二
あれからボクはセレスの家で飼われる事となり、部屋の隅に籠に布を敷いた寝床を置いてもらっている。
時々セレスが外に連れ出してくれたりしたので、少しずつ地上の生活と空気にも慣れていった。
4月になり、ボクを連れてきた彼――ディズは学園に入学することとなり、セレスと離れ離れになった。その事をセレスは表面上は受け入れてるけど、本音は寂しがっているのが良く分かる。なぜなら今まで以上にボクのことを抱きしめる頻度が増えたし、何より時々こっそりと泣いているからだ。
こういう時、喋れたならセレスの話し相手になれただろうにと思うけれど、地上のウサギは喋らないモノなのだと月に居た頃に教わっていた。だからこのままで良いのだと自分に言い聞かせるも、時折寂しそうに笑うセレスに胸の内が痛む。
けど、ディズに手紙を書く時は嬉しそうにペンを走らせている為、その時はボクも安心していた。書いて送った二日後くらいにディズから返事が来たし、それを読むセレスの表情が柔らかくなるからだ。
セレスは手紙を書く時、必ずボクを机の上に乗せる。勿論その時は作業の邪魔をしないように机の端に寄り、手紙を書くセレスの様子を見守っている。
手紙の内容は日々の事や、ボクに関する事を書いていた。けど、セレスは手紙の中でボクのことを【ウサギ】と表記している。【デイズ】って名前を付けてくれたのだけど、多分それを書いてディズにからかわれるのが恥ずかしかったのかもしれない。
――でも、そんな幸せそうに笑うセレスを見る日々は長く続かなかった。
最初の内は必ずディズからの返事が届いていたのに、7月辺りから返事の文が徐々に期間を置くようになって……12月になった今では、返事すら届かなくなった。
最後に送られてきた手紙にも早く会いたいなとかそういった言葉はなく、ただ事務的な言葉ばかりで淡々とした内容のモノに変わっていてボクは驚いた。
ボクを連れてきたあの頃は、ディズはセレスのことを大事にしてると感じたのに、今の手紙には甘い言葉は無く本当にそっけない。
何かを思案しているセレスは、ディズから貰った最後の手紙をキツく握り締めている。そんなセレスを見てるのが辛くなり、少しでも笑ってほしくて、手の甲に軽く何度も鼻先を摺り寄せてみた。
「デイズ……お前は、私を慰めてくれてるんだね」
そう言って切なそうに笑いながら、セレスはボクの頭を優しく撫でてくれる。それが気持ち良くて目を細めると、セレスの表情が幾分か柔らかくなった気がした。
――4月になれば、セレスも学園に行く。学園に行けばディズに関する事も少しずつ分かっていくと思うけど、なんだか胸騒ぎがする。
どうかセレスが傷付く事がありませんようにと――今のボクには神様に祈るぐらいしかできなかった。
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