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【第3話 ジュリアの思い】

4月に調子よく書いていた第三話ですが、エディターの不調で保存する前に全て消えてしまいました。この「第3話」は書き直した物で、第2話に続けて書いたものとは少しイメージが違います。思い出しながら書いても同じ文章にはならない・・・悲しい事実です。こまめに保存するよう心がけます;;

【第3話 ジュリアの思い】--------------------


時は遡り、勇者フィルが魔王になった当日のこと。結婚式の途中に白い光の中に消えたフィルがいくら待っても戻らず、王城の大広間はパニックになった。そんな中、聖堂副院長であるシアが驚きの情報を持ってその場に現れた。そして悲痛な面持ちで王に告げる。


「ラノム国王様、聖堂院長ナミル様より、お告げについての火急の伝言でございます!」

「こんな時にお告げとは、いったい何があったというのだ。」


「新しい魔王が降臨したとのことでございます。そして・・・ その魔王の名前は・・・ 」

「魔王、スフィルネでございます。」


新魔王の名前が告げられたとたん、王も、そしてその周囲の者全てが息をのみ、その静寂は気配を読み取った周辺の人を黙らせ、静かに、そして確実に静寂の輪が広がっていく。そして、重い言葉が発せられ、その言葉は静寂の中を駆け抜ける。


「も、もう一度申してみよ、新しい魔王のな、名前を!」

「聖堂院長ナミル様が受けられた、新しい魔王の名前は、魔王スフィルネでございます。」


まるで時が止まったかのように静まりかえった式場の中、驚きと失望、不安や悲しみの入り交じった空気が支配する。そして、ジュリアの言葉が静寂の中に響き、その場の時間が動き出す。


「どうして、どうしてフィルが魔王なの!」


悲しみのあまりその場に泣き崩れるジュリアの側に駆け寄り、そっと肩を支えてジュリアを彼女の部屋へと連れていったのは、ジュリアの侍女メアリと、さっきまでの勇者スフィルネの侍女ソーニャだった。


悲しみのあまり、その日を泣き暮らしたジュリアは、健気にも翌日の朝からみんなの前へと姿を現した。しかしその姿は周りから見ても痛々しく、親である王や王妃はもとより、騎士団員や従者、侍女達の誰も、ジュリアにかける言葉が見つからなかった。


そんな中、ジュリアが王に願い出たこと、それは、ソーニャを自分の侍女の1人に加えて欲しいということだった。ラノム王も王妃も、魔王となったスフィルネに王女を嫁にやるわけにも行かず、早く新しい恋を見つけて欲しいと願ってはいるが、さすがに今のジュリアの様子を目の当たりにしては、許可するしかないのが現状であった。


ジュリアの侍女となったソーニャは、侍女メアリとともに誠心誠意ジュリアの心のケアにつとめた。毎日のように人気のクッキーやケーキ、心が落ち着く効果のあるハーブティーなどを探してきてはティータイムを安らぎの時間にした。その甲斐もあってか、やがてジュリアは新しく召喚された勇者達と打ち解け、ともに連携をとったりレベルを上げたりということもできるようになった。


しかしジュリアのスフィルネに対する思いが変わることはなく、それ故に葛藤する彼女の心はその体に影響を与えていた。ジュリアの体は、日々の鍛錬に反してどんどん線が細くなり、食も進まず顔色は日に日に悪くなる。夕食後は自室に籠もり、眠りに入ると自然と涙が頬を流れるのであった。


ある日の夕食後のティータイム、ジュリアはメアリとソーニャに魔王や魔族について話し始めた。


「ねぇメアリ、魔物は普段から村や町の人や家畜を襲うけど、魔族は勇者しか襲ってこないのはなぜかな。」

「そういえばそうですね、狩り場などで出会っても、お互いに関わらないようにして避けていますよね。」

「ジュリア様、魔物は無差別に人族や魔族を襲いますが魔族は知性と理性があります。だからお互いに戦いを避けていますよね。」

「ソリルやリチの町や村では、人族と魔族が商いをしたり共存したりしていますのにね。」

「ソーニャ、どうして魔族と人族は戦うのでしょう。その村のように共存することはできないのでしょうか。」

「ずっと昔から、その理由さえ忘れられたのに魔族と人族の戦いが続いています。なぜなんでしょうね。」

「わかっているのは、魔王も勇者も召喚されて異世界からやって来ることくらいでしょうか。」

「人族と魔族が仲良く暮らす世界が来れば、きっと・・・。」


寂しそうに窓の外を見つめたまま、ジュリアの言葉は最後までは語られることはなかった。ただスフィルネに対する強い思いが伝わるだけであった。そしてその日から口数がさらに減り、憔悴しきった姿に業を煮やした王が呼んだ医師の見立てにより、ジュリアに部屋で安静にするようにと厳命が下る。


そうしてついにソーニャは動くことになる。ソーニャはミルノに相談し、スフィルネの思いを確認した四天王は総意の元で魔王スフィルネをジュリアの元へと連れて行く計画を立てる。そしてソーニャは最後の決断をする。うまく行かなければ魔王軍副団長の職務も王城潜入捜査も降りることになるが、それも仕方ないことだと自信を納得させて。


数日後、もう1人の侍女メアリにどうしても外せない用事ができる。当然ソーニャの計画通り。そしてソーニャはリラックスできるハーブティーとミルマ公国から取り寄せたクッキーを持ってジュリアと2人きりのティータイムをむかえる。


「ジュリア様、きょうのクッキーはミルマ公国の西の町、ミルドで今一番人気があるソフトクッキーなんですよ。」

「そうなの、いつもお気遣いありがとう、ソーニャ。」

「このハーブティーと一緒だと、お口の中も心も幸せいっぱい間違いなしです!」

「ところでジュリア様、ものすごく大切なお話があるのですが、小さな声でお話ししても近くの女性兵士さんや侍女さん達に聞こえちゃうと困るので、音の結界を張ってお話ししてもいいですか。」

「まぁ、ソーニャったらそんな大事なお話があるの?いい人でもできたのかしら?」


そう言って微笑んだジュリアだが、スフィルネのことを思い出したのだろうか、すぐに表情が暗くなる。そしてソーニャは声が外に漏れないように結界を張って話し出す。


「まず、質問は最後にして最後まで私のお話を聞いてもらえますか。とっても大事なお話なんです。」

「わかりました。聞きたいことがあったら最後に聞けばいいんですね。」

「それと、お話の最後に、ジュリア様に決めて欲しいことがいくつかあるんです。」

「私が何かを決めるっていうこと?」

「はい。全部聞いて、いくつかジュリア様に決めて欲しいことがあります。私は、ジュリア様の決めたことに従います。」

「そんなに深刻なことなんですね、ソーニャ。わかりました。話してみてください。」


ソーニャは話し始める。最初に話したのは最大の秘密、自分が魔族であること。驚いた表情のジュリアだったが、何も聞かずに静かに話を聞き続ける。そして2番目の話は、スフィルネが優しい心を持ったまま魔王となり、魔族の生活や人族では知り得なかった真実を知り、思い悩み苦しんでいること。どうして魔王が勇者を殺すのか、その理由を知ったスフィルネが、ある決断に迫られていること。そんな葛藤や苦しみの中、ジュリアに会いたい気持ちと魔王であるため会えないと考えているので、魔族のみんなで会いに来させる計画を進めていることなどをジュリアに話した。そして最後にこう告げた。


「質問があれば聞いてください。その後に、決断をお願いします。」

「私はソーニャが魔族と聞いてとてもびっくりしました。でも、ソーニャのことは信頼しています。お話は全部本当のことだと思います。私は何を決断すればいいのでしょう?」


「では、ジュリア様に3つの決断をお願いします。」

「ジュリア様、本当に今、魔王となったフィル様に会うことを望まれますか?そして、もし会うことができても、それを周りの人に秘密にできますか?それから、私のような魔族がこのお城にいることを拒否されますか?」


「ソーニャ、ありがとう。私はあなたがこのお城にいてくれて、本当に嬉しく思います。これからもずっとそばにいて、私と同じ時を過ごしてもらいたいと思います。ただし、平和になるまで正体は秘密にしましょうね。」

「私はフィルに会いたい。会うことがこの国の全ての人を裏切ることになったとしても。でも、今の私の立場では、裏切ることはできないの。もしこの国を滅ぼすために会うのであれば、私はあきらめざるを得ません。」

「でも、フィルに会うことが皆を裏切ることにならないのであれば、フィルにひと目でもいいから会いたいと思います。もちろん、会ったことは絶対に秘密にすると誓います。」


「わかりました、ジュリア様、信用してくれてありがとうございます。フィル様が来られるのは、新月の夜、つまり明後日の夜です。それまでに、ちょっと作戦を練りましょう!」


そうして長いティータイムとともに夜が更けていった。その翌日、ジュリアの顔色はとてもよくなり食も進んだ。その様子を見た王や王妃をはじめ、城中の者が本当に久しぶりに明るい笑顔のジュリアを見ることになったのだが、その理由をはかることができる者は誰もいなかった。

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