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62羽:パラレルワールド

2016年1月9日


青い波しぶきを上げながら船は進んでいた。

豪華客船だろうか。

しかし、普通の豪華客船ではなかった。

ブーメラン型とでも言うのか、曲がりくねり広々とした、遠くを見ても船頭が見当たらない、どこまでも広い客船。

黄金色に輝くシャンデリア、白いシーツの敷かれたテーブルの上には色鮮やかな食材が並べられ、結婚式とでも言うべき演出のされた室内。正装をした俺は部屋の隅でタバコを吹かしていた。



誰に呼ばれたかは分からない。

案内されるがまま席に着く。

椅子はなく、クッションの様なソファーの様な柔らかいプニプニした何かに座らされ、ムスメは俺の膝上に同席する。

10数テーブルあるうちの一角。

俺が居たのは、親族席だと言う。

見渡せば確かに隣にはダンナの姿が見える。

対面には、両親と叔父、叔母、従兄弟、弟夫婦の姿がある。


なぜだろう。

叔母の隣は空席だった。

しかしながら、ムスメの座席指定が俺の膝上だということが気になっていた。


周囲の会話は全く聞こえない。

BGMが煩すぎて会話もままならない。


そうしていつの間にか始まる宴。


2つ先の右側のテーブルでは青や緑、赤、黄色と言った原色の毒々しい色をしたニョッキらしいものが、テーブルの上で見世物の様に調理されている。

羨ましくはなかったが、こちらのテーブルで調理をしてくれない事に何故か腹が立ち、ウェイターを呼ぶ。


「なんでコッチのテーブルでは調理してないの?こっちでもやってよ。後、叔母の隣が空いてるんだったら、そこにムスメを座らせてくれない?」


小さい声で言ったつもりだったが、意外にも声は反響を呼び、次々にブーイングを巻き起こす両親達。


ウェイターは悪びれもせず、口に人差し指を当て、「シーッ。」とだけ言ってどこかへ消えていった。


ウェイターも調理師の姿は、四肢、体も細く、顔はゆで卵の様にツルンとしており、目と鼻は延々と続く闇の様な穴が空いているだけの姿。髪の毛などの毛は無く、ツルツルのゆで卵に黒い穴が3つあるだけといったところか。


こんな馬鹿げたヤツに「シーッ。」とだけしか言われない事にあまりにも腹が立った。

「ここのサービス、最低だわ。」

大声で言ってみた。

すかさずまたあのウェイターがやってきて、またもや「シーッ。」とだけ告げ立ち去る。


何が煩いのか分からない。

自分の声よりBGMの方が遥かにボリュームが大きい。



ってか、誰の結婚式なんだろう。


ブーメラン型の豪華客船上、広場の一角では福山雅治がライブをしている。

それと合わせるように、新婦のダンス大会が始まっていた。

ステージでは電飾がナイアガラの滝の様に昼白色光と青白光が上から下へ流れている。

夜空には、轟音と共に10号玉程度の花火が連続で上がり、照明が眩しく新婦を照らす。

眩しすぎて顔が分からない。


「お前は誰なんだ。」


超豪華、度派手な演出、そして誰の式かは分からない。

参列したことに後悔の念を抱く。

食事は確かに色鮮やかだったが、味気なくとても美味いと評価出来るものではなかった。

損失はご祝儀と旅費とホテル代。

場所は佐賀あたりなのだろうか。

招待状には見たこともないホテルの名前。

家族3人合わせて約20万円程度の損失。

何故か非常事態のこの時に家計の心配をしていた。


「大金叩いてんだぞ!誰がこんな不味いメシの結婚式を認めるっていうんだ。」

卵のウェイターに罵声を浴びせるも「シーッ。」しか返ってこない。



気づけば、ムスメが所定の場所から姿を消していた。

俺は、慌てて船内を探し回る。


先ほどまで行われていた福山雅治のライブも終わり、広場は青白い光の石で囲まれた公園に成り果てていた。もちろん、ダンスをしていた新婦の姿も見当たらない。


見たことはなく、幻想的な青白い光の石で囲まれた公園は1階なのだろうか。

俺は3階の踊り場からムスメの姿を遠目で検知する。

大体100mは離れている先の公園の中で、ムスメと同じ歳ぐらいと思しき見知らぬ少女らと遊んでいた。中には少女らの保護者らしき姿もある。


「迷子になる前に連れ戻さなければ。」と思い立ち、卵ウェイターにそこまでの行き方を教わる。

まずは、高さ50m、幅50cm、長さ25mの吊り橋を渡り第2タワーへと移動。その後、男子トイレを経由するとエレベーターがあり、エレベーターで1階まで降りて道なり進めば公園に辿り着くという。


教わった通り進んでみる。

しかし、船内は迷宮化していた。


船の形状もブーメラン型から校舎の様な建物が2つ並んでいる構造へと変化を遂げ、建物の間にあの吊り橋が揺れていた。

俺が立っている所が第1タワーなら、向かい側が第2タワーなのだろう。

時折の強風で吊り橋は激しく横転している。

高所恐怖症である俺にとって、吊り橋は強敵であるはずだった。

しかし、文句の「も」も言わず、無心で渡り終える。

次は言われた男子トイレへと向かう。

吊り橋からすぐ右側にトイレはあった。


トイレのドアを開けてみる。

男子トイレのはずだが、中は女子トイレのマークが所々点在し、便器の形状も様々な形が並ぶ歪んだ空間が姿を現した。左側に並んでいるのは、男性と女性の共用のトイレであろう入り口。その隣は、エアータオルが設置され、右側には、洋式と和式の便器が不思議と共存していた。


疑問を抱きつつも言われたとおりトイレを通過していく。


しかし、一向にエレベーターは見当たらない。

それどころか、進めば進むほど、光が増し背景が白く溶け込んでいく。

遂には俺が歩いている床も光の一部となり、足場がなくなってしまった。

落下する事はなく、透明な床でもあるのだろう。普通に歩いていた。

「コツン、コツン、コツン。」

歩くたびに自分の靴音が白色の世界に響き渡る。

エレベーターはまだ見えない。


歩き疲れ、立ち止まり周囲を確認する。完全に背景は光に溶け込んでいた。

俺自身も徐々に白色光化していた。

「このまま溶けるのか。」

抗おうとしても、足、腕の先から白色光化が進んでいる。

胴も消え、遂に頭が光へと消える寸前。



現実に引き戻される感覚。

左腕が体の下敷きになり、痺れている。

足は力を目一杯入れ硬直し、筋肉痛を感じる。

耳元では聞き覚えのある携帯のゲーム音がやたら煩く鳴っている。


そうして、目が覚めた。

夢だった。


意味の分からない歪んだ夢。

覚えている中での今朝のコレが初夢だった。


さすが夢。

パラレルワールドだ。

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