とりあえず、へるぷみー!
「好きです!」
「!?」
おれは、目の前に立ち塞がる、おれよりいくぶんか背の高い男子生徒を見上げた。
その男子生徒は、ひどく真剣な眼差しで、おれのことを見つめている。
ちょうど、学校も終わったし、さっさと家帰ってゲームしよーるんるん♫と、意気揚々と教室を出て、校門付近までやったきたところだったんだけど………
まさか、初対面の、しかも男に、出会い頭に告白されるとは思わなんだ。
というか、誰?
敬語ってことは、年下もしくは同級生……よく見るとイケメンだな、おれより背も高いし、なんかムカつく。
顔見るのに首が痛くなるってどういうことだ!!
「あの………速水先輩?」
不躾に観察してしまったせいか、その男子生徒は不安そうな顔で首をかしげた。
おれのことを先輩って呼んだということは、この男子生徒は後輩ってことになるのか…?
「えーと、ごめん、誰?」
「っ!?」
とりあえず、身元確認が必要だと思って、そう聞くと、その後輩くん(仮)は驚いたように目を見開く。
え、あれ?
おれ変なこと言った?
もしかして先に、男が男に告白するっていうこの異常事態につっこむべきだった!?
てか、これ異常事態だよな!?
「あの、もしかして、先輩俺のこと覚えてないんですか……」
おれが軽くパニクっていると、後輩くん(仮)は、ショックを受けた様子で、呆然とそう言った。
え、覚えてるもなにも、初対面なんじゃないのか?
内心首を傾げながらも頷くと、「そんなぁ…」と後輩くんはさらにショックを受けた様子で涙まで浮かべる。
ちょ、なんでそんな泣きそうになってるの!?
え、なに、初対面じゃないの!?
「な、なんかごめん!」
慌てて、謝ると、後輩くんは、なぜか俺の両手をガバッと握る。
な、なにー!?
「入学式の日、先輩がおれに花をくれたじゃないですか!!」
入学式?
あ、そうだ。
確かにおれは、白い花を新入生の胸に付けてあげる役をやっていた。
残念なことに、誰に花をあげたかなんて、全く覚えてないけど。
従って、おれは、この後輩くんのことも全く覚えていないわけでして。
なんて、考えいると、後輩くんが、おれの両手をがっちり掴んで、ずいっと体を近づけてきた。
「おれはあの時……感じたんです!」
「な、なにを……?」
その勢いに、おれは思わず後ずさる。
なんか怖いんですけど!?
「運命ですよ!!」
はい??
後輩くんがそう言い放った瞬間、なぜか頭の中で、ジャジャジャジャーン!と、ベートベンの「運命」が鳴り響く。
いや、今はこの「運命」は関係ない!
というか、運命って。
たまたま花を付けてあげただけでしょ?
「先輩が、おれに花をくれたあの瞬間………おれはビビっと魂が震えるのがわかったんです。これは、運命だって、そう思いました」
恥ずかしそうに目を伏せながら、後輩くんは頬を染めた。
一方のおれは、頬を染める後輩くんを見て、なんか可愛いな、なんて馬鹿なことを一瞬考えてしまった。
馬鹿馬鹿おれの馬鹿!!
というか、「魂」とか、「運命」とか言ってるし、こいつ若干中二病入ってない?
「先輩……おれと恋人になりましょう」
真摯な眼差しと熱っぽい口調で、そう告げられて、おれは頭真っ白になった。
だって、こんな真剣に告白されたのなんて初めてで。
相手男だけど。
告白の断り方なんてわかんないよ!
無駄にイケメンだし!
男だけど。
「え、えーと、ごめん……」
真摯な眼差しに耐えられず、目をそらしてそう謝ると、「なんでですか!?」と後輩くんは声をあげた。
えっと、なんでって言われましても…
「俺たちは、運命で結ばれてるんですよ!?」
「いや、でもおれ、お前のこと知らないし…男同士だし」
ん?
よく考えたら、名前すら知らないな。
なんてことに今更気づくおれは、やっぱり馬鹿なのかもしれない。
「そんなの、これから知っていけばいいんです。愛に時間も性別も関係ありません!!」
後輩くんはそんなよくわかはない自論を展開しながら、おれの両手をガッチリホールドしたまま、またしてもぐっと俺との距離を詰めてきた。
後輩くんの無駄に整ったハンサムな顔が目の前にせまる。
ひええ、近い近い!!
もーやだ!
帰りたい。
ゲームしたい。
おれの好きなゲームはRPGで、普段はギャルゲーなんて全然しないから、こういう恋愛イベントが起こった時、どうやってかわせばいいのかさっぱりわからない。
こんなことなら、ギャルゲーにも手を出しておくべきだったのかもしれない……。
ううっ……
だ、誰か助けて!!
「翔平?まだ帰ってなかったのか?」
俺が途方に暮れていると、背後から救いの声が聞こえた。
聞き覚えのある声に、ばっと振り返る。
「た、拓馬ああ!!お前が神か!!」
「はあ、神……?」
そこには、中学からの親友である、西条拓馬が立っていた。
拓馬は、怪訝そうに首を傾げる。
くっ、そんな仕草も男前だぜ!
拓馬は、男のおれでも見惚れてしまうくらいイケメンで。
男からは羨望の眼差しで見られ、女からは恋する視線を送られる、モテオトコだ。
くっ、羨ましいやつめ!
いや、今はそんなこと言ってる場合じゃない!
「誰ですか?」
後輩くんが、拓馬に向かって警戒心剥き出しな声を発する。
一方の拓馬は、おれから視線を外して、後輩くんを見た。
そして、後輩くんがおれの手をガッチリホールドしているのを確認し、再び後輩くんへと視線を移す。
「お前こそ誰?その手、離せよ」
拓馬は、不機嫌そうに眉をひそめ、低い声でそう言った。
そーだそーだ!
とりあえず、手を離せー!
しかし、おれの心の声も虚しく、後輩くんは手を握ったまま、口を開く。
「一年生五組の倉橋健司です」
「……二年四組 西条拓馬」
「…西条先輩、俺は今、速水先輩と大事な話をしてるので、邪魔しないでくれますか」
うわお。
先輩にむかって、かなり挑戦的な口調だ。
案外大物だな、この後輩くん。
って、感心してる場合じゃなかった。
二人は、無言で睨み合っている。
え、なにこれ。
なに、この険悪ムード!!
おれが一人で焦っていると、拓馬が近づいてきて、ベリッと後輩くんから引き剥がしてくれた。
変に漂う緊張した空気のせいか、後輩くん、もとい倉橋くんは、あっさり両手のホールドをといてくれたみたいだ。
た、助かったー!
「翔平、これ、どういう状況?」
安心したのもつかの間、倉橋くんと睨み合ったまま、拓馬は小声でそう聞いてくる。
「えーと、いきなりほぼ初対面の男子生徒(後輩)に迫られてました?」
おれ自身、なにが起こっていたのかわからなかったから、最後に疑問符がついてしまったのはいた仕方ないと思う。
「ふーん。で、翔平は困ってるんだな?」
「すっごい困ってます!!」
小声で答えながら頷くと、拓馬は倉橋くんから視線を俺に移して、ふっと笑った。
普段、ポーカーフェイスであまり笑わないぶん、こうやって笑うと、印象が変わる。
女子が見たら、クラッとしてしまいそうな笑みだった。
「わかった。おれがなんとかするから」
な、なんて頼もしい。
やはり、持つべきものは頼れる親友だな!
かっこいい、かっこよすぎるぜ、拓馬!
おれが女だったら惚れてる。
「邪魔するなって言ったけど…俺には邪魔する権利がある」
倉橋くんの方を見やると、拓馬はそう言い放った。
「どいうことですか?」
どういうことだ?
おれの心の声と、倉橋くんの言葉がかぶる。
一方の拓馬は、不敵な笑みを浮かべて、おれを指差す。
「俺とこいつは恋人だからな」
「!?」
拓馬のまさかのカミングアウトに、倉橋くんは驚愕した様子で目を見開く。
はは、どうだ!
驚いたか!
おれたちは恋人なんだぞ!!
……って、え?
恋人!?
おれたち恋人だったの?
なにそれ、聞いてない!!
「落ち着け、翔平。これは嘘だ。この状況を切り抜けるためのな。お前が動揺してたらおかしいだろ。俺に合わせろ」
耳元でそう言われて、ハッとした。
な、なるほど。
さすが拓馬だ!
「なんですか、それ。証拠はあるですか!?」
ショック状態から回復したらしい倉橋くんが、拓馬を睨みながらそう言った。
証拠!?
そんなこと言われても、困る。
どうすれば………
おれは、助けを求めようと拓馬を見やる。
拓馬も、俺の方を見ていた。
なにかいい策でもあるのか、口元に薄っすら笑みを浮かべている。
「翔平、ちょっと我慢しろ」
え?
我慢?
我慢ってなにをするつもりなんでしょうか拓馬さ…
「んっ!?」
な、なななななんでキス!?
拓馬の端正な顔が近づいてきたと思ったら、いきなりキスしてきやがったっ。
「んぅっ……ふっ…ぁ」
ちょ、待て待て待て!!
舌までいれんなぁっ……。
完全に油断していたおれは、簡単に拓馬の侵入を許してしまった。
口内を少しの間蹂躙して、拓馬はおれを解放する。
「は、はぁ……」
解放されたおれは、悔しいことに腰が抜けてしまって、へなへなと崩れ落ちそうになるとろを、拓馬に支えられる。
男それも、親友にキスされちゃった……
しかも舌までいれられちゃった(涙)
あ、ありえない…………。
今なら真っ白な灰になれる。
「これでわかっただろ?」
拓馬は倉橋くんに向かってドヤ顔で告げた。
一方で倉橋くんは「ぐぬぬ…」と悔しそうな声をあげる。
おれの唇は犠牲になったものの、効果はあったようだ。
それにしても、リアルで「ぐぬぬ…」という人は初めて見る気がするなぁ。
「俺は、諦めませんから!!速水先輩の運命の相手は俺です!!必ず、奪ってみせる」
熱烈なキスシーン(涙)を見せられてもなお、後輩くんは諦めないようだ。
そんな後輩くんを、拓馬は鼻で笑った。
「は!!奪えるもんなら奪ってみろよ。翔平は渡さねぇ」
拓馬、なんでこんなにノリノリなんだ……。
「望むところです!!そうやって、余裕ぶってられるのも今のうちですよ?」
「へぇ?どうだろうな」
拓馬に抱き寄せられ、唇を奪われ茫然自失状態のおれを他所に、後輩と親友が勝手な言い争いを始めている。
もう……疲れたよ、おいらは。
とりあえず………ヘルプミーィィィィィ!!!!!