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【第7話 遺跡と地下迷宮】

フィレン王国から魔王城に戻った俺たちは、魔族全員にフィレン王国と平和協定を結んだことを知らせた。元々魔族はリチでフィレン王国の商人やラノム王国の人たちと細々と交易をしており、この発表は歓迎された。これからは、リチを中心として交易を盛んにして親交を深めようと若者を中心に盛り上がっている。


フィレン王国に遠征している間に、重要で新しい情報が入ってきていた。ミルノの配下である情報団員が得た情報を共有するために、四天王がそろって3階の謁見室で内容を協議することになった。


まずラウデン王国について。剣技を主戦力として近隣諸国に攻め込み、国土を広げてきたのだが、今回の敗戦で魔法の重要性を認識し、魔法学校を設立して今後の戦力向上に備えることになった。また、この敗戦で戦力が落ちたため、強制的に国に併合した領地との諍いが頻発し、国の情勢が不安定になっている。そのため、ここ数年は攻めてくる可能性はないようだ。


今日の重要な情報はここからだ。ミルマ公国の北西の街アルタ近くで地下迷宮ダンジョンが発見され、その迷宮が重大な情報を秘めていること。記録も残っていないほど古い遺跡を再調査しているとき、瓦礫の奥に厳重に封印された厚い扉を見つけて開けたところ、薄暗い迷路が続いていることがわかった。


地下に向かって何層も迷路のように広い通路が続いており、魔物も散見されたため、調査を兼ねて冒険者たちにマッピングの依頼を出しており、アルタの街は活気があり、現在の迷宮は冒険者であふれているらしい。


そして一番重要なことは、地下2階と4階、そして現在到達している最深部の地下8階に石版があり、そこに書かれていた古代語を判読した結果、どうも魔族誕生の歴史が綴られているらしいことがわかってきた。そして興味深いのは、さらに深く進めば、その続きが書かれた石版があると予想されることだ。


「フィル様、行ってみましょう。」「行きましょう!」

「この大陸では、しばらく大きな争いもないようだし、冒険者として行ってみよう。今回は誰が行く?」

「マスター、私は当然行きますよ。」「今回は是非参加したいです。」

「私はちょっとよその大陸の情報もまとめるので、今回はパスです。代わりにデルを連れて行ってください。」

「私も魔王城の管理と船を使った交易の準備がありますので、留守番することにします。」


ということで、今回の真珠色の翼のメンバーは、俺とデル、ミーナ、ザールということになった。ラノム国王が許可すればジュリも参加することになる。


「ねぇねぇ、ザールはなんて呼ぶ?」

「ザルでいいんじゃない?」

「サルでいいかも。」

「よくわからないが、みんなの言う名前って、なんだかいやな呼び方に聞こえるんだが。」

「じゃぁなにがいいの?」

「マスター、決めていただけませんか?」


「いきなり振るとろくな名前しか思いつかないぞ?」

「構いません。マスターが決めた名前なら!」

「じゃぁ、えっと、ザクで!」

「かっこいい名前を、ありがとうございます!」


いや、<ザ>で始まる名前で最初に思いついたのは、某アニメで見た汎用ロボットの名前だったのだが、これは内緒にしておこう。こうして話し合いは終わり、明朝にはラノム王国で謁見を願い出て、結果はどうあれその後にミルマ公国の迷宮に向かうことにした。


「フィル、皆さん、おはようございます!」

「ジュリちゃんおはよう!」

「おはようございますジュリ様。」

「ジュリ様、ザールは冒険者ザクとお呼びください!」

「はぁい。ザクさん。」


「ジュリ、今日王城に謁見を願い出に行くよ。誠心誠意、思いを話してみる。もしだめでも、魔族と人族の共存繁栄を目指すことに変わりはない。頑張ってみる。」

「私も当然同席します。私達のこともお願いするね。」

「ごめん、それは最後にするつもりだ。まずは共存のための第一歩からね。」

「わかったわ。待ってるね!」


朝食を済ませた俺たち真珠色の翼のメンバー5人はルウで王都近くに飛び、歩いて王都への門に向かった。すると門の前に2人組の男女がいて、こちらに気づいたのか女性が手を振っている。シコクレンさんとマシュウくんだ。


「フィルさん、皆さんおはようございます。」

「お初にお目にかかります。勇者として召喚された1人でマシュウといいます。」


「おはようございます。いったいどうしたんですか?」

「発見された迷宮に挑むと聞いたので、ご一緒させてもらおうと思いまして。」

「え?お二人ともですか?」

「私は今回はお留守番ですけど、マシュウくんがどうしてもご一緒したいというので、お願いするために待ってたんですよ。」

「どうか、お願いします。最近体がなまってしまって少し力一杯体を動かしたいんですよ。」


よくよく聞いてみると、俺がひよりの兄であり、ジュリアと恋人同士であることや、魔王なのに人族と魔族の共存と平和を望んでいると聞いて興味を持ったので、一緒に迷宮に挑戦しながら俺の人となりを自分自身で確かめてみたいということらしい。とりあえず、国王と王妃との謁見が終わってからその後の話を進めることにした。


フィレン国王の親書もあってすぐに謁見は実現した。武器を控え室に預けて魔法抑制の腕輪をつけた後に見慣れた謁見の間に通されると、その場には勇者の二人が待機しており、しばらくしてドアが開き国王と王妃、そして王女ジュリアが入室する。


俺はまず冒険者として挨拶し、ひとこと断ってから魔法術式を解いてもとの顔を見せる。王も王妃も事前に知っていたようで驚かず、逆に懐かしい友人に接するような優しい表情で問いかけてきた。


「元勇者にしてジュリアの夫となるはずだったフィル、そして今の魔王スフィルネよ。何故この度の謁見を申し出たんじゃ。」

「はい、国王様。この度は図らずも魔王となり、大変ご迷惑をおかけしております。俺は、魔王として召喚されてから今日まで、魔族の人々の暮らしや生き様、考え方を学んできました。そしてこれから俺がやるべきことを見つけたのです。」


こうして俺が魔王として召喚されてから今日までに体験してきたことや、これから自分が何をしようと考え行動しているのかをすべて隠さず伝えた。


「では、本気で魔族と人族がともに手を取り合って共存する世界を作ろうと考えているのじゃな?」

「本当に可能だとお考えなの?」


「少なくとも、この大陸では十分に可能だと思います。そして、この後迷宮に潜り、魔族と人族がどうして戦うようになったかを調査しようと思っています。」


「わかった。其方が先日、我が国を守ってくれたことは間違いない事実だし感謝もしておる。勇者であった頃と同じ勇気と優しさを持ち続けているようにも見える。しかし、国王としては、すぐに話のすべてを受け入れるわけにも行かぬのが現状じゃ。」


「お立場上、すべての話の内容を素直に信じることができないことも理解しています。」


「まずは迷宮に隠された真実を解き明かし、その後、其方や魔族がどう行動するのか、しばらく様子を見させてもらおう。我が国内での行動の自由は保障する。しかし、勇者マシュウ殿の申し出もふまえ、マシュウ殿と行動を共にすることを約束して欲しい。」


「わかりました。ご同行してもらいましょう。」


「フィルさん、もう一つ大切なお話がありますよ。ジュリアのことはどう思っているのですか?」


「もし許可していただけるのなら、おつきあいを継続させていただきたいと思っています。将来的には結婚式の続きも許可していただきたいと思います。」


「お母様、お父様、私もフィル様と添い遂げたいと思います。そして迷宮へも一緒に行きたいと思います。どうかお許しください。」


「お二人の関係は、私たちもなんとかしたいと思っていますよ。でも、今すぐどうこうできるものではありません。」


「そうじゃな、娘の幸せを願わぬ親はおるまい。しかし、今の状態では嫁がせるわけにも行かぬ。フィル殿の思いが本物であれば、これからの其方と魔族の行動次第で自ずと道は開けるじゃろう。迷宮への同行はマシュウ殿と共に行くことが条件で許可しよう。」


「とりあえず、休戦協定を結ぶという形でいったん一区切りつけようと思うが良いか?」

「はい、ご配慮ありがとうございます。これから力を尽くして平和な世界になるようにつとめ、必ず誰もが納得できる形を作り上げます。」


こうしてジュリアの同行の許可をもらい、マシュウくんとジュリアとは明日の朝落ち合って迷宮に飛ぶことになった。謁見の間を退出するときに、王妃から念話で「娘を頼みますよ」と言われたのはみんなには内緒のようだ。

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