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【第6話 ダイナブ隊と傭兵団】

【第6話 ダイナブ隊と傭兵団】--------------------


デル隊が開戦したとほぼ同時にダイナブ隊が動く。チーム構成はデル隊と同じだが、チームを構成しているメンバーのレベルはこちらの方が高い。敵の人数がデル隊の相手の5倍以上になるからだ。突入前の攻撃パターンも異なるし、最終的な目的もやや特殊だ。


まず各チームが敵から少し離れたところに飛び、認識阻害の魔法結界をかけたまま敵の結界魔法の上に魔法結界を張りルウで逃げられないようにする。その後一瞬で敵の結界を破壊し、同時に攻撃魔法を唱える。敵の中央から手前までを蹂躙するかのように爆発が起こり、炎がその一帯を包み込む。そして炎が消えると同時に、今度は無数の氷の刃が水平に飛び交い、つららが降り注ぐ。この攻撃によって、傭兵団の7割が消えた。ダイナブ隊の各チームに所属する魔法団員は、広範囲魔法を得意とする者を中心に配属されているのだ。


各チームが傭兵団の残りに突入すると、デル隊と同じように傭兵団を圧倒する。どのチームもよく連携がとれており、結界の中央へと敵を押し込みながら四肢を斬り飛ばし、絶命させていく。その勢いと破壊力はすさまじく、傭兵団の誰1人としてダイナブ隊のメンバーに深手を負わせることはできなかった。


「ダイナブ様、見つけました。」

「よし、作戦通りにマーカーをつけて追い込め。」

「こちらも準備が整いました。予定通りに動きます。」

「わかった、よろしく頼む。」


ダイナ部隊の1チームが突出して深く切り込むと、その隙を狙ったかのように傭兵団の数名が包囲網をくぐり抜けてリオ山脈方面に逃げ出す。その後、戦いの中で自然に包囲網が閉じ、さらに包囲網が縮んでいく。傭兵団員は袋のネズミであった。そして開戦5分後には、その場に立っている傭兵はいなくなった。逃げた傭兵は6名。やっとの思いで戦場から抜け出した傭兵達だが、どこまで逃げてもルウの魔法は発動せず、結局歩くか走るしかなかったが、幸いなことに追撃はなく休み休みリオ山脈に向かうことができた。


「では、魔王城に帰還する。各隊移動!」


ダイナブの念話が届いた瞬間、猛威を振るった強者の集団はかき消えた。あとに残ったのは、大量の武器や防具、そして・・・。


---


ダイナブ隊が去って15分後、風ではためく布きれ以外に動くもののない戦闘跡にようやく近づく人影。斥候の報告を受けた騎士団100名が警戒しつつやってきたのだ。その目に飛び込んできたのは、大量の武器と防具にまみれた大地の中で、四肢のいずれかまたは数本を切断され、血にまみれながらも切り口を止血され、気を失ったままの数十名の傭兵達の姿であった。


騎士団員達は、駐屯地に連れ帰った傭兵達のステータスを見て魔族に化けた人間であることを知った。そして意識を取り戻した者への尋問により、金で雇わた傭兵であること、その多くはこの大陸外から来ており、カルナを通って直接やって来たこと、リーダーはたぶん逃げたのであろうことがわかる。この事実は、念話を通じてラノム王国の本部へと即時伝達された。


---


「ダイナブ隊、お疲れ様でした。万が一の出動に備え、もうしばらくその装備のままで寛いでください。」

「デザミー様、ねぎらいのお言葉、ありがとうございます。それでは、次の出撃に備え控えております。」


魔王城に戻り、総司令デザミーとの念話を終えた後、ダイナブ隊は魔王城1階の会議室で待機することになった。ダイナブ隊に待機と同時に休憩をとるように伝えた後、デルからの念話が入る。


「ダイナブ、ネズミがかかったぞ。」

「おぉ、こちらは終わって魔王城にもどってるよ。それで様子は?」

「少し前に索敵範囲に姿を現したところだ。全部で9人のようだ。」

「現地からマーカーをつけて逃がしたのは6人だが、マーカーは何人いる?」

「6人全員いるね。」

「じゃあ、後はよろしく頼むよ。」

「あぁ、任せな!」


念話を終えてダイナブは考える。傭兵団の連絡係とリーダー達から、どの程度の情報が得られるだろうか。明らかにフィレン王国方面から来た傭兵とリーダーたちは、ほとんど捨て駒扱いの上弱すぎる。この先、もっと手応えのある敵と戦えるのだろうか。戦いに喜びを覚える自分に少し引きながらも、今までしてきたぎりぎりの戦いを思い出しては強敵達の顔を思い出す。ラノムの騎士団は強かったな。平和になっても手合わせを願いたいものだ。せめて今の四天王様のレベルまでは強くなって魔王様の世界旅行に同行させて欲しいなぁと。


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「デル隊、捕らえる準備はできているな。」

「いつでも大丈夫です。」

「では、行くとするか。」


物理と魔法結界を張ると同時に前衛のみで逃走中の9人の目の前に飛ぶ。有無を言わさず剣で両腕と足に傷を負わせ行動不能にする。突然現れた敵になすすべもなく捕らわれた9人は、内側を向いて円形に座らされ、その輪の中心には檻に入れられた魔物が準備された。


「おまえ達よく聞け。今、おまえ達は結界によって魔法で逃げることができない。素直に質問に答えれば、このまま殺してやろう。そうすればどこかの聖堂院で復活できるだろう。しかし、答えなければ目の前の魔物の檻に入ってもらう。魔物に殺されればどうなるか、知らないわけじゃないよな。」


この言葉に息をのむ捕虜たち。しかし、6人は平静を保とうと頑張っているようだ。素直に話せば登録した聖堂で生き返ることができるが、話さなければ、また嘘をつけば魔物に殺されて生き返ることのない、本当の死を迎えることになるのだ。そう伝えた瞬間、9人の中の1人が血を吐いて倒れ、その姿を消した。


「しまった、毒を仕込んでいたか!口腔内の異物を排除し、毒耐性魔法をかけろ!」

「他の者には毒はないようです。」


「うわぁ、団長1人だけ逃げるなんて卑怯な・・・。こうなったら知ってることは何でもしゃべってやる!」

「なんてことだ、俺たちまでただの捨て駒かよ!」

「・・・」


残った者達から得た情報によると、服毒自殺したのはフィレン王国で暗躍する盗賊団マウスの団長ゾトルで、マーカーがつけられていた6人のうちの1人。4年前にカルナに上陸した移民らしい。残りの8人は、ゾトルの部下5名とフィレン王国出身で高額の報酬に目がくらみ雇われた3人。全員がフィレン王国で盗みや詐欺を働いてきた小物と、山岳地帯の魔物を狩ってレベル上げをしながら通行人をも襲っていた元山賊達だった。


「魔法で真意を確認したが、間違いないようだ。生き返ったら心を入れ替えてまっとうな人生を歩くんだな。」


「とんでもない。金がないと自由もない。まっとうな暮らしじゃ好きなこともできない。」


「まぁ、自分のことだから好きにするがいいさ。しかし、逃げた団長に見つかったら間違いなく息の根を止められるぞ。生き返る条件を一緒に聞いていたんだからな。団長がこの大陸以外の聖堂院に登録していることを祈るんだな。」


「あっ!復活したら団長が部下を連れて待っているってことか!」

「復活したら秘密をばらしたってことがばれるじゃねぇか!」

「俺はナルーガだけど、お、お前どこの聖堂だ?」

「俺はカルナだ。団長がフィレン王都だったらまだ逃げられるぞ。」


「足の治療に時間がかかるだろうが、逃げ延びられたらいいな。まぁ、頑張るんだな。」


そして8名の首が一斉に飛び、その体が次々にかき消えていった。実際に即効性の毒で死ぬと、聖堂院で復活してもすぐにまたその毒で死に、その場で復活する。これを繰り返して体力がどんどん落ちていき、やがて体力が尽きて本当の死を迎えることになる。たぶんゾルトは解毒薬も歯に仕込んでいるだろう。聖堂院で復活したらすぐに解毒薬を使うはずだ。しかし、その薬が効くまでに、かなりの体力を消耗するはずなので、すぐ自由に動くことは不可能に近い。だったら団長から逃げるチャンスはいくらでもある。まぁ、逃げられなくても自業自得なんだが。


「ちっ、魔族の方がよっぽどまっとうな人生を歩んでいる気がするよ。」

「まぁ、魔族も様々ですが、人はもっと多様なんですね。」

「魔族に生まれて良かった!」「ホントだぜ。」


「よし、魔王城に帰るとしよう。ルウ!」


そうしてデル隊の面々は、なんとも言えない顔で王城へととんだ。デザミーに報告した後、情報団本部に得た情報を伝え、魔王城1階の会議室で待機することになった。会議室で待機していたダイナブと話し込み、思わず大陸見学の旅の話で盛り上がって部下にあきれられらのは隊以外の者には内緒だ。


しばらくして、デルはミルノから呼び出された。


「それで、リーダーに逃げられたって?」

「も、申し訳ありません!」


「だからね、いっつもいってるでしょう。詰めが甘いって!!」

「は、はい。」


「デルさぁ、小さな頃から少しは成長してる?魔魚を釣り上げたときだって、釣り糸を持って魔魚をぶら下げてさぁ、はしゃいでいるうちに糸が切れて海に落として逃げられたわよねぇ。」

「う、うん・・・。」

「<うん>じゃありません。<はい。>です!」

「はい。」


「何年か前に、イノシシを矢で仕留めたって喜んで走って行ったら、まだ息のあったイノシシに一撃をもらって足に大ケガしちゃったし。それに少し前にも何だっけ?なんとかいう名前の魔物の鳥を下から射殺して大喜びしていたら、落ちてきたその鳥が直撃して腕を骨折したわよね。」

「うっ、も、申し訳ありません。なぜご存じなのか・・・。」


「ついこの間も謁見の間で、しかも魔王様の目の前で捕まえた魔物に反撃されるわ、今度は捕まえた人族に自殺で逃げられるわ、いったい何度同じことを繰り返すのよ。」

「返す言葉もございません。」


「とにかく、従弟だからって、許せることと許せないことがあるのよ。自滅で自分だけに迷惑がかかるならいいけど、魔王軍や魔王様にかける迷惑は絶対にだめです!」

「はい!」


「それと、逃げたゾルトは解毒薬が間に合わずによその大陸でこの世からいなくなっちゃったから。もう二度とないようにね。」

「そ、そうなのか?姉ちゃん、ありがとう!」

「誰が姉ちゃんだ!団長様とおよび!」

「はひぃい!!!」


こうして少しだけ肩の荷が下りたデルは会議室に戻りながらしみじみと思った。さすが魔王軍情報団長。俺の小さい頃から今日までの痛いところもそうだが、この大陸外のことまで、え?大陸外?いったいどこまで情報網を伸ばしているんだろう。あぁ、もう姉ちゃんには一生頭が上がりそうにないな。旦那になる人も大変だぜ、きっと。


こうして傭兵団との戦いは終わった。タビスに残されたラノム騎士団は訳のわからない戦いの見学者となり、ラノム王国と魔王城にもたらされた傭兵団の持つ情報は、今回の出来事がこれで終わりではないことを告げていると気づかされるのであった。

できれば今月中に、今までの変換ミスや誤字などを直していきたいと思います。いくつか見つけていますが、ご指摘いただけると幸せます。

次話は夕方か夜に投稿する予定です。

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