死【前編】
ああ……嫌な予感が当たってしまった。
「ミリアン!大丈夫かい?」
「は、はい……私は大丈夫ですディズ様」
やめて……
「……セレス、どうしてこんなことをしたんだっ?!」
「あ……わた、し……っ」
セレスを責めないでっ!!
青い顔をして駆け寄ってきたディズは、ミリアンさんの方を起こしに行き――セレスには、怒りの表情を浮かべながら叫んだ。
その剣幕に気圧されたセレスは何も言えなくなり、顔色を青くしてガタガタと身を震わせている。
どう考えても、この状況はセレスにとって分が悪い上に――何かを言ったところで言い訳にしかならないと思う。
だけどボクは知っている……あの女がセレスに何て言ったのかを。
ディズは騙されている事にも、あの女の本性にも気付いていない。
「君がそんな子だったなんて思いもしなかったよ……」
ディズからの手紙が来なくなってセレスがどれだけ悲しんだのか、学園で逢える事をどれだけ喜んでいたのかも知らずに……よくもそんなことが言えたな!!
「二度と俺の前に姿を見せる…なっ?!」
「きゃあっ!!ディズ様っ?!」
ボクは怒りに我を忘れて、ディズの腕に飛びかかり食らいついた――セレスの心の痛みはこんなものじゃないんだからな!!
「くっ…離れろ!!」
「っ?!デイズッ!!」
だけど、ウサギのボクと人間のディズじゃ力の差は歴然で……ボクの身体は勢い良く地面に叩きつけられる。それと同時に、ボクの名を呼ぶセレスの悲痛な声が耳に届いた。
ボクの元に駆け寄り、そっと身体を抱き上げてくれるセレス。大丈夫、ボクは死なないよと言いたいけれど――今まで感じたことの無い強い痛みから、思うように息ができなかった。
月のウサギであった頃は不老不死だったけど、地上に堕ちた事でもしかしたら不死ではなくなったのかもしれない。
「ディズ様に怪我をさせるなんて、随分野蛮なモノを飼われてるのね。しかも似たような名前まで付けて……無礼にも程があるのではなくて?」
「ミリアン、良い。もうこの者に構うな……行くぞ」
「っ……許さない」
「何か仰いまして?」
ボクに関する事を冷めた言葉で言い募る二人に、セレスの腕がわなわなと震える。怒りの感情がビリビリと伝わってきて、無意識に身震いしてしまう。
セレスの身体が眩い光に包まれ、強い魔力がまるで爆発のようにこの辺り一帯に解き放たれる。
その光に視界が真っ白に染まると共に――ボクの意識は途切れていった。
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次回から、少しだけ補足の話が加わる為、今回の話を前編とさせていただきました。
あと数話で完結する予定ですが、今回も見ようによってはバッドエンドと思われるかもしれません(汗)