表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

死【後編】

前半部分はウサギ視点、後半はとある人物視点となりますのでご了承くださいませm(_ _)m

 



 ――ふと目が覚めて、ボクはゆっくりと身体を起こす。



 セレスの放った魔力の光で意識を失ったボクは、自分がどうなってしまったのかも分からずにいた。


 ただ、自分の身体を改めて見るとあの時の怪我は無く、ボクは草原の上で寝ていたらしい。


 此処はどこなのかと辺りを見渡すと、木造りの一軒家が視界に映る。 


 その家の前には、一人の女性が此方を睨みつけるように立っていた。何故睨まれているのか理由は分からないけれど、視線から殺意らしきものが感じ取れる。



「アナタ、月のウサギね……まあ、今ではただの穢れた地上のウサギのようだけど」



 憎悪を含んだ声音で告げられた言葉に、ボクは驚きを隠せない。 


 驚愕から固まってしまい動けずにいるボクの元に、女性は颯爽と歩み寄り首根っこを掴まれてしまう。


 痛みにもがくボクをじっと見つめ、段々睨みをきかせた顔から無表情へと変わっていき、掴んでいた手を離された事でボクは草原に着地する。



「地上に堕とされたことで話せないのね……けど、アナタが誰かに逢いたがっているのは分かるわ」



 ボクの顔をじっと見つめながら、女性は真面目な口調で言い懐から小瓶を取り出す。小瓶の中には薄い水色の液体が入っていて、女性が瓶を軽く振る度それがチャポチャポと揺れる。 



「アナタは気付いていないと思うけど、此処はアナタが居た場所とは別世界……きっと、捜し人の魔法で飛ばされたのでしょうね、アナタの身体には転移の魔力が若干残ってるもの」



 小瓶をじっと見つめていたら、女性は雄弁に語りだした言葉にボクは目を見開いた。ボクに掛けられたのが転移の魔法なら――セレスは生きているんじゃないかと思ったからだ。



「残念だけど、捜し人は生きてないんじゃないかしら。捜し人の魔力は暴発してたのがアナタの身体から分かるし、転移の魔法は精神力が関わってくるモノ――狂った使い方をしたなら、次元の狭間から出られなくなってるでしょう……アナタは運良く此処に飛ばされただけよ」



 期待に目を輝かせた途端、絶望に突き落とすように女性は淡々と述べていく。


 それならセレスには一生逢えない上に、セレスはずっと独りぼっちになってしまうというのだろうか?そんなの……ボクには耐えられない。




「……捜し人を見つけたいなら、一つだけ方法があるわ――アナタが過去に戻って何とかすれば良いのよ」




 絶望から青ざめていたボクに対し、女性は少し弾んだ声音で提案して、先ほど揺らしていた小瓶をボクの前にそっと置いてくれた。


 コレを飲めば、またやり直す為に過去に戻って……セレスの暴走をボクが止めることができるだろうか?




「この薬は時戻りの薬、一度しか使えないし……時戻りの代償として、記憶を失うわ。その覚悟があるなら、飲みなさい」




 薬の説明を終えると、女性は小瓶の蓋を開けた後ボクの口元に持ってきてくれる。 


 ボクは意を決して小瓶の先を口に銜え、顔を上に向けて中身を一気に飲み干す。



 その瞬間――独特の苦みと共に襲い来る倦怠感に草原に寝込んでしまい、徐々に意識を失っていった。




 ――待っててねセレス……必ずボクが……助けるから……。





□■□■□





「……コレで何本目だったかしら、あのウサギに薬をあげるのは」 



 時戻りの薬によっていなくなったウサギの居た箇所に落ちている空になった小瓶を拾い上げ、部屋に戻りソレを棚に戻しておく。


 ウサギ用に作っておいた棚の中には、空になった小瓶がもう30を越えていた。



 時戻りの薬は記憶を無くして時を戻るモノ――結局は、同じ事を繰り返しているということにも気付けないまま廻るのだ。



 私がアレに薬をやらなければ、それすら起こり得ないだろう……最初は復讐心からだったこの行いが、いつからか罪悪感にかられるモノに変わった。



 月のウサギを造りし神は、私の大切な人を殺した者……だからアレが月のウサギだと分かり復讐心が芽生え、あの薬を渡したのだ。同じ時を何度も巡り、苦しめば良いと思って。



 けれど今となっては……いつかこの時戻りが終われば良いと思うようになってきた。


 それはきっと、あのウサギの真剣な眼差しと――ウサギが来るよりも前に来たセレスという女性の想いからなのかもしれない。



『助けていただきありがとうございます、私はセレスと言います』



『すみません、ウサギを見ませんでしたか?その子怪我をしてて……私が見つけてあげないと死んでしまうかもしれなくてっ』


『そう‥‥なんですか……私の魔力の暴走のせいでこんなことにッ』


『時戻りの薬?それを使えばあの時に戻れる……でも、記憶を無くしてしまうのですね』 


『それでも構いません……もう一度、デイズに逢えるなら』 



 そう言って時戻りの薬を飲んで消えてから、あのウサギが遅れてやってくる。



 たった一度だけ待ってみたこともあるのだけど、セレスが居る間は何故かウサギは現れない――まるで、運命がそれを許さないかのように。



 私も意地の悪い事に、セレスの捜しているウサギが来た事を教えず、またウサギにはまるでセレスが死んだみたいに伝えて、時戻りの薬を飲むよう勧める。




「だが、そろそろ終わらせても良いのかもしれないな……私が本当に復讐したいのはあの神であって、セレスやウサギではないのだから」




 独り言をポツリと漏らした刹那、草原に何かが落ちる音がする。きっと今度来たのはセレスの方だろう。



 私は家を出て、物音のした方へ向けて歩み出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ