【第4話 真珠色のマスターの正体】
魔女ルミスに従っていたラウデン王国の騎士団員約1万9千人を無事にラウデン王国の聖堂院に送り届けた後、王子の待つ本陣に戻り、体制を整えた王子率いる騎士団とともに王都に入った。王都では、侵略してきた敵を討ち滅ぼした王子たちを歓迎する都民であふれていた。
「王子様、早く悪い奴らをやっつけてください!」
「早くラウデン王国から来た奴らを追い出してください!」
「俺たちも一緒に戦うぞ!」
いや君たち、ラウデン王国から来た人たちが全員悪い奴らとは限らないから。そんな突っ込みを入れたそうにしている俺の顔をじっと見つめる視線に気づいた。シコクレンさんとアゲハさんだ。2人を見返すと、シコクレンさんは視線を外したが、アゲハさんはこっちを見たままだ。つまり、見つめ合うことになった。妹よ、俺はだめだぞ?兄妹なんだからね。
「マスター、準備ができました。」
「了解。じゃ、王子2人と近衛兵数人に勇者2人を連れてそちらに行く。」
「はい、お待ちしてます。」
先行したミルとミーナが隠れ家である屋敷とは別の家で待っていた。そこで最後の打ち合わせをする。魔女ルミスに与する者と隷属の腕輪で操られている者には魔法で色違いのマーカーを付けており、王城に突入するメンバーはマーカーが見えるようにする。突入は都民が見守る中で表から行い、同時進行で別働隊が地下から尖塔に入り王と王妃を助け出す。王城2階を制圧後、最上階まで一気に魔女ルミスとその仲間とともに排除していく。こんな感じだ。
実際の突入では、考えられる抵抗はあまりないだろうというのが王子たちの見解だ。魔女の操る魔法はやっかいだが、剣士として主戦力だったガルスはすでに聖堂院に送り届けている。要職にすげ替えられた者たちはたいした魔力も剣技もない。人質を取って抵抗するくらいが関の山だと考えているようだ。
俺としては基本戦力はたいしたことはないと思うが、いくつか気になることはある。それについては、俺の思い過ごしかもしれないのでこちらで対策を考えておくとしよう。シコクレンさんと第2王子が尖塔、それ以外で王城に突入と決まった。潜入している配下からの情報では、魔女たちは籠城を決め込んだのか、特に動きはないらしい。突入は1時間後だ。
「真珠色の翼のマスターさん、ちょっといいかな?突入前に少し話したいんだけど。」
「構いませんよ。この場でいいですか?」
「ちょっと深刻な問題なので、できれば他の人がいないところがいいんだけど。」
「わかりました。2階の一番奥の部屋を使ってください。」
「ミル、ありがとう。」
いったい何の話があるんだろう。そういえば王都に入る前からずっと見られていたな。戦いの前に告白とか、困ります。俺はジュリア一筋ですから。いや、まさか正体に感づかれたか?そんな気配は見せていなかったが、何かまずいことしたかな?ま、考えても仕方ない。とにかく話を聞いてみよう。そう考えながら二階の奥の部屋に入るとシコクレンさんが切り出す。
「マスターさん、あなたの名前はフィルさんでよろしいのですか?」
「はい。ただのフィルですが、何か問題でも?」
「単刀直入にうかがいますが、本当の名前と素性を教えてもらえませんか。」
「本当も何も、全国を旅しながら修行して、先日冒険者登録をしたばかりのただのフィルですが。」
「お兄ちゃん、隠してもばれてるわよ。」
「え?何がばれているのでしょう、特にやましいことに心当たりはありませんが。」
「じゃあ聞くけど、私の名前は何?」
「えっと、アゲハさんですよね?」
「とぼけてもだめよ。ガルスと戦ってるとき、私の名前呼んだでしょう。」
「はい。シコクレンさん、アゲハさんと呼んだと思いますが。」
「う~ん、まだしらばっくれているのか、気づいてないのかどっちなんでしょうね。」
「リプレイしてみよっか。」
「何のことですか?」
『あれれ、真珠色の翼のマスターさん、また押されてるじゃない。』
『頑張って、お兄ちゃん。負けたら敵を討ってあげるからね。』
『シコクレンさんもひよりも、もうしばらく黙って見てろって。』
「あ・・・。」
「ほら、お兄ちゃんじゃない!この間の夜ものぞきに来てたでしょう!そのときも<ひより>って言った!」
「いや、あれはだな、本当に通りすがっただけで。」
「ほら!認めたわね!やっぱりお兄ちゃんだ。意識が戻らなくなって本当に心配してたのに・・・。」
ひよりの目からぽろぽろと涙の粒がこぼれ落ちる。「お兄ちゃんのばか!」そう叫んで俺の胸に飛び込んで泣き続けるひより。シコクレンさんは再会シーンに感動したのか頬を少し赤らめ潤んだ目で俺たちを見ている。シコクレンさん、可愛い。
おれは片手でひよりの背中を抱きよせて優しく頭を撫でる。
「ごめんな、いきなり召喚されて戻れなくなった。寂しい思いをさせたね。」
「ぐすっ、わ、わかってる。私も、同じだったから。逢えてよかった、無事でよかった。」
ちょっと何か言葉に違和感を感じるぞ?ニュアンスが違うぞひより。「会えて」だぞ。
感動の再会ではあるが、困ったことがいくつかできてしまった。俺がひよりと同じ世界から来たということは当然俺が召喚された、つまり元勇者だと誰もが気づく。つまり、俺が元勇者スフィルネ=現魔王だとわかってしまう。
これからのフィレン王国奪還作戦に、魔王と魔族が加わっているとわかれば、当然のことだが、この機に乗じて魔族がフィレン王国を占領するつもりだと考えるのが普通だろう。
そして俺とひよりは魔王と勇者。敵対関係なので、望まなくても戦うことになってしまう。ひよりが参戦しなくても他の勇者はそうはいかないだろう。そしてたぶん、戦わないひよりへの非難も起こるだろう。
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しばらく考えて、2人には俺が知っていることで話せること、俺がしようとしていることを正直に話すことにした。下で待っていたジュリを呼んで、正体がばれたことを話し、じゅりの了解のもとで話し始める。
「すでに気がついていると思うが俺は元勇者で現魔王だ。信じられないかもしれないが、魔族は人族より力と魔力が高いだけで、暮らしや考え方は人族とほとんど変わらない。俺は魔族と人族が争うことなくともに暮らせる平和な世界を作ろうと思っている。」
「でも、お兄ちゃんは魔族とたくさん戦ってきたんでしょう?それでも魔族と人族が平和に暮らせると思うの?」
「そう、俺は元勇者だったときにたくさんの魔族を剣で斬ってきた。でも、そんな俺を魔族は素直に王として受け入れ、従ってくれた。」
「ここからが本題になる。信じられないかもしれないが、勇者は魔王を討伐するか、この世界で死ぬと元の世界に帰れるんだ。それを知っていた歴代の魔王は、積極的に勇者を倒し、少しでも早く元の世界に帰そうとした心優しい異世界からの召喚者だった。」
「魔族は魔王の考えに共鳴して、自分達が傷つき死ぬときの痛みや恐怖を我慢して魔王とともに勇者に相対してきた。勇者が召喚されなければ戦う必要はないんだ。」
「じゃぁ、どうしてラノム王国は勇者を召喚するの?魔族が魔物を使ったりして人を襲うから退治するって聞いたんだよ?」
「俺も召喚されたとき、そう聞いた。実際に魔族は何度も城に攻めてきたり、逆に俺たちが魔王城に攻め込んだりして戦っていたときには気づかなかったけど、思い返してみれば魔族が勇者とそれを守る兵士以外の人間を襲ったことはないんだ。それと、魔王と勇者の戦いの歴史は古くからあって、今のところ調べても始まった理由がわかっていない。」
「フィルさん、でも魔物は何度も人間を襲ってくるじゃない。先日だって大群でラノム王国を襲ってきたし。」
「シコクレンさん、それは俺も勘違いしていたんだけど、魔族は魔物の使役やコントロールができない。だから魔物に命令して人を襲わせたことはないよ。俺も魔王になってから気がついたんだが、俺が勇者だった頃も、魔族と魔物が一緒になって町や村を襲ったことはなかった。」
「魔族も魔物に襲われて命を落とすと人族と同じで復活できない。先日ラノムを襲った魔物の大群は、復活できない死を覚悟の上で、人族を守るために魔族が殲滅した。」
「そう、やっぱりあの魔物の大群を退治したのは魔族の人たちだったのね。」
「すぐには信じられないけど、お兄ちゃんが言うなら間違いないのかな。」
「いえ、魔王だから言いくるめようとしている可能性もあります。ただし、言うことに一理はありますね。」
「それと、ジュリは俺が魔王討伐をして結婚式を挙げていたラノム王国の王女ジュリアだ。」
「ごめんなさい、シコクレンさん、アゲハさん。私、どうしてもフィルと一緒に・・・。」
「ジュリア王女、恋する気持ちは止められませんもの。女としてその気持ちはわかります。それに結婚式も挙げたのならなおさらです。でも、私としてはお兄ちゃんをとられちゃったみたいで複雑な気持ちですが。」
「王女様、お立場上はやっぱりまずいかと思われます。しかし、伯父や伯母を助けるための行動ということならば、私は何ももうしません。」
こうして話し合った結果、とりあえずフィレン国王と王妃を救出して魔女一派を排除し、この国を正常に戻すまでは協力体制をとることで落ち着いた。結論が出るまでの間、妹のひよりが俺に抱きついたままでたっぷりとお兄ちゃんエキスを補充したことは言うまでもない。
次話は明日20日に投稿する予定です。




