楽しい一日の始まり?
初めての投稿作品です。
今まで物語を書いたこともないので、お見苦しいところが多々あると思いますが、よろしくお願いします。
地に住まう者全てが見上げる空、そこにおわすは広き御心を持たれる我らの拠り所。
晴れ渡る空の神よ。誇り高き空の神よ。
我らを導きたまえ。
朝、目覚めてすぐに行うのは、我が国ヒンメルン王国が奉る空の神へのお祈りです。
部屋の大きな窓の前で目を閉じ、少し上を向き、祈りの言葉を囁きます。
ちなみに今日の天気は秋の涼しげな空気が気持ちの良い晴れ、なので晴れの祈りを捧げました。
ごきげんよう、私の名前はアネット・ツェーデ・ブルーメ、今年の夏で18歳になりました。
父譲りの深い群青色の髪と、母譲りの澄んだ水色の瞳を気に入っています。
顔立ちは、おだやかな父に似ていると思います。母はすらりとした背の高い気後れがするほどの美人さんなので、小柄で小動物系統の私とはあまり似ていませんね。
性格は、そのまま母似だと言われます。私はとても気に入っていますが、父と弟の反応を見ると、どうなのでしょう。
周りは色々褒めてくださるけど、私がブルーメ家令嬢だからなので、自分の分析からすると、どこにでもいる貴族の普通の令嬢ですわ。
ああ、でもここ数年、私はある噂の的になっているようです。あまり気にしたことはありませんし、表立ってはっきり言ってくる方はおりませんから、よくわかりませんが。
そうそう、ブルーメ家は公爵の位を賜っており、ヒンメルン王国で力を持つ大貴族の一つでもあります。
ちなみに、私の父ゲオルグ・ツェーデ・ブルーメは、国の宰相を務めていて、よく国王様から内政や外交について相談を受けていますわ。
仕事が忙しいのでなかなか会えませんが、家族を慈しむ良き父ですの。
私の家族は、両親と2歳下の弟マルティンと私の4人家族。ただし、現在母が体調を崩して実家で療養中なので、少し寂しいです。
それでも、執事に侍女たち、料理人から庭師まで、心優しく頼もしい者がたくさんおりますので、寂しさも紛れますわ。
トントン。
控えめにドアがノックされ、私はすぐに返事をしました。
「どうぞ、起きているわ」
「失礼致します。おはようございます、アネット様」
きっとりとお辞儀をして、私専従の侍女であるニナが部屋に入ってきました。
5歳年上のニナは、私の乳母の娘であり、幼い頃から侍女兼話し相手として、よく仕えてくれています。
姉代わりでもあるニナは、少し冷たい印象を与える美人さんなのですが、笑った顔はとてもかわいいのですよ。
まとめた髪と少しだけつり目の瞳はあたたかな鳶色で、背筋をピンと伸ばしている姿は、同性でも惚れ惚れします。
そんなニナに私は尋ねます。
「おはよう、ニナ。今日の予定はどうなっていたかしら」
「本日の午前中にアプフェル様のお茶会がございます。午後は特にご予定は入っておりません」
「わかったわ。お茶会用のドレスや小物は朝食後に決めましょう。手土産は手配できて?」
「ええ、パティシエのハンナの新作デザートを用意してあります。あと、今朝の朝食はアネット様リクエストのスクランブルエッグとチョコチップマフィンだと、料理長のシューナーから伝言でございます」
「そう、それは嬉しいことだわ!昨日おねだりしておいたのよ。それに、ハンナの新作デザートなんて、早くアプフェル様たちと食べるのが楽しみだわ」
朝から幸せな知らせで、思わずはしゃいでしまいました。そんな私を見て、ニナは優しく微笑みます。
「そうそう、本日の朝食は旦那様もご一緒だそうですよ」
「まあ、珍しいわね。お父様、ここ最近は仕事が忙しくて早めにお城へ行ってらしたのに。では、私も食堂へ行きますわ」
「はい」
身支度を整え、部屋から食堂までの廊下をニナと歩きます。おだやかな秋の日差しが大きな窓から差し込み、とても気持ちがいいです。
料理長特製の大好物の朝食、仲良しのお友達とのお茶会、午後には少し体を動かそうかしら。
楽しいばかりの一日を思い描いて、思わず鼻歌でも出そうなほど、私はご機嫌でいました。
そう。
このときまでは、これから起こる出来事など、想像もしていなかったのです。
本日の朝食は、スクランブルエッグとサラダとベーコン、ニンジンのスープ、チョコチップやプレーンのマフィン。どれも出来立てで湯気が出ています。とても美味しそう!シューナーに感謝ですわ!
「なあ、アネット。話があるんだが」
ふわふわスクランブルエッグに舌鼓を打っていた私に、父が恐る恐る話しかけてきました。
ヒンメルン王国の有能な宰相で、国のためなら非情になることも厭わないと言われる父が、娘の顔色を伺うような理由に、私はしっかりと心当たりがありました。
しかし、あえて気付かない振りをします。まだ、父がどうでるかわかりませんからね。
チョコチップマフィンを手に取りながら、私は微笑みます。
「はい、お父様。どのようなご用事でございますか?」
「ええと、お前は先々月に18歳になったのだな?」
「そうでございます」
「つまり、えー、15歳で社交界デビューしてから、3年経ったということだな?」
「その通りでございます」
「なんだな、相変わらず縁談の話が尽きないが、即決せずにしっかり相手を見極めて精査していると聞いている。うむ、さすが私とリモーネの娘だ」
「ありがとうございます」
「ところで、そのぉ、以前から話していたことなんだが、そろそろ、どうだろうか?」
「どう、とは?」
カチャリ。
音がした方向に目線を向けると、思い切り顔をひきつらせた弟のマルティンと目が合いました。手元のナイフをうっかり皿に落としてしまったようです。社交界でも有数の美男子として有名なマルティンの、母譲りの端正な顔が少し汗ばんでいます。
それにしても心外ですわ。長々と話を引っ張る父に笑顔で付き合ってあげているというのに、何故そんな恐ろしいものを見るような目で私を見るのでしょう。
父は若干冷や汗をかきながら、決心したかのように口を開きました。
「ルートヴィッヒ王太子殿下と会ってみないか」
「ごちそうさまでした。セバス、今日の料理も美味しかったと、シューナーに伝えて」
「って、アネット!話はまだ途中だぞ!」
「承知しました、お嬢様」
話している間に食事を終わらせ席を立った私は、慌てる父の言葉を華麗に聞き流し、微笑みを浮かべる執事のセバスに頷きました。そして、まだ話し足りない父に、にこりと笑いかけました。
「お父様、今日はゼール伯爵令嬢アプフェル様のお茶会に誘われておりまして、準備がございます。本日もお仕事頑張ってくださいね。それでは失礼致します」
母によく似ていると言われる、威圧を込めた笑顔を父に向け、スカートを持ち上げて淑女の礼をし、食堂を後にしました。慌ててニナも後を付いてきます。
お父様、本当に懲りませんのね。
ああ、これはいけません。早く部屋に戻らないと、大変ですわ。