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KYおっさんの場合。

「団・・・長・・・」

 

 カインが青ざめながらソファーから抜け出し、ハンモックに眠るサンジュに近づいた。

 幼かった自分を配慮して、共に寝ていたはずのコウヤはすでに移動車には居ない。ルイやバーントもまた、すでに姿が見えなかった。セピアもまたしかりである。

 マツリと二―ルはまだハンモックで熟睡中だ。

 つまり、サンジュの変化を知っているものはまだ、自分だけというわけで。


「団長、起きてください。

「ん~」

「・・・・」


 カインは、自分の背中を何か変に冷たいものが流れていくのを感じる。できる

ことならば、今すぐすべてを見なかった事にして外へ出て行きたい。本当に、今すぐこの情況をどうにかしたい。

 しかし、相手が敬愛する人物である以上、忠誠を重んじる自分としては、そう簡単に逃げ出すわけにもいかなかった。


「カイン?」


 カインの動く気配が伝わったのだろうか。

 マツリの声が聞こえた。

 上を見上げれば、未だ半分は眠っている状態のマツリが、目を擦りつつこちらを見下ろしてきていた。


「「・・・・・」」


 二人はゆっくりと見つめ合い、そしてそれと同時に沈黙した。

 半分眠気眼だったマツリも、カインが顔を青くしている原因を見ると、すぐに目を覚ましたようだった。


「さ、サンジュ父さんっ!?」


 朝一番の移動車の中に、マツリの叫び声とも悲鳴とも取れる声が大きく響き渡った。


●  ●  ●  ●


「さいあくだ・・・。まさか、つぎがおれだったとは」


 サンジュは痛む頭を押さえつつ、胡坐を掻いていた。ちなみに、彼は今、カインの体を壁のようにして他の一同から隠れるように座っている。


「・・・・元々の年も関係あるのかな・・」

「そのようですね」


 あえて姿を見せないようにカインの傍に隠れているサンジュを横目で確認しつつ、マツリとコウヤは朝食の準備に取り掛かっていた。

 一方のバーント、ルイ、セピアと二―ルの四人は、興味津々でサンジュを見つめていた。

 彼らの視線の先に居るのは、推定年齢五歳ほどの男の子。―――もちろん、サンジュである。

 先日幼子に戻ったカインとは違い、若干年が増しているのは、一重に元々のサンジュの年が誰よりも上だったからだろう。

 それでも、子供に戻った事に変わりはないし、二―ルよりも年下になることに変わりはない。

 とても恥かしそうに視線を逸らしつつ蹲っている己の上司を眺めつつ、カインは少し羨ましい気持ちになった。何せ、彼が若返った時には、言葉をろくにしゃべれないほど幼かったのだ。それに比べたら、幾分かしゃべることの出来るサンジュは十分幸運だろう。


「サンジュ父さん、朝ご飯だよ」

「・・・・たのむ、いま、おれをみるな」


 もうすでに、サンジュも己の自尊心を捨ててしまったようだ。

 カインの腕にしがみ付き、必死に顔を隠しているその姿に、マツリは胸の奥がキュンと鳴ったのを聞いた。

 あんな無精ひげの厳つい男でも、やはり幼い頃はかわいかったわけで。


「・・・サンジュ父さん、後で、抱っこしてもいい?」

「やめてくれ!!」


 マツリの申し出に、サンジュは身の毛もよだつ思いをしながら立ち上がった。何が悲しくて、自分のかわいい娘に抱き上げられなくてはいけない。それだけは嫌だ。

 たとえ、ルイに脅されようが、彼の本性を見せ付けられようが、マツリにかわいいといわれるよりは数十倍もましだと思えてしまう辺り、サンジュはすでに頭のネジが一本や二本、どこかにいってしまったのであろう。


「団長っ」


 半分泣きながらどこかへ駆け出して行ってしまったサンジュを追って、カインもまた立ち上がった。 

 サンジュの今の気持ちを、もっともよく知っているのはカインだ。今は彼に任せておくべきだろう。

 ということで。


「ご飯が冷めない内に食べてしまおう」

「あの二人も、すぐに戻って来るだろう」

「二―ル、どうぞ」

「ありがとう!」


 いつものように朝食を摂り始める仲間達の隣で、マツリは少しだけ不貞腐れた。

 何故みんな、自分から逃げるのだろう。自分はただ、かわいい仲間達を身近で感じたいだけなのに。カインもサンジュも近づくことを嫌がる。


「二人共、わたしの事、嫌いだったのかなぁ」


 考えていた事が、外に洩れていた。

 マツリの呟きを耳にしたバーントが、苦笑気味に彼女の言葉に答える。


「どうしてそうなる。あの二人はただ恥かしいだけだ。お前に自分のあられもない姿を見せることがな」

「なんで?かわいいのに」 

「男の自尊心って奴だ」


 そこで、マツリは少し考えてみる。

 そして、俯いた。

 確かに、恥かしいかもしれない。もし、自分が小さくなってしまった時、きっと彼らはとても可愛がってくれるだろう。だが、それをやられている自分は、きっとすごく逃げたくなるに違いない。

 それでもやっぱり。


「こんな事、滅多にないから。・・・・・嫌って言われたらやらない」

 けれど。

「何も言われなかったら抱きしめたい」


 それが、極普通の女子大生の反応というものだ。

 これから先、もうあるかどうかもわからないこの出来事を、見逃す手はないだろう。

 

 昼食時になって、ようやくサンジュとカインが戻ってきた。

 理由はわからないが、二人ともすっかり疲れきっている。


「お昼ご飯できてるよ」


 マツリがそう言いながら二人に近づけば、サンジュは慌てたようにカインの後ろに引っ込んでしまった。そのあからさまな避け方に、マツリは少し困ってしまう。

 本気で自分の前に幼い姿を曝すのを躊躇っているようだ。

 まぁ、そう思うのも無理はない。サンジュはこう見えて、とても恥ずかしがり屋なのだ。


「早く座って。みんな待ってるから」


 これ以上近づくことを止めておいた方がいいと判断し、マツリはすぐに背中を向けて元の位置に戻って行った。

 彼女のその様子に、カインとサンジュは不意をつかれる。

 それとは反対に、素直に戻ってきたマツリを、ルイがやさしい笑顔で迎えた。


「団長やカインは嫌がっているようだけど、私があぁなってしまった時は、ぜひマツリに構ってもらいたいものだね」

「・・・・えーと、それは・・・」


 ルイの、ある意味最恐の申し入れを聞いたマツリは少し戸惑う。

 幼いルイは、きっとかわいいだろうが、たとえ外見はどんなに愛らしくても中身は今のルイに違いない。それを思えば、構うにしても色々考えるべき事があるのだ。


「あさにならないと、もどらないのか・・・」


 昼食の後、サンジュはカインの傍からコウヤの隣へと移動していた。

 カインと二―ルとルイが近くの湖に水浴びに行ってしまったためだ。

 やはり、仲間達の中で、一番頼りになり且信用できるのはコウヤなのだと、仲間達の行動を見てマツリは思っていた。

 そういう面では、バーントも同じなのだが、彼は情況を楽しむ節がある。それはルイも同じで、こういう場合はあまり頼りにならない。


「そろそろ日も沈みます。夕食を食べ終わり次第移動車に戻れば、きっとすぐに朝になります」

「こうやのいうことほど、せっとくりょくのあるものは、ないな」

「これは、少し気持ち悪いな」


 キセルを噴かしていたバーントが、サンジュを眺めつつ呟く。


「何が?」


 彼の隣で文字の読み書きの練習をしていたマツリが、その言葉を聞きとめ顔を上げると、バーントはいつも被っている帽子を目の高さまで下ろしつつ目を側める。


「五歳児のガキが、あんな厳しい顔で胡坐かいてることがな。違和感がありすぎて仕方がない」

「・・・・・なるほど」

「うるさいぞ、おまえら」


 マツリとバーントの会話を聞きとめたサンジュがげんなりし様子で彼らを見つめる。


「ほっとけ」


 そして日が暮れ―――夕食を食べ終わった五歳児の旅の一行の団長は、昼間コウヤが進言していたように、すぐさま移動車に逃げ帰り、そして不貞腐れたように眠りについたのだった―――

 


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