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71羽:ねぇ、自分の宝箱の中身っ偽者じゃない?

2016年1月18日


「おはようございます。遠い所いらっしゃいませ。」

彼女は、頭を深々と下げ丁寧に挨拶をする。

「すいません。2度寝したら、まさか到着時間に起きてしまって。」

肩を竦めながら謝る俺。

「あ、私も今朝主人の出発する時間に起きてしまって、寝坊したんですよー。」

同調で笑い合って店内に案内される。


本日、車検前の点検日で10時予約だった。

それを遅刻してしまった。

「あ~、借り作っちゃったなぁ。」

「社会人としてあるまじきだなぁ。」

「説とする者がこれじゃぁ締まらないなぁ。」

反省を繰り返す。



今朝はしっかり6時起床。

きっちり珍しく朝ご飯(餅)を食べ、鋭気を養って出陣のはずだった。


一通りパソコンで日課のニュースを見る。

やっぱりあのニュースの動向を確認する。

ほら、予想通り。

取り敢えず、FBに投稿。

「ほら、やっぱり復活とかほざいてんじゃん。RE:キャストって奴じゃない。まじでふざけんな。とか、思ってるのは俺だけなのだろうか。今日は予定があるので、楽しい日記を書きたいな。」


投稿を追え、第11羽登場のスバリストである偶像さんと何を話すか考える。

「今日は何を話すかなぁ。聞きたいことは山ほどあるしなぁ。でも、一篇に聞くと面白みが無いし、覚えられない。」


質問事項をまとめようと、思案しているうちに寒さに耐えられず毛布に包まった。

そうして、寝てしまった。

驚くほど深い眠りに。


現実に戻って時計を見やれば、10時になる寸前。

窮地で意識が戻る重みを感じた。

声にならない絶叫をするより先に、体が急ぎ準備を済ませていく。

そして、メール。

「おはようございます。30分着になりそうです。すみません。理由は後ほど。」

遅刻します宣言を送り、道中遅刻の理由を考える。


くだらない言い訳か。

本当の答えか。


考えは周巡、錯綜して、本当の理由を告げるでどうにか頭の中を整理した。



「2度寝にやられました。」

素直に謝る。

営業職からしてみれば、「あほが。」だろう。

貴重な時間を30分も奪ってしまうのだから。

「本当に申し訳ない。」


くだらない言い訳を吐いてもいいんだろうけど、この人にはそれが通用するか疑問だった。

寧ろ笑ってくれるのだろうが、本心からか営業職としてスキルでなのか分からない。

だから、直球で謝る。


道中で考えていたもう一つの事。

「この人の魅力、営業職としてのスキル、本性めいたものを暴きたい。」

これも探るべくは直球しか投げてはならないと決めていた。


俺の得意な事。

人間観察。

表情、仕草、目線、癖、発声からある程度の性格を判断、そして次に行う行動を予測することができる。

敢えて自分は自由な行動、発言でスキを曝け出し、相手の出方を常時観察。

日本人が苦手とされる、『人の目を見て話をする』という事が平気で出来る。

ガン見する瞳の奥。

目の動き、血走り具合。

観察を経て、腹の中が見えてくる。

明くまでも想像。

しかし、大体的中する。

そして、うんざりする。


人の本性を嗅ぐ力が異常発達してしまった。嘘つきは直ぐにわかってしまう。

俺は対人としては、最悪な存在。

本当、ヘドが出るほどの腐った性格している。



でも、この偶像さんにはそれが通じないのだ。


どういう訳か、目が普通。

仕草も普通。

言葉も営業だから敬語である事を除けば、抑揚も言葉選びも普通。

どの話題を振っても仕草は普通。

一部、営業を思わせる素振り、それは無理な同調もあったが、それは全体の1割程度。

9割方が普通。


判断素材は発せられた言葉を呑むしか無い。

寧ろ、普通の友達と話すように楽しんでいる。



俺のスキルが落ちたのか不安になった。

だから、試していた事をタネ明かし。


「うそ、顔に出ませんね。ってか、普通に楽しんでるでしょ。」

「なんで分かるんですか?」

斯く斯く云々の説明で本音で話す。

「あ~、友達も私の事は分からないって言ってましたよー。その友達もあなた同様に人を見る目が鋭くて大体当てるんですけど、何故か私だけ分からないって。」

目の奥を見据え、頭の傾き具合を測り、仕草を凝視。

嘘は言ってない。

言葉の通りだ。


「私は宝箱を持っていて、大事な人だけをその中に入れてるんですが、宝箱の中の数少ない親友の1人がそういう力めいた物もっていて。見えるって大変じゃないですか?」

「うん~。疲れますね。しかも広角視野なんで広々っと見えるんですよー。」

宝箱の数少ない『親友』と呼べる領域の友達。

俺もそこらへんの領域の人口は少ない。

「その人と話がしてみたいなぁ。」

内心で思いながら、彼女の話に聞き入る。


「営業って15年前は自分の足で回ってたんですけど、お客様から店舗に足を運んで貰ってからの営業をするスタイルに変わってきたんですよ。たまに契約までに、「この車を選んで良かったな」という良いイメージができるように、営業スキルを使うんですけどねぇ。」

「確かに、あの時は俺もやられましたね。でも、今の車あっての家族ですし、絆は深まりましたよ。選んで本当に良かったと思ってますよ。」

そういうと、彼女は目をキラキラ輝かせて仰け反りながら両手を伸ばして話に熱が入るのを感じる。

「そういって頂けるお客様が居るから営業を辞められないし、あなたとお話したくなる時があるんですよ。」

あぁ、本音だ。

本当に嬉しそうだ。



彼女は普通じゃないと思った。

数字だけを追って、斜に構えての営業をしていない。


人との会話を楽しく出来る人だけを心の底からもてなす。

正確には、誰でも構わず楽しくという訳ではなくて、自分のお気に入りという『宝箱』の中に入れたい人を本心からもてなす。


それは、営業としては失格なんだろう。

彼女にとっては普通のことであるが型破りな営業。

しかし、構えられて、追い詰められる営業より、自然と誘導されるこっちの方が好きかな。

結局誘導される結果だが、さも、自分が選んだように感じる。

自己満を「悦」として堪能出来る。

そして、親近感が沸き、信頼が生まれる。



なるほど。

宝箱の中身を大事に出来る人。

数少ない中身でも、全力で護る強い人。

彼女は、素敵な宝石を詰めた宝箱を持った人。

羨ましい人。


偶像さんの謎がちょっと解けた気がした。

次に会う時は、別のアプローチをかけてみよう。


そして、今日も会話に花が咲き、2.5時間居座ってしまった。

偶像さん、いつもありがとう。

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