【第1話 フィレン王国】
この話から第3章に入ります。前半の主な活動場所はフィレン王国で進みます。
昨日気づきました。評価してくださった方々、ありがとうございます。
グループリーダーのフィルを中心として、今回の活動目的を確認する。まず、フィレン王国の第一王子イシェル、第二王子ラッセル率いる騎士団に協力し、魔女ルミスが操る騎士団を倒す。そして幽閉されている国王と王妃を救い出し、魔女ルミスとその配下たちの計画や所業を国民に知らせて国王たちの信頼を回復させる。最後に魔女を含めたラウデン王国の関係者をこの国から排除することだ。
昨夜はラノム王国内にいくつかある魔王軍情報団部の部屋で作戦会議を行った。そこでは活動の概要と初戦の打ち合わせが行われた。ジュリアは念話だけの参加だ。
「このままだと、フィレン王都で準備する前に騎士団どうしが開戦してしまう。そこで俺たちは、騎士団どうしの接触を明後日まで引き延ばすために、一度魔女ルミス派の騎士団を足止めしてから王子たちの元へ向かう。」
「ミル、騎士団との接触場所の確認はできた?」
「はい、すぐにでも飛べます。」
「了解。騎士団の足止め工作は一分間だけにする。」
「まず、騎士団の隊列の後方から前方にかけて縦断する小規模な爆裂魔法を落とす。」
「次に先頭の前に半円の防御結界を張って爆炎魔法をぶつけ、なるべく広範囲に昨日と同じ炎の滝を見せる。」
「警戒させることと負傷者を出すことで進行の足を遅くするわけですね。」
「そう、ただでさえ人数が多いから進行は遅い。不安を煽れば用心を重ねるので一日に進む距離は短くなる。」
「ミル、要所への魔法トラップの準備は進んでる?」
「はい。部下が待機済みです。騎士団の斥候が団に戻り、足を踏み入れたら順次発動させるように指示しています。」
「フィル、どうして明日で魔女側の騎士団を倒してしまわないの?」
「それはねジュリア、攻め込んだ騎士団員たちが、今度は王都を守る王子たちの騎士団に襲いかかるところを国民に見せる必要があるからだよ。」
「国の敵だっていうことを国民に認識させるのが目的なわけね。」
「そう、その通りです。さすがジュリ様、その察しの良さに感服いたします!」
「デル。<感服>って言ったから減点1!」
「げ、減点??」
「ミル、デル、うるさい。」
ミーナのひとことでミルとデルが小さくなる。<やらかす>という意味では、2人とも似たようなものなのにね。デルを鍛え直しながら、自分も直さなきゃねミル。ちなみに<感服>は普通に使う言葉で尊敬語でも謙譲語でもない。敢えて言うなら<いたします>が減点対象だよね。ミーナの視線を、そう言いたげだと感じるのであった。こんな感じで<真珠色の翼>の打ち合わせが進み、今朝から動いて集合完了したわけだ。
「じゃあ行くよ。最後尾から最前列まで縦断、結界を張ったら魔法攻撃。」
「陽動が終わったらミルの念話を合図にミーナのルウで一気にフィレン王都に飛ぶよ。」
「了解!」
「ミーナ、よろしく!」
計画通り騎士団最後尾の上空に転移した俺たちは、エアシールドで足下を確保し、爆裂魔法の威力を押さえながら騎士団の列を縦断爆撃していく。騎士団は防御結界を張ってはいるが、魔力が高い術者の爆裂魔法はかなりの迫力がある。
先日、炎のナイアガラに恐怖して撤退した騎士団は、フィレン王国領内に入り一安心していたところに受けた攻撃で蜂の巣をつついたように混乱した。隊列を離れて散りじりに逃げ出す者、その場にへたり込む者もいた。見た感じでは、爆風に飛ばされての打撲や擦り傷程度の負傷者が散見されるレベルだが掴みは十分だろう。
そして仕上げに炎のナイアガラ。炎の壁が雪崩のように迫ってくる。これを見た騎士団は、足を止めて跪き、身を寄せ合って動かない。ただ死を待つのみという心境だったのだろう。先頭以外はほとんどダメージはないのだが、心理的なダメージは計り知れない。
「陽動作戦完了です。飛びます。」
ミーナのルウで一気にフィレン王都の東門近くに飛び、門番に冒険者登録証を見せて入都する。その後、ふた手に分かれてミルとデルは隠れ家に行き王城の地図を受け取り宿を目指す。俺とジュリ、ミーナはフィレン王都のギルド本部に顔を出して情報収集した後、宿をとる。
隠れ家ではミルとデルが魔女側のメンバーの名前と役職、今も変わらず王に忠誠を誓っているメンバーの名前などの情報を受け取った。すぐ見分けがつくように魔女側のメンバーには赤のマーカーをつけるように指示をして、詳細な王城と尖塔の地図や隠し通路などが書き込まれた地図を受け取る。
ギルド本部では、すでにラノム王国との戦いに敗れた騎士団がフィレン王都に向かっていることが伝わっていた。しかも構成メンバーのほぼすべてがラウデン王国からの移民であることや、同時に動いていた傭兵団が壊滅したこと、相当数の魔物がラノム王都に迫ったが、正体不明の集団に殲滅させられたことも伝わっていた。
「ちょっと気になるんだけど、これってミルの仕事かな?」
「はい。ミルが団員を総動員してギルド本部やフィレン王都の商業街を中心に噂を流しています。」
「ミルちゃんすごいですね!」
「噂が広がるのは速いからね。噂を広めることで、国民に魔女ルミスの謀略だったと知らせたとき、より現実味を持たせることができるんだよ。」
「すごい!なんだか今回はとってもうまく行きそうですね。」
「ジュリ様、マスターが動けば大丈夫ですよ。」
「ミ-ナさん、私も呼び捨ててお願いします。仲間なんですから。」
「はい、では、ジュリ、で!」
仲良く念話をしながら宿に入り、待っていたミルとデルと合流し宿の食堂で昼食をとる。一息ついたので宿に2部屋とり俺の部屋でミルたちが得た情報を元に今後の行動計画の細かな打ち合わせをする。その後、ミーナの提案で町の様子を見ることになった。
5人で王都の商店街を歩きながら、王都名物のフィレンクッキーやヨーミルクを買い、中央広場にあるベンチに腰掛けてのんびりと街の様子を眺める。ヨーミルクは、糖質が多い羊の乳を乳酸菌で少しばかり発酵させ、途中で低温加熱して撹拌、細かな目の網でこして作った牛乳とヨーグルトの中間くらいの飲み物だ。トロッとした飲み口に僅かな甘みと酸味のバランスよく、いろんな食べ物に合うため、この国では好んで飲まれている。
「マスター、ちょっと私達は配下の者との打ち合わせに行ってきます。」
「えっと、夕食前には宿に戻るのでそれまで別行動してもいいですか?」
「えっ?姉ちゃん、俺も打ち合わせに行くの?」
「デル、あんたは黙ってついてくるの!」
「わかった。じゃぁ夕食前に宿で落ち合おう。」
「大変ね、行ってらっしゃい。」
「行ってきます。デル、早くおいでってば!」
俺とジュリは顔を見合わせて苦笑いする。そんなに気を遣わなくていいのにね。見え見えすぎてなんだかこっちが恥ずかしくなってくる。でもその心遣いがありがたい。
そして夕方までの数時間、本当に久しぶりに俺はジュリとのデートを楽しませてもらった。結婚式の途中で俺が消えてから何があったのかとか、ジュリがどんなにつらい思いをしたのかなどの話は全くせず、とにかく2人の時間を精一杯楽しんだ。2人+おまけの1人には本当に感謝感謝だ。
夕方近くに待ち合わせの確認で念話を送り、今日のお礼を言ったが「いったい何のことでしょう?」「ラブラブでよかったです~。」「お、俺は非情なる特訓で腹が減りました、夕食は大盛りがいいです!」という微妙な返事が返ってきて、俺とジュリは顔を見合わせて笑いあった。デルは初日から特訓でしごかれていたんだな。今晩の夕飯、みんなにごちそうを特盛りで注文してやろう。
宿に戻って3人と合流した後、ジュリはミーナに連れられてラノム王城の自室に戻った。夕食から翌朝の朝食までは必ず自分のいるべき場所に戻るという約束で同行することを許したためだ。パペットだけでは、いつバレるかわからないので、安全策も兼ねている。
ミーナが戻ってから、宿の食堂ではテーブルに乗り切らないほど盛大な夕食(デルの希望で)をとった。デルの大食いは周囲の人たちをあきれさせ、ミルとの掛け合いで周囲の笑いをとりながらの楽しい夕食だった。しばらく楽しんだあと、宿の隣の銭湯に行き、ゆったりとした時間を過ごして宿に戻り早めの就寝。就寝前はおきまりのおやすみなさい念話大会もあり、平和な時間を過ごした。
俺は夜、みんなが寝静まってからルウで王都を抜け、王子たちが率いる騎士団のところに飛んだ。すでに消灯時間を過ぎ、歩哨が巡回警備をしている。この距離なら明後日の昼前には王都に着くだろう。ちょうど東門に入る前に遠征していた騎士団と接触できそうだ。そう考えながら戻ろうとしたとき、ふと気になる声が聞こえた。
「それじゃ、明日からよろしくお願いします。」
「来てくださりありがとうございます。本当に心強い。明日の朝、同行を全体に知らせます。よろしくお願いします。」
「はい。では、失礼します。」
声のしたそのテントの方を見ると、そこには予想外の人たちがいた。
基本、休日のみの次話投稿ですが、次話は明朝の予定です。




