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【第7話 ザール隊と魔物の軍団】

山岳地帯からやってきた魔物の集団は、王都の北門から東門にかけての城壁を取り囲む形にをとった。その数およそ600匹。魔物の布陣は、王都とミルマ公国を結ぶルートを完全に遮断するように広がっており、公国からの援軍を防ぎ、また王都から脱出する道を断った。


魔物は基本的にコロニーを作る種以外は集団行動をとらない。しかし、今回王都を取り囲んでいる魔物たちの種類は多様である上に知能も高くないものばかりだ。統制がとれたその動きはあまりにも不自然だし、途中の町ドルドを迂回するのもおかしい。


フィレン王国の騎士団は北門と東門の内側に、それぞれ1万が待機している。城壁の上からは魔法や弓矢、投石機が魔物の動きに対処できるように布陣している。飛行型の魔物は今のところ見られない。しかし、もし結界が破られることがあれば、一気に山岳地帯から来襲する可能性もあるため安心はできない。


ザール隊は300人でラノム王都の東門側からの殲滅作戦を計画していた。魔物に殺されると復活できない。そのため、命を失うことがないように人族はだいたい1グループ5人で対処する。魔族も人族と同じリスクを負っているが、基本2人、高レベルの魔物になれば3人が1グループの人数だ。これが人族と魔族の基本的な個人戦力の差である。


今日ここに集まったのは、ザール隊。つまり魔王軍の騎士団である。従って戦力的には1人一体で魔物を倒すことが当たり前にできる力を持っている。魔王城の攻防戦では魔王軍騎士1人に対してラノム騎士団5人が1チームで戦ってきたことからもその力の差は明白だ。敢えてペアで戦う理由は、魔物の取りこぼしがないように<隙間を空けずに殲滅するため>である。逃げ出した魔物が人族の村や町を襲うことがないようにと考えてペアになっている。


ザール隊の主力240名はタビスとキャベルの中間位置から反時計回りに殲滅戦を始める。残りの60名はノル側から王都の北門近くまで横に広がり、殲滅隊に合わせて逃げる魔物を王都の北門側に追い立てながら殲滅していく。今回は魔王軍情報団員が各地の高台に潜み、魔物の動きを念話でザール隊に知らせることになっており、魔物を逃がすことはまずない。


---


デル隊とダイナブ隊が開戦した直後、王都を囲んできた魔物たちが城壁へと動き出す。結界までまだ距離はあるし、結界を壊す力を持っていないはずだ。


「今より、魔物の殲滅戦を開始する。始めろ!」


ザールの念話に答える声はない。極力極秘に動き、悟られることのないように動いてきたのは、どこかで魔物達を操る者が見ているはずだからだ。念話の混線で急襲が露見することも考えられるため、念話も緊急事態以外は一方通行である。そして動き出したら一気に殲滅する。


1人1人が高度な物理・魔法防御と認識阻害の魔法結界をかけ、先頭の30ペアが横並びになり最端の魔物を斬り伏す。すると、その後ろから次の30ペアが追い越すようにして次の魔物を斬り倒す。これを3段階で繰り返しながら魔物を殲滅していく。待ち時間の間に、傷を負った者には回復魔法、結界が破られた者にはかけ直しを行う。そして残された魔物にとどめを刺す。これを4段目の30ペアが行う。攻撃力が高く、低レベルの魔物に対して確実に1,2激で魔物の息の根を止めることが可能な魔王軍騎士団にのみ可能な波状攻撃である。


攻撃が始まると、あっという間に魔物の屍が後方に広がっていく。そして倒れた魔物は順次火炎魔法で焼かれ、さらにその上から確実にとどめを刺すために氷のつららが雨のように降り注ぎ突き刺さる。万が一、うち漏らした魔物がいても、これで確実に仕留めることができるわけだ。


魔物が密集し過ぎていると一段の攻撃で進む距離は短くなるが、今回はほどよい間隔で広がっいる。最も近い魔物を進行の最低ラインとして進んではるが、目の前に魔物がいない者は魔法攻撃を使って討ち漏らした魔物や前方の魔物を倒しているため、その進み具合はまるでドミノ倒しのように早い。


1段の攻撃から2段目に移るまでがおよそ14秒。その一段で倒す魔物の数は平均で20匹とすると、単純計算で600匹を倒すのに要する時間は7分程度となる。実際には、均等に分かれているわけではないので計算通りには行かないのだが、10分もあれば殲滅が可能だ。しかも、途中からは別働隊も加わるので後半のペースが落ちることはない。


王都の城壁から魔物を監視していた騎士団員達がその破壊力と効率の良さに驚き感心し、どこからの援軍かもわからぬまま、その状況を本部に伝える。残念ながら映像を送る技術がないために、その様子を見ることはできない。しかし、リアルタイムで入ってくる殲滅の様子に本部も驚愕し混乱する。


正体がわからない援軍を王都に入れるわけにも行かないため、結界の維持と北門側に移動していく魔物の殲滅軍に合わせて東門にいた騎士団の40%を西門へ、30%を北門へと移動させることしか指示ができなかった。


---


ザールも殲滅隊の別働隊の一員としてドルド側、つまり城壁の北門側に立ち戦況を見ていた。情報団員からの念話でつつがなく進行していた殲滅戦であるが、主力部隊が北門にさしかかったとき、その足が止まった。北東から北門へ進んだ別働隊の足も止まり、何かを囲むような配置になった。そして念話が入る。


「ザール団長、最後に少しやばいやつがいます。たぶんあれはB級のゴーレム種だと思われます。」

「わかった。俺が出る。他の者を引かせてくれ。」

「わかりました。」「各自、北東方面に引いて基本整列体形で待機。団長が出ます。」


波が引くかのように速やかに、そして音もなく殲滅隊の本体と別働隊が北東の丘に整列する。入れ替わりにザール団長が魔物の近くに移動する。身長は2.5m程度、動きはそんなに速くないが、鋼系の金属ゴーレムで防御力が高い。そしてレベル40の能力は魔王軍の騎士団中堅に匹敵する。核は鳩尾のやや上、つまり人族や魔族と同じ心臓の位置だ。


鋼系のゴーレムには中級までの炎や水、氷系の魔法が効かない。魔法を使うより、単純に鋼より強い金属の刃を持つ剣で、鋭く斬るか突くことで核を破壊するのが早い。騎士団員の持つ剣でも斬れるはずだが、手こずっていたことから考えると、たぶん物理と魔法防御もかかっているだろう。


「堅さだけは、久しぶりに手応えのある相手ではあるな。」


ザールはそうつぶやいて構えをとる。次の一瞬で間を詰め、相手の左肩から胴へと袈裟斬りするが、胸から下は左腕で防がれたため、ゴーレムの肩と腕に大きな溝を作ったのみで終わる。すると、次の攻撃に入る前にゴーレムの右腕がザールの左肩口から胸へと振り下ろされる。剣でいなす姿勢をとりつつも、完全に間合いを掴んで避けたつもりのザールだったが、剣に大きな衝撃が加わった。


いつの間にか、ゴーレムの右手には巨大な剣が握られている。攻撃を繰り出す寸前まで、確かに剣はなかった。もし今までも剣があったなら、たぶん団員の何人かは命を落としていただろう。それくらいザールの剣で受けた衝撃は強大だったのだ。いつもの癖で、剣で相手の刃をいなす受けの型を取っていなかったらザール自身も深手を負っていたであろう。


ふっと笑ったザールの顔が引き締まる。そして念話。


「そろそろ見つかったかな?」

「およその位置はわかりました。これから向かいます。それまで引き延ばしをお願いします。」

「わかった。なかなか面白い相手だ。ゆっくりで構わんよ。」

「はい。」


このゴーレムは、かなり高位の憑依魔法で操られているのだ。そして錬成魔法により、自分の体の金属を集めて瞬時に剣を作り出す。きっと盾も同様に作ることができるだろう。なかなか面白いではないか。こんなにワクワクしたのは現魔王様が勇者をしておられた最初の頃に剣を交えて以来だ。まぁ、1年もたたぬうちに剣技は追い越されたのだがね。


そしてザールは確かめてみたいことがあった。剣を正眼に構え、剣道の打ち込みのようにしてゴーレムの手首に向かい剣を振る。すると、ゴーレムはやはり手の甲から金属の盾を錬成してそれを防いだ。続いてゴーレムの攻撃が来る。真正面からザールの手首を狙って鋭く剣を振り抜いてきた。


「やはりな。エブリ、術士は技のコピーを使う。一瞬で意識を奪った後に捕縛しろ。」

「はい、今すぐ側に着きました。もう倒して構いません。」

「では、5秒後に。」

「はい、5秒後に。」


ザールが再び正眼の構えをとると、ゴーレムも同じ構えをとる。そしてザールとゴーレムが同時に踏み込む。最初に見せた袈裟切りだ。しかし、ザールの剣は途中で静止した後、高速で引き戻された。そしてゴーレムの剣を上からたたきつけるとあっさりとバランスを崩したゴーレムがやや前傾姿勢になる。


ザールの剣とゴーレムの胸が垂直な角度になった瞬間、超速の剣が突き出され、見事にゴーレムの胸、つまり核を貫いた。素早く剣を引いて身を躱す。大きく傾いたゴーレムの体はそのまま伏して倒れ、二度と立ち上がることはなかった。ちょうど5秒だ。


「ザール様、お疲れ様でした、無事捕縛しました。」

「わかった。我々は予定通り、リオ山脈で待機する。」


こうしてザール隊の魔物討伐が終了した。この後、ザール隊も他の隊同様に待機となるが、場所は魔王城ではない。魔王様に万が一のことがないようにとの配慮からか、リオ山脈近くの丘に陣を張ることになっている。


「さすが団長!あの突きはいつ見てもみごとですね。」

「馬鹿、相手は40レベルだぞ、団長の相手になるはずもないじゃないか。」

「そりゃそうか!」


「まだ完全に任務が終わったわけではない。念話も最低限だ。飛ぶぞ。」

「はい!」


こうして南、東、北にラノム王国の騎士団を引きつけるという誰かの考えた陽動作戦は失敗に終わった。しかし、まだフィレン騎士団の向かった西門は片付いていない。初出陣のスフィルネは、これからどう動くのだろうか。


リオ山脈近くの丘に陣を張り、1人立って王都の様子を見ているザールは思う。なにやら楽しげなことを始めたようなので、楽しみに高見の見物をさせていただきます。しかし、お願いですから、とにかく本気を出さないようにしてください。なぜか歴代の魔王様達と比べても、魔力も剣技も体力も何もかもが破格の魔王様ですからね。優しく、優しくですよ。そうつぶやきながらも魔王スフィルネの規格外の能力を思い、にやけてしまうザールだった。

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