50羽:男は黙って、「搗(つ)く」
2015年12月28日
「いて~~~~。」
タイピングすることさえ苦痛。
右肩が上がらない。
指が痙攣している。
右手の薬指と中指は麻痺。
肉刺が出来ている。
「パソコン使い」の生命線が非常状態。
今も尚残る、負傷の跡。
本日、ムスメの園の年内最後の登園日。
毎年恒例の餅搗き大会があった。
ムスメとダンナに半ば強制されて参加した。
「年末の今日、大体が最終出勤日で保護者とか少ないだろう。」
思いながら、渋々園へ向かった。
予想は大きく外れて十数名の保護者の姿があった。
「よかった。」
内心、落ち着く。
と、同時に、
「金髪はやっぱりいないか。」
いつも感じる若干のアウェー感を再び感じた。
テクテクテク、輪の外側まで歩み寄り、ムスメの友達が俺に気づく。
「パパ来てるよ♪」
釣られてこちらを見るムスメ。
「パパ~♪」
「おう。」
声に出さずに静かに見守る。
つもりだった。
突然掛けられる言葉。
「はい、今度はお父さんの番ですよ。」
T先生からの先制攻撃。
「は、はい!」
強制で餅搗きに参加。
杵を持つのは久しぶり。
石臼も久しぶり。
小さい頃、祖母宅でやっていた今は無き餅搗きを思い出す。
杵の重量は約2kgだろうか。
軽々振り下ろす。
「バズンッ。」
一発目からクリーンヒット。
サンドバッグに渾身の右ストレートを放つ様な、不思議な快感を覚える。
「よいしょー!」
「よいしょー!」
合わせて子供たちの合いの手が入る。
調子に乗ってくる悪い癖。
「そーりゃ。」
「おーりゃ。」
「そりゃ。」
「おりゃ。」
「とぁ。」
「よっ。」
段々ペースを上げてしまい、相方の保護者の杵とぶつかってしまう。
「あ、すみません。」
やっちゃった~。
ま、いっか。
大分餅米から餅に変わった頃、別の保護者へと交代した。
餅搗きを端っこで見守ることに。
子供達の様子を観察する。
純粋に楽しそう。
合いの手も気合入れて叫んでいる。
寒空の下、裸足の子供達の声援が響き渡る。
和気藹々と搗き続ける大人たち。
平和だ。
「来年も子供達にとって、いい年でありますように。」
物思いに耽る。
耽るのも束の間。
またもやT先生から声が投げつけられる。
先の搗きで準備運動は終わった。
「うっし。」
気合入れて搗こうか。
「パパ~、がんばれ~♪」
ムスメの声援も飛び交う。
「おう。」
親の背中を見ておけと言わんばかりに、声を張り上げる。
「そーりゃ。」
「おーりゃ。」
「そりゃ。」
「おりゃ。」
「とぁ。」
「よっ。」
やっぱり加速していく餅搗き。
でも、相方の保護者の方も着いて来てくれている。
「ふぃ~、高速餅搗き楽しい。」
先生が餅を返している間、杵を濡らしながら、爽快感を露にしてしまう。
返しが終わり、再度搗きを繰り返す。
「そーりゃ。」
「おーりゃ。」
「そりゃ。」
「おりゃ。」
「とぁ。」
「よっ。」
「なぁにぃ~。」
子供達を見ながら、搗く。
「やっちまったなぁ。」
間髪入れずに、
「男は黙って。」
刹那で打つ。
「勘!」
タイミングを合わせてやってしまった。
クールポコ。
ウケタらしい。
「もう1回。もう1回!」
子供達からアンコールの声。
応えない訳には行かない。
それが、俺の子供への流儀だ。
しかし、三度はしない。
返しが終わり、再度搗きを繰り返す。
「そーりゃ。」
「おーりゃ。」
「そりゃ。」
「おりゃ。」
「とぁ。」
「よっ。」
「なぁにぃ~。」
子供達を見ながら、搗く。
「やっちまったなぁ。」
間髪入れずに、
「男は黙って。」
刹那で打つ。
「鯖!」
2発目のクールポコ。
ウケタ。
ウケタのはいいが、高速で搗き過ぎた。
ツッコミなしで搗き続けた結果、杵の破片が餅に混ざっている。
そして、地味に肩が痛む。
休憩を兼ねて、ムスメ達と試食をする。
「どれにします?」
差し出される、3種類のタレ。
きな粉、あんこ、砂糖醤油。
「これでお願いします。」
砂糖醤油を選択。
搗きたての餅には昔から砂糖醤油。
ムスメを見れば、やっぱり砂糖醤油。
親子だな。
そして、うまかった。
やはり、杵、石臼で搗く餅はうまい。
「ラスト、お願いします。」
「もう、T先生勘弁。」
と思いながら、杵を振るう。
「そーりゃ。」
「おーりゃ。」
「そりゃ。」
「おりゃ。」
「とぁ。」
「よっ。」
軽かったはずの杵が重い。
そして、余裕の無い高速。
クールポコを入れる余地が無い。
体が、杵に持っていかれる。
杵が石臼に引っ張られる。
「くぉのっ!」
ダメだ、上がらない。
「ちょっ、タイム。」
息を切らしていた。
相方の保護者も同様に疲労を露にしていた。
「ささ、もう1回。」
T先生、鬼教官だよ。
繰り返させる「先生の突き」と「搗き」の応酬。
右腕、右指が限界突破していた。
限界突破した甲斐はあった。
搗きたての餅を約1合分貰い、昼食としてまたもや砂糖醤油で食べた。
「うまーい!」
生来、餅は大好き。
しかし、握力は無く、皿にへばり付く餅を箸で持ち上げられずに、皿に噛り付く。
「んぁ。」
遣りすぎた結果だ。
杵の欠片が口から出てくる。
来年は大人しくしておこう。




