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【第2話 勇者の参戦】

王子のテントから出てきたのは、ラノム王国に召喚された勇者の内の2人、シコクレンとアゲハだった。俺も勇者だった頃には親善という名目で何度かフィレン王国に訪れたことがある。


しかし、勇者たちが王城に行き謁見するのではなく、移動中の王子の元へ来たということは、ラノム国王の意思がはたらかずして実現はない。


間違いなく第一王子イシェルがラノム王に願い出て実現したのだろう。聡明な王子たちのことだ、ラノム王国への出兵の指示自体がフィレン国王やの意思ではないと気づき、帰還前に勇者出動の要請をしたと考えるのが妥当だ。


ラノム王も王妃メイリも甥である王子たちが幼い頃から大変可愛がっていたと聞く。そして王子たちもそんな王や王妃を慕い、仲のよい家族のような関係を築いていた。


本来なら侵略者側の要請に大切な勇者を向かわせることは考えられない。信頼関係が構築されている間柄ならではのラノム王の対応だろう。


名目上はフィレン王妃は伝染病という理由で尖塔で療養している。しかし、念話は結界によってブロックされ、手紙やメモのやりとりさえも禁止されている現状は、まさしく幽閉そのものだ。


そして最近のベルガ王の様子の変化、心を許していた臣下たちの失脚と入れ替わり。明らかにベルガ王に近い何者かが裏で糸を引いていると容易に気づける状況だ。


間違いなく王子たちは遅ればせながらも対策を練り、これから王都に戻って動こうとしている。予想を上回る洞察力と行動力とに感心しながら宿に戻る。


---


「皆さん、おはようございます!」「ジュリちゃん、おはよぉ。」「ジュリ様、おはようございます。」「おはよう。」「おはようです。」

「俺たち真珠色の翼は明日の準備でいろいろ動くので、とりあえず計画通りによろしくね。」

「はい、皆さん頑張りましょう!」「頑張ろう!」「まずは朝ご飯を腹一杯食べてってことで!」

「昨日あんなに食べたのに?腹八分って言葉知ってる?デル!」

「姉ちゃんこそ、もっと食べないと気にしてるところが育たないぞ!」

「あんたね、またいらないこと言って!」「ゲフッ!!ね、ねえちゃ・・・。」

「ホント、進歩しない子よねぇ。」

「類は友を呼ぶですか。」

「ミーナ、なんかいった?」

「いえ、なにも。」


いつものようにモーニング念話から一日が始まる。最近はなんだか漫才レベルの賑やかさになってきたな。ジュリは城で朝食後をとり、一仕事済ませてからパペットと交代して合流する予定だ。デザミーとザールは魔王城で留守番兼魔王軍の強化訓練の指導。真珠色の翼チームは宿の食堂で食事をとり、ジュリが合流してから俺の部屋で今日の打ち合わせをする。


「昨晩、ラノム王の願いによりマシュウさんを王都に残してアゲハさんとシコクレンさんが王子の元に飛びました。」

「うん、ちょっと散歩に行って様子を見てきたよ。」

「マスター、情報団員になれますよ!」

「お一人で万が一があったら大変です、相談してからにしてください。」

「私、お父様からは何も聞いてなかったよ。」


そして俺たちは王子たちの計画の一端や魔女ルミス側の騎士団の現在地や総戦力を聞き、王城制圧の流れを確認した。今日の午前は王城と王都で準備し、午後は王子たちと接触して騎士団同士の戦いに助力する最終確認をした。


「では、私とデルは配下を動かして城内の多重結界を準備します。その後、王都をまわってだめ押しの噂を流してから昼食をとり東門を出ます。」

「俺たちは王と王妃のところから始める。その後、ミルが準備してくれた屋敷で昼食をとる。昼食後に東門の外で落ち合う。これでいいね。」

「はい。」「了解!」

「じゃぁ、そろそろ行くか。」


こうして俺たちは、まず王城の尖塔に幽閉されている王と王妃のところへ飛んだ。尖塔外部には未知の強力な結界が張ってあるため、ルウで乗り込むことができない。尖塔に入るには王城の2階から繋がる通路しか通り道はない。その出入り口の横には常時10人程度が待機する衛士の詰め所があり、その前には衛士が4人立っている。


透明化魔法の「クラリティ」は完全に透明化するわけではない。止まっていればほとんど違和感なく気づかれることは少ないが、王城からの通路を通るとどうしても<揺らぎ>が発生するため衛士の視界に入り見つかってしまう。眠らせる魔法「シープカウント」を使う手もあるが、王城内の定時巡回が10分おきなので時間的に厳しい。


王子たちがラノム王に話した救出方法はこうだ。王族しか知らない秘密の地下通路を通り尖塔の地下倉庫に入る。そこから尖塔を昇り、王と王妃を助けた後に地下通路から脱出する。尖塔の通路はそれほど広くないので、王城の2階出入り口を塞いでしまえば容易に実行可能らしい。


今回、俺たちは王子たちの計画で使われる予定の地下通路から侵入した。探査魔法で尖塔内部の人間の配置を確認し、尖塔の定時巡回後にミールの魔法「シープカウント」で眠ってもらう。定時巡回は30分。救出には十分な時間だ。


最上階のドアを開けると、中にいた国王ベルガが怪訝な顔をしてこちらに鋭い視線を向ける。腕には隷属腕輪がつけられていたが、彼の強い精神力を屈服させるほどの力はなかったようで未だに支配されていない。しかし国王の表情は精神的な疲労を隠せないほどにやつれ、体も憔悴しているようだ。しかし、その眼光の鋭さは失われていない。


フィレン王妃には弱毒と意識障害の魔法がかかっているため、意識を失いベッドに寝た状態が続いている。国王は、王妃の毒を緩和し体力を回復させる魔法を常に使い続けることで、彼の魔力は枯渇寸前だ。それ以外の魔法は抑制の足輪によって封じられている。


「真珠色の翼パーティーのフィルと申します。お二人を救出しに来ました。一緒に脱出して魔女ルミスたちから国を取り戻しましょう。」

「おじさま、私です、ジュリアです。お懐かしゅうございます。」


顔の変装術式を解いたジュリが話しかけることで国王の警戒は解け、ここに至る経緯や王子たちの現状を話した。国王によると、臣下を人質に取られている上に王妃にかけられた継続魔法はよその大陸の未知の魔法であること。今のところ術者の魔女ルミスしか解くことができないため、脱出するわけにはいかないということだ。


巡回の時間が近づく。しばらく話し合った結果、国王は提案に乗り、俺たちはその部屋に国王と王妃を残してミルが準備した隠れ家の屋敷に飛ぶことにした。


「それじゃ、あとのことは任せるよ。よろしくね。」

「はい、しかと承りました。お任せください。」


隠れ家の屋敷で昼食をとった俺たちは、ちょっとした計画の変更を余儀なくされたが、後の手はずをミルの配下に任せて東門の外に飛んだ。程なくミルとデルが到着し、合流したままさらに東へと足を進める。


「今、王都ではにらみ合っている2つの騎士団の話で持ちきりです。」

「思った以上に早く到着したね。」

「でも、おかげで王都の高台から一望できる南東側での開戦になりますよ。」

「接触前に王子側とコンタクトしたかったけど、まぁこの程度は誤差範囲。」

「ところで王子側の返事はどうなった?」

「はい、真偽の確認が終わったので、私達と会って話をするそうです。」

「よし、ルウで移動しよう。」「はい。」


こうして俺たち「真珠色の翼」は国王ベルガが書いた王子宛ての手紙のおかげで王子たちとの接触を果たした。もちろんジュリと私たちの正体は隠したままだ。大きめの天幕の中では魔女側の騎士団との交戦についての話し合いが主だった。実際に王子たちと同行していた兵士の半数は騎士団員はではなく近衛兵を中心とした臨時の部隊だった。


「ということは、魔法師の人数が圧倒的に足りないということですね。」


「恥ずかしい話だが、その通りだ。近衛兵たちは剣を主な武器としている。攻撃魔法や防御・結界魔法は自身を守る程度の練度しかない。この地に大規模な防御結界を張るには、騎士団員の魔法師が8人、いや、最低でも6人はこの場に止まることになる。必然的に前線の騎士団の防御と回復が手薄になるが仕方ない。」


近衛兵が最優先すべき任務は国王を守ることだ。次に王の家族、最後が王城の守りという順番になる。対人訓練を中心とした剣技や体術を鍛え少人数のチームで動く。今日の布陣でも王子周辺の防衛を担っていた。


逆に騎士団員は国を脅かす魔物に対する訓練が中心で、訓練の過程で対人訓練も行うオールマイティな存在だ。古参兵が多く、長く同じチームを組んでいるため阿吽の呼吸で動き戦術に優れる。チームの魔法師が抜けるということは、防御力が半減するため戦力的には本来の力の半分程度しか発揮できない。


「つまり、この場所に強力な防御結界を張る人員がいれば、騎士団員は前線で力を発揮できるというわけですね。」

「そうなのだが、他にまわせる結界師が確保できない。敵の親玉が巣くう王城には頼めるわけもないからな。」


「では、ミルとミーナをここに残して残りは前線に立ちましょう。他の魔法師は必要ありません。」

「いや、提案は痛み入るが、レベル的にそれは苦しいだろう。」


「ミル、ミーナ、結界を張って納得してもらう方が早い。頼む。」

「了解。」「わかりました、マスター!」


二人で張った結界を見て、王子たちが驚愕する。そしてこちらの提案を受け入れることになった。それもそのはずだ。二人の張った結界は力を押さえているにもかかわらず、この場に張られている結界の二倍以上の強さだったのだから。


「これで私達も安心して参戦できるね。」

「うん。思いっきり暴れてよその大陸に送り返しましょう。」


「シコクレン様に妹ちゃん、頑張ってね!」

「お兄ちゃんに雄志を見せつけるチャンスです!!」

「え?どうして私の名前を?」

「妹ちゃんとかお兄ちゃんって?」


早速やらかしコンビがまたやらかした。不思議そうな、そして怪訝な顔をした二人がミルとデルの顔を見る。


「うちのメンバーが馴れ馴れしい言葉をかけてしまい申し訳ありません。お二人のお名前はすでに万人の知るところです。そしてミルは兄妹でないのですが俺のことをお兄ちゃんとよく呼ぶので、アゲハ様と年が近く、親近感を持ってそのような言葉を言ったのではないかと思います。」


「最近、少し強いからと天狗になっているうちのマスターに、貴女の強さを見せつけてマスターの鼻を明かして欲しいと思ったのでしょう。誠に申し訳ありません。」


「そうですか、そんなに有名なんですね。」

「じゃぁ私、<お兄ちゃん>にしっかり見せつけられるように頑張りますね。」


2人ともニッコリ笑ってそう言ってくれた。俺の言葉にミーナが取り繕ってくれたおかげで納得してくれたようだ。俺的にはちょっと引っかかるところはあるんだけどね。ちょうどそのとき、結界に攻撃されたときの干渉反応が起こった。


「敵襲です!」「前方の騎士団が動き出しました!」


こうして王子側と魔女ルミス側の騎士団の戦いが始まった。

次話は18日(金)に投稿する予定です。

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