009.おばかさん
ドンッ
頭陀袋が冒険者ギルドのカウンターに力強く置かれた。
割れ物だったら壊れているぞ。
「この街では、野うさぎを高く買い取ってくれるって聞いてきたんだ。さっさと買い取ってくれ」
よそ者っぽい冒険者は、頭陀袋の底を持って、開いた口を下に向けた。
ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ
「「「「ひぃ」」」」
冬奈たちの小さい悲鳴が上がった。
頭陀袋から出てきたのは、グロ注意が必要なズタボロの野うさぎの死体だった。
それも狩ってから数日経ってる状態だから【自主規制】【自主規制】【自主規制】【自主規制】。
血抜きもしてねぇし、もう食材として解体できない本当にただの野うさぎ死体だ。
これじゃ、犬の餌にもなんねぇぞ。
冬奈たちも、討伐部位や納入品で死体とかは見慣れてるといっても、持ち込まれた野うさぎの死体は、あまりにもヒドい状態で、目を背けるくらいだ。
それでも、吐かないのは、さすがだ。
「ぼ、冒険者ギルドでは、依頼のない、野うさぎの引き取りは行っていません。さっさと持って帰ってください。そんな状態じゃ肉屋でも売れないですけどね」
一番ベテランの春奈が俺を隠すように前に出てそう言った。
「(ケイちゃん、大丈夫だから、大丈夫だから)」
そう言って冬奈の俺を抱き締める腕に力が入った。
「王室からの指名依頼があるって聞いたぜ、野うさぎなんて、誰が納品しても一緒だろ? あんたらが、ちょっと黙ってくれれば済むことだろうが」
「馬鹿ですか? 誰が納品しても一緒なら指名依頼なんてしませんよ。違いが分かりすぎるから、指名依頼なんですよ」
「肉の味がそんなに変わるかよ。さっさと金貨と交換しろよ」
「無理です」
「嬢ちゃんたちよぉ、冒険者たちがいるから強気になってると思うが・・・ぐるりと見渡しても、俺と目が合いそうになると俯くような冒険者ばかりだぜ。そんな臆病者たちが、嬢ちゃんたちが何かあったときに守ってくれるんか? これからは、この冒険者ギルドの冒険者たちを俺たちが仕切ってやるから、その辺を考慮して、さっさと交換しな」
ああ、視線が痛い。
期待している視線が痛い。
でも、冬奈が俺が危険なことをしないように怖いのを我慢してるんだぜ。
ああ、もう、しょうがねぇなぁ。
「(冬奈、ごめんな)」
俺は、切れやすいようにオリハルコン製の鎖から銀製に付け替えた首にかかっている冒険者カードを服の首の部分を通して取り出した。
見慣れたナイスな貧乳がちらっと見えた。
くっ、相棒が反応しねぇ・・・。
1年経っても、相棒のことが忘れられねぇ。
でも、今は相棒のことを気にしてる時間はねぇ。
「冒険者ギルドに無理難題をふっかける冒険者たちは、このFランクの冒険者、ケイがゆるちまちぇん」
よっぽど賢い人間でなければ、最後だけ幼女言葉にしておけば気付かれない。
生活の知恵だ。
俺は、冒険者カードをいけ好かない冒険者の顔の前に突き出した。
「うっせーぞ! このクソガキは! こんなとこで遊んでんじゃねぇ」
パシっ、カッ、カラン、カラン、カラン、カラン
「「「「「「あっ」」」」」」
無情にも、俺のオリハルコン製の冒険者カードは、払いのけられて、床を転がっていった。
秋奈が慌てて、転がった俺の冒険者カードを拾いに行った。
「やっちゃいましたね」
「やっちゃったな」
「ケイちゃん、ナイス」
「冒険者ギルドで待機しててよかった」
「俺のケイたん、ぐっじょぶ」
「今日は美味いモンが食えそうだ」
今まで、俺に痛い視線を向けていた冒険者たちが立ち上がった。
と言うか、マジ痛いのが混ざってんぞ。




