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【第1話 魔王の最後】

学生の頃に書きかけていた小説が多数あるので少し手直ししながら書いてみます。多くのネタはあっても文才のないのんたですが、少し頑張ります。フィルとジュリア、ハッピーエンドになるのでしょうか。確証はありませんし、完走できるかはわかりませんが、できるだけ読みやすくなるように工夫や手直しをしていきます。途中から砕けた文章になるかもしれませんが、よろしくお願いします。

第1章


【第1話 魔王の最後】--------------------


 輝く閃光とともに私の聖剣バリューから放たれたファイナルショットが袈裟懸けに魔王の体を真っ二つに切り離す。


「ぐぁぁぁ‥」 悶絶のうめきを残して魔王の体が霧状に霧散していく。


「勇者よ、あり‥」


と言いかけたところで魔王の体も顔もすべて消え去った。これで60年続いた魔王軍との戦いも終わる。いったい最後に何を言いたかったのだろう。しばらく考えている間に、魔王城の至る所で魔王の配下もかき消えて行き、それと同時に一瞬の静けさ、そして、その静寂を一斉に沸き上がるいくつもの歓声がかき消す。


「フィル、とうとう終わったのね・・・。」


「うん、終わったはずだよ、ジュリア。」


私の左にジュリアが寄り添うように立ち、二人の傷ついた体は遠方からのシアの回復魔法に包まれて癒やされていく。私は左腕でジュリアの肩を引き寄せる。激しい戦いに、まだ呼吸も整わず、赤く上気した顔で私の顔をじっと見つめて微笑むジュリアの顔を見つめ返す。


長いまつげに鳶色の瞳。細く鼻筋の通った端整な顔立ちに、気高さと気丈さを感じさせる、私と愛の言葉を語り合った唇。腰まで伸びた長い髪はジュリアのお気に入りであり、私好みでもある。私の脳裏には、これまでの魔王討伐の道のりが一瞬かすめたが、すぐにジュリアとの婚礼の儀へとその思いを馳せていた。


「ゴ、ゴホン。お熱いところを邪魔して悪いが・・・」


右後ろにいた騎士長キュエルが声をかけてくる。なんて無粋なやつだ!すると、たたみかけるように横にいた騎士団長のダリルがこちらを向いて言い放つ。


「みんなが勇者の言葉を待ってるぞ。さぁ、勇者よ、王国に凱旋しよう!」


「あ、あぁ」


二人の世界に浸りかけていた私達が、ふと周りを見渡すと、みんなのにやけた顔と熱い視線が私とジュリアに集まっていた。ちょっとばかりはずかしい。二人とも照れて顔が赤らんでくる。そして私は帰還の景気づけに聖剣をあげて叫ぶ。


「みんな、王国に帰ろう!」


「おぉ!勝利だ、凱旋だぁ!!」


一斉に声を上げて肩を抱き合いながら、あるいは肩を貸し、担架に乗せられて回復魔法を受けながら王都への帰路につく。これで魔王城も我が王国の領土になったので、移動魔法<ルーン>が使えるようになったので一瞬で帰れるのだが。




「チュンチュン、チチチッ!」


暖かな日差しと鳥の鳴き声で目を覚ます。うん、まだ眠いな。まどろみの中で昨日までの記憶をたどる。たしか魔王城の決戦を制して勝利したはずだ。凱旋パレードに祝宴、あぁ、きっと疲れと酒の飲み過ぎで頭がすっきりしないんだろうな。まてよ?本当に討伐したのか?今までに何度も見たのと同じ夢か?今日が討伐対の出発日だったかな?なんだか今朝は、まだ頭がぼんやりしている。そしていきなり頭がさえてきて思わず上半身を起こして独り言をつぶやいた。


「あれ?えっと、夢だった?」


「あら、フィル様ったら、ジュリア様との結婚式の夢でも見ちゃったんですかぁ~?」


え?声のした方を見ると、侍女のソーニャがいつものメイド服で、私の朝食の用意をしながら、笑いをこらえ切れないにやけ顔でこちらを見ていた。王国の侍女長であるピニョンの指示で、勇者である私の身の回りの世話役をしているが、なかなか優秀な侍女だ。


ソーニャは、まだ幼さの残る狸顔だが、その愛嬌のある顔立ちと屈託のなさは、この界隈でも5本の指に入るほどの可愛さということで人気が高く、言い寄る男も多いと聞く。たしか今年で17歳だったかな。屈託がないのはいいのだが、フレンドリーすぎる感があることと、天然の入ったこの茶化すような発言がちょっと苦手だ。


「よい夢を見られましたねぇ、でも結婚式の本番は今日ですよ!きっとうれしくてなかなか寝られなかったんでしょうねぇ、うふふっ。」


「あ、いやぁ、えっとぉ。違う違う!そんな夢じゃないって。」


「まぁ、そういうことにしておきます、フィル様!」


よかった、魔王討伐完了は夢じゃなかったようだ。だんだん頭がはっきりしてきた。昨日で2日間にわたる凱旋パレードと王宮での長い宴が終わり、やっとゆっくり寝ることができたんだった。


「とりあえず、温かい食事を召し上がれ。そしてお召し物をお着替えくださいね。2時間後にはお式ですよ。」


いたずらっ子っぽい顔をしたソーニャがスカートを翻して部屋から出て行きかけて、またひょこりと顔を出す。また最後に茶化していくのはこの子のいつものパターンだ。


「あ、下にダリルさん達が来てますよ~。一日にジュリア様と2度も式を挙げられるって幸せですね~、うふふっ。」


やれやれ、完全に勘違いされたままのようだ。ダリル達に変なことを吹き込まなければいいんだが。ベッドから起き上がり、テーブルについて朝食を口に入れる。そのとき、ふと魔王の最後の言葉を思い出した。


<勇者よ、あり‥ > アリの分際で? いや、この世界にいるアリはアリと呼ばないし、後で覚えていろよ!なんてベタなこともたぶん言わないだろう。まぁ、ありがとうってことは絶対にないだろうし、魔王は最後に何を言いたかったのだろう。しばらく考えながら食事をしていると、ドカドカと重い足音が響いてきた。


「おはよぉ、勇者殿、食事は済まれましたかな?」


いきなりドアを開けて騎士長キュエルがにやけた顔を出す。どちらかと言えば面長なハンサムの部類に入るのだが、先の戦いで額から右目尻まで刀傷を受け、勲章だと言って回復魔法を拒んでいる変なやつだ。今日はさすがに騎士団の正装に身を包んでいるが、普段は身軽に動けるからといって皮鎧に金属プレートを貼り付けて防御魔法をかけた装備を身にまとっている。しかし、いつものことだが遠慮というものを知らないのか。


「っていうか、勇者様、ちゃんと眠れましたか? 式の前日で興奮して眠れなかったとか、ないですかぁ?」


「風の噂では、1日に2回も式を挙げるそうですね~。」


やっぱりソ-ニャのやつ、いらないことを下で言いふらしたな。キュエルは私が召喚された2年間、共に魔族や魔物と戦い抜いてきた気の知れた仲ではあるが、出会った日からあまり遠慮というものを知らないやつだ。お前も早くいい人を見つけて結婚すればいいのに。絶対に倍返ししてやる。そういえばお前、隣の公国の王子じゃなかったっけ?そんなマナーで大丈夫か?


「私なんて結婚式の日の朝方まで眠れず、うとうとしていたら遅刻しそうになって嫁にどやされましたぞ。」


ハルンに続いて王国騎士団長のダリルが顔を出す。ダリルよ、お前までソーニャの話を信じるのか。よく日に焼けた肌に赤茶けた短髪で、角張った輪郭の顔に黒く濃い眉、そして黒い瞳と頑丈そうな鼻。太い腕や背中には数え切れないほどの刀傷があるが、顔には傷ひとつ作らないというのが自慢らしい。これがまたなぜか回復魔法で傷を消すのを嫌がる。信条に反するらしい。きっとキュエルはお前のまねをしてるんだぞ、ダリル!


戦いになると阿吽の呼吸で安心して背中を任せられるほどの剣の腕前なんだが、愛妻家のくせに仕事帰りには必ず部下と酒場で盛り上がり、家に帰ると奥さんに叱られて小さくなるという毎日を過ごしてる。それなのに愛想を尽かされないのは、奥さんもダリルを深く愛しているからに他ならない。


「昨日は団の打ち上げでしてな。キュエル達と飲み過ぎて、夜明け前に家に帰って嫁にいやというほどケツを蹴られましたわぁ~。わはは!」


ダリル団長、もういい加減歳なんだから家族のことをしっかり考えて、足を地に着けた生活をして欲しいんだが。そもそもキュエルを躾けるのも仕事だろうに。公国の王子がマナーを知らないとか、恥書かせたら君の立場が悪くなるんだよ?




式が始まってすでに10分近くが経過した。今は何の最中かというと、国王に手を引かれ、祭壇の前に立つ私にゆっくりと歩み寄る国王とジュリ。バージンロードの両脇では、薄いピンクのドレスを身にまとった子供達がバージンロードに花びらをまき、その上を一歩、また一歩と進む。そんな場面だ。あと5m、あと4m。なかなかもどかしいものだ。なんといってもバージンロードが50mはあるのだから。


「きれいね!すてき!」


「とってもカワイィわぁ!お人形さんみたい!」


「幸せにね!」


参列者からの歓声や賛美のささやき声が聞こえてくる。


たしかに私にはもったいないと思えるほどジュリアは綺麗だ。純白のウェディングドレスに肩口から斜めに走る幾筋かの光の帯。光に当たるたびにその色合いをわずかに変え、真珠色に輝いている。袖や裾はお馴染みのレースのフリルがちょうどよい大きさと薄さでバランスよくドレスの縁を彩り、広い胸元は大きすぎず小さすぎない胸の谷間を見せつける。そしてヴェールにあしらった草の蔓と小さな花達は、白金のように輝くティアラを際立たせている。ドレスの後ろに伸びる裾を持つ二人の子供はとても可愛くて、本当の天使のように背中に羽をあしらったリボンをまとっており、魔法の演出だろうか、少し浮いているように見える。


あと数歩で王から私へとジュリアの手が受け渡される。王と位置の確認の目配せをし、満面の笑みの王とジュリアが目を合わせたとき、突然、私は祭壇ごと光に包まれる。神父は驚き後ずさる。私から周りはなんとか見えるが、この光量では周りから私は見えそうにない。


すると、<天の声>が会場全体に響き渡る。


「勇者よ、見事に使命を果たしたのう。これで君の使命は完了じゃよ。お疲れ様じゃったのう。」


おいおい、せっかくいいところなのに、こんなタイミングで邪魔するなよ、天の声!


そして輝きが収まると、なぜか私は暗黒の中にいた。


「勇者様、勇者様はどこ!」


「フィル、どこなの?返事をして、声を聞かせて!」


参列者の声、ジュリアの声がかすかに聞こえてくるが、何も見えない。そしてやがて声すらも闇に飲まれていった。

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