73羽:ネイビー&ベイビー
2016年1月20日
*ナウシカではありません。
その者蒼き衣を纏いて金色の家に降りたつべし。
失われし心との絆を結び、ついに俺を清浄の地に導かん。
そうして、彼は置き土産のつまみ類と『元気』を置いて去っていった。
「はぁ、どちら様ですか?」
「俺だよ、俺。」
はぁ。
『オレオレ詐欺』系か。
老人じゃねぇぞ。
『詐欺』は駆逐対象。
寧ろ、文句の掃き溜め。
俺に電話を掛けた事を後悔させてやる。
そう、獲物だ。
「まじでわかんないの?」
「はぁ、本当にわかりません。どちら様ですか?」
無愛想に応える。
「あぁ、携帯番号のデータ無くなったって言ってたねぇ。」
「だから、どちら様?」
苛々が積もる。
しかし、相手が名乗らなければ、潰せない。
俺も俺だと言う事を明かさない。
「俺だよ俺。ゾンだよ!」
「ぞん?」
「そうゾンだよ。」
「おぉ!ゾンか!!!!久しぶり!元気してた?」
声とあだ名で記憶が戻った瞬間、声色とテンションの上がる俺が居た。
「いや、元気も何も、いいから、後2,3分で家に着くから。ってか、行っていい?」
「いるから、いいよー♪」
「おー!それでさぁ、あー!!!通り過ぎちまった!」
「直ぐ戻れー。」
「じゃぁ、すぐに!」
「おぅ!」
そして、直ぐに来た。
ゾンは、仕事の途中だったらしい。
正確には近場の公園でサボっていたのだろう。
年始の年賀状を見て、QRコードを携帯に当て、長々とした日記を読んで俺の状況を把握したゾン。
心配したゾン。
そうして、連絡を取ろうと試みるも、接して良いのか分からず、どうしたらいいかのか分からずじまいになってしまい、遂には家に突入して俺に会いたかったという、ゾン。
「Kooちゃん、あれってマジ?鬱って?」
「あぁ、そうだよ。あんときはきつかったけど。ま、今は浮き沈みあるけどなんとか。」
二人で、タバコを家の前で吹かしながら久しぶりに語る。
会うのは3年ぶりか・・・
友達の結婚式以来。
『ゾン』。
「Kooちゃん日記見たよ。あれ、俺だよね?」
「ん?どれ?」
「昔、友達がフォレスターに乗ってて言うくだりのヤツ。」
「あぁ!あれね!偶像さんに登場するもう一人の主人公ね!そだよ!ぞんだよ。よくわかったね~。」
「いや、分かるって!あんだけ、丁寧に重ねられれば、嫌でも分かるわ!」
「そっか~。まだまだ、文章打つの下手糞でさぁ。なかなか『文』で再現するって難しくて。」
「すぐ分かったって。結婚式でも友人代表の友達が・・・」
「そう!フォレスターのウォッシャー液は水道水じゃダメで、コンビニの水を買うってヤツでしょ!」
「そうそう!いや~、覚えてるんだ。」
「覚えてるも何も、あの車には俺も愛情あったからねぇ。何度この家に送られたっけ?」
「家にKooちゃんを送ったのは1回で、荷物だけを1回かな。」
「そんなもんだっけ?もうちょっと乗ってたような・・・あぁ、荷物パターンもあったね。」
懐かしさが、会話のテンポが合う。
久しぶりの温かさ。
彼こそが、第11羽に登場する元フォレスター乗り。
今は、軽車に乗ってると言う。
「あ、そうそう、ちょっと待ってて。」
ゾンに待ての合図をして家に入り『ある物』を手に持って再び戻る。
「コレ、最近作り直した名刺。っていうか、キャラクターカードって言ったらいいのかな。それなりでしょ。」
粗雑な名刺風のカードをゾンに渡す。
「おぉ。本格的名刺だね。あ、それじゃぁ俺も。」
よくある名刺のやり取り。
お互いの名刺を手に乗せ、社会人らしい振る舞いをする二人。
いや、ゾンは社会人。
俺は、ニート。
「おぉ!課長かよ!すげー!!!!」
ゾンの名刺に『課長』の文字が。
「さすが!出来るヤツだと思ってたけど、早いねぇ。」
「いや~、肩書きだけだって。扱いは普通の社員と一緒だって。」
至って謙虚なゾン。
「そっか~。給料あがったろ?」
「そこはまぁ。そこそこ。」
「だったらいいじゃん。俺なんか収入ゼロだぞぉ。」
自慢げに言い張るニート。
「でも、毎日日記とか、四行日記より長ぇじゃん。」
「そうねぇ。長いねぇ。遥かに長いねぇ。でも癖でさぁ。書かないと落ち着かないって言うか。なんかこう『ハッ』とする瞬間があってそれをババーっと30分くらいで書いてる感じかなぁ。」
「は。30分であれ書けるの?」
「うん~。筋書き30分。校正10分くらいかなぁ。」
「はえっ。」
「タイピング感覚だけは、次に行くにしても必須だからねぇ。感覚だけは残しておきたくて。」
「人生長いんだから、急がなくていいんじゃね?」
「そうだねぇ。急ぐつもりも無いし。ま、浮き沈みあるし。ま、日課かなぁ。」
「そっか。」
途中、近所の人が帰宅するのを二人で会釈して迎える。
異形な光景を目視しているだろう、近所の人。
「ってか、上着ネイビーでズボンもネイビーって、どうなの?」
思わず、上下のネイビーが気になるニート。
「あぁ、これ?ユニクロが特売しててラス1のパンツが安くてさ。それがたまたまこのネイビーだったわけ。」
「あぁ、ユニクロの特売は分かるわ。」
「でしょー。でさ、上着を脱ぐと・・・」
ゾンは、ネイビーの制服ジャンバーを脱ぐと見せる。
「ほら、中身もネイビーの制服ってわけだ!」
「おぉ、ネイビー&ネイビー!ネイビーって着まわし利くからそうなるわけか・・・」
「そう!本当は黒がよかったんだけど、サイズがなくてさ。」
「背ぇ高ぇーからなぁ。そこは羨ましいのかどうか。」
ネイビー。
忠誠を誓う青に近い存在の色。
清楚を思わせる色。
着まわしは何色でも合う。
そして、スタイルは抜群によく見える。
「カシャッ。」
カメラのシャッター音が俺を叩き付ける。
「何撮ってんの?」
「は?タンクに送ろうとして。だって、金髪だぞ。34歳の金髪がここで待ってるって送ったらアイツ飛んで帰ってくるって。」
「ウケルー。だったら、一緒に撮ろ!そして送ればいいよ。」
男が二人。
家の前で自撮り。
「カシャッ。」
「おぉ!送れ!送れ!」
「後でLINEしてみよっと。あ、これ手土産。こんなんしかなくてさ。」
「いやいや、そんな気ぃ遣わなくていいのに。おっ!こんなんいいの!?つまみ系高いじゃん。」
「あぁ、いいよ、いいよ。そんなんしか上げられないけど。」
「ありがたや、ありがたや。」
「ほんじゃ、仕事に帰るかな。元気そうでよかった。」
「ありがとう。俺は大丈夫だから。もう、死のうなんて思わないから。」
「そっか。手伝いがあれば言ってよ。近く通る時あるからさ。そう、ブログ用のKooちゃんの写真とか撮るからさ。」
「いや、あれは結構な羞恥プレーだから、1人でさせて。」
楽しい時間は時が過ぎる事を忘れ去る。
立ち話で1時間は経っていた。
肩を組合い、お互いの熱を伝えて「またね」を告げる。
その者蒼き衣を纏いたネイビー&ネイビーはつまみ類と『元気』を置いて去っていった。
「は、俺も二人で撮った写真が欲しい。」
思い立ちLINEを送る。
直ぐ様返信が来た。
「は?これじゃないって。」
ネイビーのゾンとゾンのベイビー並んだ写真が届いた。
相変わらず、冗談好きだなぁ。
続きざまに本物の写真が届いた。
金髪とゾンの並ぶ写真。
「そう、これこれ。ん?あ゛?」
しかし、写真をよく見ると魂が抜け、死んだ魚の目をしたオッサンが二人並んでいた。
老けたな、俺ら。




