後【後編】
私が声を掛けると、少女はまるで夢から覚めたようにハッとした表情になり、こちらを若干怯えがちに見つめる。
自分の身に何が起こったのか、上手く把握できてないといったところだろうか?
「あの……此処は一体どこなんですか?」
「どこと言われても……アナタがあのウサギと一緒に居たのなら、一応アナタ達の世界とは別世界といえば良いのかしら」
「別世界……私、これからどうしたら良いんでしょうか?」
別世界と言った途端、少女の顔が強張り眉尻を下げ困惑気味にポツリと漏らす。
事情は良く分からないけれど、もしかしたらこの少女はセレスの魔力暴走による事故であのウサギに魂がくっ付いてしまう羽目に遭ったのかもしれない。
「どうしたら良いか聞きたいのは私の方なんだけどね……アナタは何かしたいことはないの?」
「したいこと……私‥‥は……っ」
私の問い掛けに対して、少女は何か思い立ったのか急に涙をボロボロと溢れさせる。懐からハンカチを取り出してそっと手渡すと、少女はそれを受け取り溢れる涙を止めようとする為か必死に拭きだした。
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「わ゛、わ゛だじ……もうずっど、あのウザギど一緒に‥‥廻り続げなぎゃいげないのがっで思っで‥‥ッ」
「そう‥‥怖い思いをしたのね」
「でも゛‥‥終わっだんでずよね……だから私、これからどうしたら良いのか分からないんです」
あれから部屋に案内して、泣きすぎによる鼻声混じりな声音でこれまで何があったのか少女は説明してくれた。
幼い頃高熱でうなされていた際自分の体を何者かに乗っ取らたこと、霊体の状態で彷徨っていたらセレスの魔力暴発に巻き込まれたこと、その暴発によりウサギの魂にくっ付いてしまい何もできなかったこと――そして、ようやく今日解放されたこと。
私の復讐心による仕返しが、こういった関係ない者まで巻き込んでしまったのが心苦しくなった。
けれど、少女には時戻りの薬を渡したところで無意味だろう事は明白だ……何せその時に戻ったところで、結局何者かに体をまた乗っ取られてしまうだけなのだから。
「アナタを元の体に戻してあげたくても、多分アナタの元々の身体は消滅してるでしょうね、例の暴発で……いっそのこと、今の記憶を無くして転生してみたらどうかしら?」
「転生……そんなことができるんですか?」
「できるわよ、アナタが輪廻に還れば良いだけの話だからね……ただ、元の世界に転生したとしたらまたその何者かに乗っ取られる可能性もあるから、違う世界で転生してみたら?」
「違う‥‥世界で……」
私の提案に少女は眉尻を下げて、悩ましげにポツリと呟く。だけど、多分元の世界の輪廻にはその乗っ取りを行った者の魂も行っている筈だ――そっちで転生しても、同じ運命を辿る可能性は否定できない。
少女は暫しの間思案した後……意を決したように真っ直ぐ此方を見つめた。
「記憶を無くすのは怖いですが……転生したいです、今度こそ私はきちんと生きたい」
「分かったわ……私の知り合いの世界の神に、受け入れてもらうように頼むから目を閉じてくれる?」
「は、はい……」
立ち上がり少女の前に行き、そっと頭上に手を翳して知り合いの神とコンタクトを脳内で取ってから呪文を唱える。呪文が終わると同時に、少女の身体が蜃気楼のようにゆらりと揺れながら消えていった。
次に生を受けたら平穏なモノであってほしいと願うけれど――転生先に選んだ【地球】は此処のように魔法とかが無く、時間軸のズレも多少あるのが少し気掛かりだ……まあ記憶を無くすのだし、きっと上手くやれるとは思うけれどね。
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――小さい頃から、私は朝起きると自分の身体をペタペタ触る癖がある。何故かは分からないけど、こうすることで安心できるから。
昨日はゲームのし過ぎで若干寝不足だったりする……発売日をずっと待ってたゲームだったから、手に入れて必死に攻略してた。やってたゲームは【フォーチュン~アナタは私の運命の人~】っていう所謂乙女ゲーム。
テレビのCMで見た時ビビっと全身に雷が走ったような感覚になって、手に入れなきゃいけないって思い必死にバイトしてお金貯めて購入した。
内容としては魔法の才能がある一般人と貴族達が纏めて通う魔法学園に入学した主人公が、そこに通う上流貴族の人達と恋愛するっていうありふれたネタなんだけど――私は何故かこのゲームにすごく惹かれたんだよね。
昨日ようやっとすべてのキャラを攻略し終えて、今日はこのゲーム一緒にやった子の家に遊びに行く予定。約束の時間に遅刻しないように色々準備を済ませ、家を出てその子の家に向かう。
交差点の歩行者信号が赤になり信号機に軽く凭れて青を待つ時間の間、携帯を弄り友達にメールで連絡を取っていたりとつい画面に集中してると――大きなブレーキ音と自分の身体に走る衝撃と強い痛み。
一瞬何が起きたか分からなかったけど、周りの喧騒と救急車を!!という叫び声に……薄れゆく意識の中、赤でぼやけた視界で見つめてみると、ひしげた車が私の目の前にあった。
あ、私轢かれたんだって意識した途端――腹部と胸元にすごい激痛が走って血がどんどん減っていく感覚もする。
これはもう助からないなぁって暢気に理解した瞬間――私の視界は真っ暗闇に覆われていった。
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――身体が酷く熱い。
熱いうえに、何かが私を押し出そうとしている感覚がする。
でも私は此処を出たくない、此処は【私の居場所】だって無意識に思った。弱々しく私を押し出そうとする何かを私が逆に押し返すと、その感覚はすっと消えてしまう。
熱がようやく引いていき、室内に差し込む陽射しの眩しさから目を覚ます。ゆっくりと身体を起こすと、いつもより目線が低い、身体も小さい。
室内を見渡してみると――そこに見慣れた光景はなくて、なんだか寝てたベッドもふかふかしてる。慌ててベッドから降りて室内にあった化粧台に身を乗り出し、自分の姿を確認した。
そこには以前の私とは違う、愛らしい少女の顔が映っていた。
私はその顔を呆然と眺めてしまい――何故その言葉が出たのか分からないけど、無意識に【ただいま】と呟いた。
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ウサギを書いてから、ふと思い立ったのがミリアン(魂)の事でした。
よくよく考えてみたら、魂にも相性があって、違う魂が入ったら普通は反発したり何かしらがある→なら入った魂は元々自分が生まれ変わった(異世界転生)後の魂が還ってきちゃったのかなとネタが浮かび、この話ができました。
我々人間の魂は半分らしいですから、こういうなり方もありなんじゃないかという(´∀`;)
幸せな終わりとは言えませんが、結局は自分を追い出したのは自分自身だったというオチでした( ̄∀ ̄;)




