階層まで戻り、2階層まで転移して出口に戻った。その間にデルが冒険者たちから13階層のマップをもらったのはナイスプレイだ。


出口を出たところで出発する寸前の集団に出会ったので、救出した冒険者たちを彼らに任せて帰還報告をして宿に戻った。予定より早く帰ってきたのでまだ日も高い。俺たちはそのままお勧めの一軒家を見に行くことにした。


その物件は2年前まで貴族が別荘として使っており、2階建てで部屋数が多い上に大き目の風呂が2つ。宴会に対応できるキッチンや広間もある。俺は即答でそこを借り受けることにした。掃除やメイド、調理師たちは今日中にミルが手配して明日の夕方には使えるようにしてくれるらしい。相変わらず仕事が早いな。


一息ついて宿で明日の予定を話し合った後、街の北側にある有名な温泉に入ってのんびりとした時間を過ごした。夕食は街の食堂でミルマ公国の定番料理を食べたのだが、ここでもデルの大食いパワーが遺憾なく発揮された。新メンバーのマシュウくんや周りの人たちもあきれかえるほどの大食漢で笑いをとり、和やかに一日が追われたのは良かったのだろう。


それと、部屋に戻ってジュリから今日救出した冒険者の中にいた女性がミルマ公国の第一王女ナディアだと聞かされたのは少しびっくりした。宿を聞かれたらしいので、夜の突撃があるかもしれないな。明日はたぶん次のモノリスがあると思われる16階層の探索と、その下の20階層までは行ってみよう。

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