【第5話 デル隊と傭兵団】
【第5話 デル隊と傭兵団】--------------------
フィレン王国の騎士団とドルド周りの魔物、リチとタビスの傭兵団が進行を始めたのは翌日のことだった。綿密な計画のもと、ラノム王国を陥落させるために最も効果的な作戦に従って動いたのはほぼ間違いない。たぶん念話でリアルタイムに情報交換もしていると考えられる。
リチとタビスから魔王城を攻めると思われた傭兵団は、結果として魔王城へは来なかった。リチに集まった傭兵達は、リオ山脈を超えてタビスへと移動した。そこで二手に分かれ、約300人が魔王城側からタビスに向かう。残りは魔王軍と戦うために集まったと見せかけた傭兵団と合流し、その人数は1600人に達した。
結果として町の南側で防衛布陣を敷いていたラノム王国の騎士団6000人に対して王都側と魔王城からの挟み撃ちの形をとり、にらみ合うかたちで騎士団の動きを封じ込めた。傭兵団のメンバーは顔にそれらしく模様を入れて魔王軍を装っている。傭兵団は、数こそ少ないが強力な戦力を誇る魔王軍を装っているため、騎士団もうかつには手出しはできない。
デザミーは配下の精鋭120名を向かわせた。顔に紋章のない魔王軍の戦士達が、紋章を顔に纏った人族と戦う。なんとも奇妙な状態になっている。
魔王軍の精鋭を率いているのは、主に魔王城の防衛戦を担当していたデルとダイナブ。以前、魔王城に侵入した魔物を引っ立ててけがを負った2人だ。名誉挽回とばかりに張り切っている。
デルとダイナブの部隊は、それぞれ6人チームで構成されている。基本に則り前衛3名と後衛1人、防御魔法、回復と攻撃魔法の担当の計6名が菱形の体型で前進する。敵となる傭兵団の構成を見ると、高レベルの者が少ない。騎士団への牽制が主な目的なら、半数以上が人数あわせでレベルは低くということもうなずける。騎士団との戦いでは1チーム平均で15人の騎士相手に力が均衡していたのだが、今回は一方的な戦いになるはずだ。
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最初に動いたのはデル隊10チームの60名。対物理・魔法防御結界を張った状態で傭兵部隊の後方に等間隔で姿を現し、あっという間に傭兵部隊の防御結界を破壊。そのまま前進して攻撃魔法を前方に放ち、前衛とともに6人が突撃する。いきなり背後を突かれた傭兵団は、部隊の再編成も体制を整える暇もなく乱戦に突入する。
戦いは、やはり一方的だった。デル隊は反撃の隙も与えず、水平に攻撃魔法を放ち、前衛の3名が剣を振るって敵の命を一撃で奪う。四肢の欠損がない状態なら、どこか復活した聖堂院ですぐに傷を修復して動くことができる。しかしデル隊の前衛の剣や魔法攻撃は敵の胴や首だけではなく、腕や足までも一気に斬り飛ばしている。そのため、復活したとしても欠損部分の修復と失われた血液の復活のためのリハビリに数週間の時間をかける必要がある。つまり長期戦の場合は戦力的に相手にダメージが大きくなる戦い方をしているのだ。
デルが属するチームは、さすがというべきか1分もかからないうちに傭兵の集団の中央を突破して騎士団側へと駆け抜けた。最前線側には高レベルの傭兵が前衛を務めているため、デルは3方を一気に囲まれる。数名の傭兵がデルに向かって踏み込みながら剣を振り下ろす。デルは気にもとめず一瞬で正面の敵の目前へと迫り、自身の剣を腰の高さから相手の首へと振りきる。敵の体はそのまま前へと踏み込んでくるが、頭と剣を握った手は前進することなく、その場に落ちて絶命する。
正面の敵が絶命して体が消えるとほぼ同時に、両脇の敵、そしてその背後に回り込んでいた敵の体も消滅する。デルの脇を固めた前衛2人の剣と、ほぼ同時に放たれた魔法による氷の刃が周辺の敵6名の体を一気に斬り裂き、まるで糸の切れたマリオネットのようにその場に崩れ落ちて消えていったのだ。このチームの力は傭兵ごときでは、あがなうことのできないほどの威力だった。
戦闘開始から3分後、傭兵の姿は1人としてその場にはなかった。ただ、傭兵の装備であった剣や鎧だけが散乱している。今回はこれらの装備を回収する必要がないため、そのまま放置して行くことにする。デルが自分の隊に念話を飛ばすと、チームから念話が入る。。
「デル隊、次の場所に移動する。各チーム状態の確認を急げ。」
「デル隊長、前衛なのになんだか戦い足りないですね。」
「私なんて回復魔法を使う機会がありませんでしたし、ただ走っただけですよ。」
「私も結界張っていただけで、最初に火球を一回飛ばしただけです。」
「今回はダイナブ隊のサポートだからね。まぁ、我々も新魔王軍として復活したばかりだし、リハビリみたいなもんだよ。」
デルは自チームと各チームの報告を受けた後、計画通りに隊をリオ山脈麓の参道入り口に移動させ、チームごとに散会させて休憩に入った。ここでダイナブ隊の追撃から逃れてきた傭兵団を迎え撃つ予定だ。
「デル様、この戦いが終わったら魔王様と旅に出るって本当ですか?」
「誰から聞いたんだ?」
「ダイナブ様も一緒に行くんだって食堂で話されてましたよね?」
「あぁ、その話だったら、まだ何も決まっていないよ。魔王様が、もしこの大陸を見て回られるならご一緒したいという話をしていただけだ。」
「なるほど、魔王様との旅が実現したら楽しそうですものね。」
こんな念話の雑談の最中でも多重の結界を張り、音や気配を隠して探知魔法をかけ続ける、なかなか優秀なデル隊の面々であった。




