時空を超え
雪山に一発の銃声が鳴り響く。
地下室
「ねーねー、テッポウの音聞こえたけど大丈夫かな...」
「父さんが負けるはずないよ、だから待つんだ」
部屋の地下室、奥の鉄の扉からコードを入力して入れる仕組みになっていた。これは父が予測してあらかじめ作って置いてくれたものだ。鋼鉄性の対戦車ライフルも貫通しない頑丈な扉だ。
「そうね…あの人は負けないわ」
双子の宗介、有紗の母は二人を抱きしめながら俯きつぶやいていた。その手はどこか冷たさを感じさせた。二人はキョトンとした顔で母を見つめていた。
「そうだよ!お父さんは負けない!」
「そ、そうだよね!」
宗介の無邪気な笑顔に安心したのか有紗も笑顔になりぐずるのをやめた。
それを見ていた母は再び二人をぎゅっと抱きしめる。
真っ暗な木造の地下室。ここには主に工具や備品が入っていた。それを父が改良を加え万が一に備え避難場所にしたのだ。
「ねぇ、いい?お母さん様子を見てくるから待っててね?」
「え、お母さんも行くの?私もいくー!」
「だーめ、見てくるだけだから、ね?」
双子の娘のはしぶしぶ頷き、おとなしくなる。息子の方も黙って母を見たままだった。
母は腰を下ろしもう一度強く二人を両手で寄せ抱きしめる。
「いい?私が戻らなかったら、地下道を通っていくのよ?」
「……わかった」
「おれも…」
母は二人に笑顔を見せると重厚に閉ざされた扉を開けて出て行った。
そして母は…戻ってくることは無かった
NEOという組織は国連が運営し組織する対クリムゾン対抗組織。つい数十年前に新型のゾンビー名称クリムゾンが現れてからは再び人類はまた地下での生活を余儀なくされた。
人類のほとんどは地下に潜る生活を強いられている。なぜならクリムゾンの超速再生が弱点への攻撃を無効化しているからだ。今現在、有効なのは奴らの身体ごと、消し去ること。
地下道は真っ暗そのものだった。扉を開けたら階段が続き、均等の間隔で十字路になっていてところどころ水が滴り落ちていた。端と端にはカンテラが吊るされていた。
「行こう…有紗、外にでるんだ」
「うん…」
地下道も安全とは言えない。それに俺れらは丸腰。クリムゾンなんかに遭遇したら死は免れないだろうな。それにこれから出口の見えない長い地下道を進まなくてはならない。
俺たちは目を凝らしてゆっくりと地下道を進んでいった。
どれくらい時間が過ぎたのか、まだ出口は見えてこない。真っ暗で、丸で終わりの無いトンネルだった。俺も、有紗も既に息を切らし疲れ果てていた。もう何時間も歩っている気がする。
「もぅ、歩けないよ兄ちゃん…」
「俺もだ…出口は何処だ…」
俺たちは歩っている内に檻の鉄格子がかかった橋についた。既に足元はビショビショ、歩くのさえも嫌な状態だった。
ここで妹の有紗が降りた鉄格子を手に掴んで何か違和感があることに気づく。
「ねぇ…奥に何かいる…」
有紗の感はよく当たる。奥に何がいるのかはわからないが少なくとも人間ではないことを察していた。だがここに人間以外のものが住み着いている、としたらほぼ……
宗介は様々な思考を頭の中に張り巡らせていた。だが疲れているのか考えていたことがすぐに頭から消えてしまう。
「ワンちゃんだー!」
「え?」
地下道の檻の向こうにいた物は犬だった。それも真っ黒く毛深い犬だ。こんな誰も居ないような場所で犬が生息できるなんて思わない。即座に犬型ゾンビを疑ったが犬がゾンビとなり人間を襲うという事例は確認されていない。
犬らクゥンという音を立て檻から鼻をだして俺たちを求めていた。寂しかったのだろう。
「よしよし、いい子だね」
有紗が鉄格子の隙間から手を出して犬をワシャワシャと撫でる。犬もそれが嬉しいのか、手を舐めていた。
だが
ワン…!ワンワン!!
犬が即座に俺たちの向こう側にいるものに対して吠え始める。ものすごい威嚇だった。恐怖を追い払うかのように叫ぶような声…
俺も有紗も凍りついた。何故なら後ろから足音がするからだ。もしかするとおじいちゃんかと思ったが感じが違う。もしかするとおじいちゃんかもしれないが絶対に違うと思った。
「あ…あ、…」
有紗と俺は恐る恐るゆっくりと後ろを振り返る。おじいちゃんでいて欲しいという願望だったが
それは違った。
目に映ったのは、灰色のコートを身につけた身長2mもあるような大男、そいつは顔中傷だらけで口の骨が剥き出しになり血が滴り落ちていた。
そいつは左手に何かを持っている。見た目はm4a1カービンに似ていたが違う。銃口が上下に刺すように二つに枝分かれしていて、マガジンはポッド型。
「他にも仲間ハいルか…」
片言口調、そいつは日本語を喋り慣れていない人間そのもの。こんな喋り方をする人間はいない。
キュィイィン
妙な機械の流れる音が響き渡る。気づいた時にはそいつは俺たちにその銃を向けていた。
もしかして…こいつは…ま、まさか…
クリムゾン!
逃げよう!と有紗の手を引き言いかけた瞬間、
上から何者かが降りてきた。
何者かがラベリングしながら紫の閃光がその大男に撃ち込こむ。銃特有の火薬音ではない。紫の閃光の音にはピュン!という音が聞こえる。普通の銃じゃない?
「グッ!がっ!」
紫の閃光はそいつに向かって何発も撃ち込まれた。そいつも反撃しようと右手に握っていた銃を無理やり発射させて応戦、そいつが放つ銃弾も紫の閃光。
何発かこちらに飛んで鉄の壁を溶かし赤い穴を開ける。あと少しずれていたら俺と有紗は死んでいた。
バシャッ!という音とともに大男は崩れ去った。
降りてきたゆっくりと男は振り返ってこちらを見下ろしていた。その顔は上から来る光でよく見えなかったがよく見ると右頬に傷が付いていた。
無言で男は手を差し出した。
俺と有紗もこの男にひかれるようにその手を優しく握りしめた。
「もしかして…父さん…?」
その男の名は、「椎名良介」俺と有紗の父だ。
彼が全てを変えた。
父さんは俺たちに立ち上がる術を、奴らとの戦い方を教えてくれた。
俺は疑問に思った。父さんには何故こんな知識があるのか、
父さんは俺達の知らない裏の顔…人類を勝利に導くリーダーと呼ばれた。
だがそれ以上だった。
NEO東京支部
「第一班の突撃部隊に入れてくれ父さん」
父さんと出会って十数年が過ぎた。父さんに意外なところに出くわした俺はNEO東京支部地下街の作戦室、地下が地下だけに何もないコンピュータしか並べられていない所に居た。四方は何かの資料で道が埋まるほど汚い部屋だった。
現在時刻は深夜を回っている。
有紗は今、通信の最終確認として他の兵士達と一緒に別行動だった。
「お前は残れ、宗介」
父の答えは素っ気ない物だった。
「今夜でゾンビ軍を叩き潰せるのに?」
「第1班突撃部隊は勝利する、クリムゾン達は今夜敗北する、だがここ、東京突入部隊での攻撃は第一班突撃部隊の攻撃と同じくらい重要だ」
第一班突撃部隊は俺たちが上でドンパチやってる時に地下に潜ってクリムゾン達を活動不能にする超強力電磁パルスを起動させる班だった。そのあと父が指定した場所で合流する隊だ。
「父さん、なんで父さんが実験場の攻撃を…」
「実験場はカモフラージュだ。内部に格納庫があり、クリムゾン達が最終兵器を所有している。奴らが敗北を確信した時、生き残るためにそれを使う。それを破壊しなければ、人類に明日は無い」
父さんの表情は少し険しいものだった。右頬についた傷がそれを余計に重立たせる。
「なら破壊しなくちゃ」
父さんは俺を見つめていた。険しい表情から一転、ふっと笑顔をこぼす。
「お前と有紗にはまだ、礼を言ってなかったな」
「いいんだよ、父さん。あなたが俺と有紗を助けてくれた。命を救われた。この戦いが終わったら一緒に、母さんと一緒にまた暮らそう」
「ああ。また一緒に暮らそう。みんなで一緒に」
父は突入部隊に選ばれた兵士達がいるフロアに歩き出す。パイプ道の細い道の向こうにとてつもなく広いフロアがあった。
「さぁ、決戦だ!準備はいいか!」
話は戻り
5秒前!
「攻撃開始ィ!!」
合図とともに壁が爆発によって破壊されていく。大きな爆発と同時に攻撃ヘリな出撃していく。ヘリは出来る限りのミサイルを轟音をたてながら発射していく。
ミサイルは敵のゾンビを粉々に粉砕しながら最後の防御網を破壊していった。
「いけいけぇ!!」
ガレージ型のトラックがミサイル攻撃で脆くなった防御壁を踏み潰し通っていく。トラックの装甲はプラズマライフルも通さない頑丈な素材で出来ていた。
突然の攻撃に動揺したクリムゾン達はプラズマライフルを壁を破壊してきた者達に向かって大量に閃光を発射してきた。
本拠地に突っ込んではや数十秒でさながらこの場は紫の閃光で包まれた。
ガレージ型トラックのガレージを下ろしそこからプラズマ型機関銃を使い仲間達が飛行型生物兵器、通称「ブラガ_タイプ3」を撃墜していく。
俺の乗っていたトラックにレーザーが被弾しひっくり返り視界が横になる、そうなっても迷いなくやつらはプラズマライフルを撃ち込んでくる。
俺はもう何が何だかわからなくなっていたら.父が俺を横から這い出し横転したトラックの陰に膝をつき隠れる。
地響き。
地面が揺れ始め辺りに電流のような物が現れ始める。
隣にいた父はそれを見ると
「最終兵器が起動する!格納庫のところへ行くぞ!」
「父さん!?」
父さんはまだ格納庫がある施設へと場所へとプラズマライフルを撃ちながら走っていく。ギリギリ当たるか当たらないかぐらいを閃光が通り過ぎていた。
俺もその後を追った。正直ほんとに死ぬ思いで走った。あの紫の閃光に当たったら即死だからだ。
グオォオオオオオオ!
「またか!」
父が施設の入り口寸前で俺を制止し止まる。またあの声だ。怒りに身を任せたその声は空から降ってきた。
怒号。怒りの声は空から具現化したかのように降ってきた。全身が黒ずんだ新たなミュータントだった。地面はめくり上がり爆ぜた。相変わらず血涙を流しながらこちらを睨みつけている。
「俺たちを止めてみろバケモン!!」
父はすかさずプラズマライフルで応戦。だが閃光は黒い肌に弾き返されダメージが軽減されていた。俺もすかさずプラズマライフルでミュータントを撃つ。
グオォオオオオオオ!!!!
ミュータントが雄叫びをあげて拳を振り上げ俺たちを潰そうとしていた。あんなもの一撃でも食らったら体が弾け飛ぶだろうな。
ミュータントが拳を振り下ろそうとしたその時だった。
「うわっ」
ビュウウウゥンという音と衝撃波とともにこの基地を守っていたクリムゾン達が電流によって動けなくなりそのまま意識を失い倒れこんだ。他の飛行型ゾンビも空中で落ちていった。大きな拳をぶつけようとしたミュータントもその場で崩れた。
『第一班突撃部隊!超強力電磁パルスを起動した!』
父さんの言った通り、突撃部隊は勝利した。
「ありました。おっしゃった場所に」
仲間の女性通信士が施設の中で小さな隠し扉を見つけ周りに兵士たちが群がっていた。俺と父さんはそれをかき分けて扉を見た。
中を覗くと巨大な円形の空間の真ん中にアームと円形の床が設置されていてそこと床を続く階段があり床の一部分はきちんと整備され人が通れるようになっていた。
「なにこれ・・父さん」
「道しるべ・・・だな。初めての転送装置を奴らが使ったんだ」
父の言うことはイマイチ理解に苦しむ言動があった。ていうかゾンビってそこまで頭いいの!?やばくないか!?
ホールに降り立った俺たちはすぐさま機械の解析を始めていた。
「装置の起動にしばらくかかります。すぐさま座標を解析して…」
まず初めに奴らが向かった過去の年代を突き止めなければならなかった。
「2015年の東京、夏だ……」
座標を言い当てた父さん。その言葉に周りの人たちが一斉に父さんを見始める。
「…クリムゾン達は負けるとわかって奥の手を出した。戦争が始まる前の、ゾンビ達が出現する前の時代にゾンビを送ったんだ」
「ですが、ターゲットは?」
「私の両親だ…」
兵士の一人が父さんに質問をする。
「でも、ゾンビって外見ですぐ分かりますよね?東京の真っ只中にいたらおかしくないですか?すぐにバレますよ?」
「新しい新型ゾンビ、モデル【エリミネーター】。姿形はほぼそこらの人間と同じ、そして人語を理解し話し完全に人間社会に溶け込む奴だ。しかもかなり耐久力があり、とても2015年の武器じゃ倒せない」
周りが一斉にどよめき始める。俺もその場にいた有紗も驚きお互いで見合っていた。
「白石真子と椎名宗二だ。2人の殺害が成功すれば俺は生まれない。そして2人が死ねば、今までの俺たちの勝利が全て無駄になる、ゾンビ達に対抗する勢力がいなくなる!だから狙われた」
「我々も誰か送り込まないと!」
兵士が叫んだ瞬間、「俺がいきます!」「いえ俺が!」「私が!」という声が立て続けに上がる。
「ですが、これは送り込む者を細胞数値で決めて送り込んでいます。先ほど転送されたゾンビが細胞数値340。人間である我々は1000を超えます」
「つまり?」
「つまり人間の大人は送れません。子供じゃないと」
「だめだ行かせられない」
真っ先に声をあげたのは父だった。取り乱し俺と有紗を見つめた。そして自分の胸を押さえながら
「行かせてくれ父さん。俺と有紗を…。」
「だめだっ…行かせん」
「誰よりも両親の話を聞いて育った…行かせてくれ父さん。俺たちを信じてくれ」
「私も行きたい!おばあちゃんにあいたい!」
父を説得するのには苦労した。何せ自分の子供を行かせるはめになるとは思ってもいなかったようだった。
「まだ両親は、俺を育ててくれた立派な人じゃない。父は警備員で、母はアルバイトでな。これを持っていけ」
渡されたのは写真だった。綺麗な海を背景に2人の男女の他に小さな子供2人、女の子と男の子が手を繋いだ写真だった。
「俺の両親だ」
「じゃあこの子供は!」
有紗が子供を指差しはしゃぎだす。子供2人はまだ小さく、女の子の方は指を咥えていた。
「俺と、妹だ」
父さんの妹…父さんが自らの手で殺した妹…まずい、話題を変えよう。
「でも、いきなり俺たちが言っても、信じないでしょ?なんて言えばいい?」
「……こう言うんだ」
話が終わり、2人は女性兵士に一切の装備をとって服だけになれと言われプラズマライフルと他の装備を全て外した。
理由はプラズマライフルや他の装備をつけるとエラーが起きて壊れるらしいからだと。
階段を上る。兵士達が俺と有紗に視線を向けながら真剣な眼差しで見ている。
「両親を守ってくれ2人とも!お前達だけが戦争を終わりにできる!」
良介父さんが叫ぶ。俺と有紗は父さんを見ながら円形の床に立った。
ウィィィンという機械音とともに身体が浮き始める。どういう仕組みなのか、まったくわからない。自然と、どのタイミングで浮き始めたかもわからないような、ゆっくりとした速度で浮き始める。
やがて青い電磁波が俺たちの周りを囲む。
兵士達はその瞬間を静かに見守る。
どんどん光は増し父さん達が見えなくなっていく。不思議な感覚だった。苦しくもなくまるでどこか別の世界にたってるような…。そんな感覚に見舞われた。
だが……
そんなに簡単にいくと思ったの?お兄ちゃん・・・?
何者かに口を押さえられる父
「父さぁぁぁぁあん!!!」
ここで倉見宗介と倉見有紗の視界は黒く染まりブラックアウトした。