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【第3話 騎士団との戦い】

ラノム王国に侵略して生き残ったルミス側の騎士団1万9千人が、守るべき自国の王子が率いる近衛兵士と騎士団約2500人を攻撃している様子を高台にいた多くの都民が目撃した。そしてこの目撃情報はあっという間に念話によって王都全体、そしてこの大陸全土にまで広がった。


事前に噂による根回しをした効果もあり、この数年間で近衛兵士や騎士団員になった移民の多くが、この国を乗っ取ろうとしている敵の仲間だと確信した。これで掴みは万全だろう。


「各自、マーカー色の設定を忘れないように。」

「では出陣せよ!」


王子の檄に呼応して騎士団はグループごとに一斉にルウで最前線に飛び込むと同時に王子の陣から敵後方に巨大な炎の壁が出現し、逃げ場を塞ぎながら後方の騎士を焼き尽くす。上空からは氷の刃や火炎弾を降らせ、相手の陣形を崩していくが、相手も防御魔法を最大に展開して多くの魔法攻撃を弾いている。そこに飛び込んだ俺たちは、少し攻撃力をセーブしながらも効果的な魔法と剣術によって少しずつ戦場にいる敵の人数を減らしていった。


振り返ってみると、前線から本陣までの間に相手側からの魔法攻撃が断続的に来るのだが、攻撃は防御結界に弾かれて空を紅や青に染めていく。<花火大会みたいだな>と不謹慎にも思ってしまい、気を引き締め直す。


実のところ、ラウデン王国の騎士団員たちで高位魔法を使う者はほとんどいない。剣の熟練度を磨き、剣の力で相手を屈服させるというスタイルを保ってきたためだ。自分自身を守るための防御魔法や回復魔法は熟練させていても、魔法攻撃は卑怯だという信念が根付いているため、あまり練度を上げていないのだ。


その代わり魔法に特化した軍がある。高位魔法を極めようと切磋琢磨しているようだが、この大陸のように魔王軍と戦うような経験がないため、熟練度はこの大陸の魔法師に比べると遙かに低い。だからこそ、ラノム王国を攻めたときに初めて見る大規模な高位魔法に恐れおののいて逃げ出したわけだ。


この戦いでも魔法攻撃の有無の差は歴然だった。王子側の騎士団グループは、前衛3人後衛1人が中央の結界役と回復役を囲む隊形で移動する。まず魔法攻撃で相手の足を止め、隙を突いて前衛が剣でとどめを刺す。ケガを負ってもすぐに結界役が結界の強化レベルを一瞬上げて魔法攻撃を放ち、回復役が回復魔法「リア」で回復させる。


これに対して相手は剣の前衛3人、後衛2人の5人組だ。結界も回復も各自の能力のみで行う。仮初めとはいえ、フィレン王国の騎士団員スタイルを学んだにもかかわらず、ラウデン王国のスタイルで戦ったがために連携の差が生まれた。自分自身にしか範囲を広げられないレベルの能力しか持たない者を魔法師だと偽ってきた報いだろう。俺たちにとってはありがたかったけどね。


ふと気づいたんだが、前方の視界一面の炎の壁がいつまでたっても消えない。これ、結界だけで身をもてあましたミーナか。まぁ、おかげで逃走する者なく全員を聖堂院送りにできるんだけどね。


「マスター、今のところ、フィレン王国内の聖堂院で復活した者はいません。もちろん、この大陸すべての聖堂院でも同様です。完全にラウデン王国だけでの復活ですね。」


「それで、ラウデン王国はどんな感じになってる?」

「それはもう大騒ぎです。先日に続いて今日も、後から後から復活してくる人間が復活の台座からこぼれ落ちたり折り重なって下の者が圧死してまた上から落ちてきたりと、情報団員が笑いをこらえて涙が止まらないと言っています。」


「そりゃ、本当に大変だな。後でねぎらってやれよ。」

「了解、マスター!」


うん、考えてみれば本当に大変そうだ。たかだか3m×5m程度しかない復活の台座に、数秒おきに10人以上が復活して来る。全部で1万9千人。1つの聖堂で2千人程度としても、その人数がすごい勢いで復活して来れば、そりゃぁパニックにもなるだろうね。


「マスター、左前方にシコクレン様とアゲハ様です。」

「妹ちゃん、なかなか頑張っているようです、お強いです。」

「OK!」


少し攻撃のペースを押さえてシコクレンさんとアゲハの様子を観察することにした。いや、あれだ。シコクレンさんって疲れないの?あんなに両手にそれぞれ持った剣を高速で振り回して、あたるを幸いなぎ倒してる。なんか中国の踊りで見たような動きだけど、それの超高速版?たまに繰り出すのって気功法のでっかいやつみたいなので地面ごと吹き飛ばしてるよ。


アゲハ(ひより)は・・・。なんかえぐいな。一度に何本手裏剣投げてるんだ?曲芸師みたいだな。一斉にいろんなところに飛んでいって当たらないやつは戻ってきてる。あれがこの間のヨーヨー手裏剣か?他にも自分を守るように手裏剣が体の周囲を回ってる。ミーナの魔法のときにも思ったけど、まるでアニメで見たなんとか言うやつみたいだ。参考にしたのか?


おっ!またでっかい手裏剣飛ばした。なんかその先の敵が全員真っ二つになってるんだけど。一度に10人以上って、いやそれ反則だろう。こんな感じで勇者の二人も問題なく敵を聖堂院送りにしている。古参の騎士団のメンバーもかなり押しているようだ。


「マスター、右サイドの動きが停滞しています。何かあるようです。」

「わかった、行ってみる。」


報告にあった右側に行ってみると、敵がかなり善戦しているようだ。その前方の真ん中で頑張っている男は、先日倒した男と同じ型のフルメイルを装備している。先日のやつと違って渋い黒のフルメイルだ。武器はランスではなく両手剣。魔法攻撃を打ち消す魔法が付与されているようで、装備に当寸前にかき消されている。たぶん騎士団長クラスだな。行ってみるか。


「どんな具合だい?」

「おぉ、真珠色の翼のマスターか。どうにもこうにも、魔法攻撃はすべて打ち消されて隙ができない。剣の手練れのようで、我々では傷1つ負わせられず、攻めあぐねている。」

「では、ちょっとお手並み拝見。」


「そこのフルメイルの男、ラウデン王国の騎士団長あたりかな?」

「なぜわかった。もうかなりの情報が漏れているのか。」

「ラウデン王国の指示で、魔女ルミスとガルスが中心となり国を乗っ取ろうとしていることとか?」

「ふむ、そこまでわかっているならこの作戦はもう終わりのようだ。私がガルスだ。この度の戦は我々の負けだが、少しでも多くお前たちを倒してレベルを下げて次の機会を待つとしよう。」


「いや、もうこれ以上下がるやつはいないよ。あ、いたいた。ごめん、お前だ。」

「ふっ、その言葉を口にしたことを後悔するがよい。」


正面から対峙した2人を互いの騎士団員が取り囲む。周りの騎士団員たちはこちらに手を出す気はないようだ。先の会話から動きを止めてじっと見守っている。


最初に手を出したのは俺だ。まずは小手調べにと、ガルスの左へと飛び込み軽く剣を振る。フルメイルがどの程度の防御力か試そうとしたのだが、ガルスの両手剣が鋭くきらめき俺の剣を弾く。さすが剣の世界でのし上がっただけのことはある。あっさり初激が払われた。


ガルスが二の太刀でそのまま俺の胴を真っ二つにしようと迫る。斜め後ろに飛んでそれをかわす。そこに踏み込んできたガルスが真っ直ぐ俺の体を貫こうと体軸の中心に向かって剣を突き出す。俺は自分の剣を横にしてガルスの剣を突き上げながら下をくぐり、左に抜けながらフルメイルの胴を払う。


「ガキュッ!」


鈍い音を立ててフルメイルに深い傷ができる。しかし、ゆっくりとその傷がふさがっていく。


「おいおい、フルメイルに自動修復魔法か?」

「ふん。回復魔法は苦手なんでな。鎧さえ壊れなければ体が傷つくこともあるまい。しかし、俺に一太刀浴びせるとはなかなかのものだ。俺とともにラウデン王国にくるか?」


「あいにくこっちが気に入ってるんでね。」

「そうか、やっぱり誘うだけ無駄か。ではやはり、脅威になりそうな者は排除せねばな。」


再び相対した2人が合間を詰める。剣技はやや相手が上か。こちらは素早さで勝るがこのままでは時間がかかりそうだ。しかし、ここに来て引き抜きのお約束が発動するとは嬉しいかぎりだ。


「ちょっと、その相手譲ってくれない?」


ん?このいいところにしゃしゃり出てくるお馬鹿さんが・・・?と視線を少しずらすと、そこにいたのはシコクレンさん。視線が外れたその隙を突いてガルスの剣が襲いかかる。払い、受け流したが、強烈な突きからの3連撃目が頭上から落ちる。剣を横向きにして頭上で受けたが、さすがに両手剣、その重さはハンパじゃない。剣が折れたら危なかったかもしれない。再び間合いをとって一息。


「シコクレンさん、俺の楽しみを奪おうとか、やめてもらえませんか?」

「あら、苦戦してるようだったから代わってあげようと思ったのに?」

「まぁ、そこでのんびり見ててくださいよ。」

「じゃぁ、周りの敵でも倒しながら見学させてもらいますね。」


そう言ってシコクレンさんの地獄の連撃が始まった。いつの間にか周りでは、ほとんど戦いが終わっていた。こちらの圧勝のようだ。すぐ近くでアゲハ(ひより)が手裏剣を体に纏わせながら女の子座りをしてこっちを見物している。


今後の戦いのために試してみたいと思っていたことがある。回復と防御魔法が付与された装備の破壊方法だ。このフルメイルがちょうどいい相手なんだ。ちょっと試させてくれよな。そして俺は少しだけ剣に、とある魔力を通す。


無言の圧力を感じて相手を見ると、これはかなり本気で怒っているとわかる眼光で俺をにらんでいる。誰だ、あいつを激高させたのは!(シコクレンさん勘弁してください!)


ガルスはカウンターを狙っているようだ。その速度を上回らないと強烈な一撃を受けてしまうだろう。冒険者として登録するために落としていた力を一段階上げて呼吸を整える。


じりじりと接近し、最初と同じ動きでガルスの左へと飛び込み、フルメイルを撫でるように軽く剣を振る。剣の上級者に同じ動きは通用しないが、今度は最初と違ってかなり早い動きだ。ガルスは思った以上の素早さについて来れない。


「ビッ」


小さな音のわりに、フルメイルの胴には深く長い傷がついた。間違いなく通用する。しかし、そのすぐ後にガルスの怒濤の攻撃が始まる。ちょっと、キミもシコクレンさんと同じでツカレシラズですか?思った以上に素早い剣さばきに、今度はこちらが受け流すのがやっとの状態になる。受けるだけって結構きつい。そろそろ仕上げに入りたいんだけどな。


「あれれ、真珠色の翼のマスターさん、また押されてるじゃない。」

「頑張って、お兄ちゃん。負けたら敵を討ってあげるからね。」

「シコクレンさんもひよりも、もうしばらく黙って見てろって。」


いらぬお世話だ妹よ。だいたいお前、対戦ゲームで俺に勝ったことないじゃないか。怒濤の連撃が止まったのはそれからしばらく後だった。ホント、ツカレシラズだなぁ。さて、じゃぁそろそろ終わりにするか。勇者や魔王がいなくて魔法がない世界なら、ガルスは間違いなく世界屈指の剣士だろう。忠誠を誓う王を間違えなければ仲良くできたかもしれないね。


「それじゃ、そろそろ決着をつけよう。」

「それはつけられようの間違いか?」


ガルスがそう言い返しながらニヤッと笑うと今までと違う構えをとる。なるほど、奥義か何かの秘策があるのか。でも今日は使えないよ。俺は体の強化をさらに一段上げて構える。これで冒険者フィルの設定値の150%程度だ。


ガルスのつま先がわずかに動く。その動きが誘いだろうと構わず正面から接近して相手の間合いに入る手前で3度目となる同じ動き、左への飛び込みを決行する。


ガルスの剣が俺の進行方向に大きく振り下ろされる寸前に、俺は正面に作り出したエアシールドを蹴る。振り下ろされた剣が俺の左を通過するのとほぼ同じタイミングでガルスの右懐に飛び込んで剣を胸に突き入れ右に強く振り抜いた。


一瞬でガルスの体は消え、戦いが終わった。シコクレンさんとアゲハの驚いた顔が見られたので満足だ。この戦場に敵の姿はもう1人も残っていなかった。

次話は明日19日に投稿する予定です。

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