第5話 俺、イシソレの都市に着きました。さて、試練開始だ。
俺は、絶対に壊れない刀、略して絶刀を持って、フツルギにわたされた地図の通りに、イシソレの都市に向かった。
フツルギ曰く、イシソレの都市は、もともと日本軍が、魔術の訓練を行い、そこに棲むボスモンスターを狩ることで、自身を強化する目的で作られたらしい。
だが、そこに設置したモンスターの難易度を必要以上に上げたため、日本軍はこれを欧米に売却、現在は沖縄の米軍基地跡に入り口が設置されている。
無論、飛行機に乗るとき、この絶刀は持ち込めないため、フツルギは、歩いていけ。それも修行の内だ。と言って、俺を送り出した。
そして現在、沖縄米軍基地跡。イシソレの都市入り口にやって来た。
「はぁ。やっとついた...」
俺は長々と息をつき、水分を補給する。
「しっかし、歩きで行くとこんなにも時間がかかるとはなぁ」
俺がここまで来るのにかかった時間は約1ヶ月。
一日中歩き回った成果か、多少の体力を獲得したが、それでも多少だ。
あまり自慢にはならない。
俺はエントランスルームで受付を済ますと、早速イシソレの都市に入っていった。
イシソレの都市は、文字通り空中に浮かぶ都市だ。故に、乗り降りはエレベーター、もしくはヘリコプターを使う。
そして、俺はエレベーターを使って上にいく。
エレベーターは、全面強化ガラス張りで、移動中にその景色を見ることができる、一種の絶景スポットなのである。
俺は最上階、イシソレの都市出入口から、そのダンジョンを見る。
「うわぁ、流石、凝ってるなぁ」
俺はそんな感嘆を漏らしながら、前へ進む。
イシソレの都市は、文字通り都市戦用に作られたダンジョンで、ここに出てくる敵は、ほとんどがヒトガタで、モンスターと人との区別がつきにくいわけか、ここで殺人を犯しても、モンスターに殺されただけとして、法が作用しない。
そんなことを思っていると、後方から殺気を感じた。
「ex ul valar!」
(魔法言語訳:貫け閃光!)
とっさに地に伏せると、俺の頭上を黄緑色の魔力砲が大量に通りすぎていった。
「あっぶねぇ...」
さっきの魔法は閃貫。
魔力を大量の電子に変換し、それを圧縮して解き放つことで、超電圧、超電流の電磁砲を放つ。
そんなものがいきなり放たれたら、こちらとしても応戦せざるを得ない。
俺は絶刀を抜いて、振り返る。
「───eyva eyva──」
(魔法言語訳:───嘆け、悲しめ──)
閃貫のスペル詠唱が開始されている。
俺はその敵に向かい、横薙ぎを食らわせる。
「──ex uぶはあっ!?」
詠唱を途中切断させ、そのまま次の攻撃に移る。
右手を返して左下へ向かって無造作に降り下ろし、地面すれすれまで来たところで上に跳ね上げる。そのまま右下に振り下ろし、左上に跳ね上げる。
峰打ちだから、斬れてはいない、と思っていたが、どうやらそれは逆刃刀だったようで。
俺を襲ったそいつは、バラバラになってその場に落ちた。
「.........え?」
その後、俺は壊れたように、狂ったように、目に映る敵すべてを、その絶刀で斬り伏せていき、王の間までやって来た。
広い、場違いな、西欧風の神殿跡の真ん中に、ウサギのように長い耳を生やした、白い髪の少女が、そこに立っていた。
その耳は、獣の歯を思わせるギザギザがあり、まるで、ウサギではなく、ワニのようなイメージを俺の頭のなかに浮かび上がらせる。
こいつが例の、『ルナ』とかいうボスモンスターか。
とか思っていると、奴は腕を垂らし、左右に揺れたかと思うと、その場から消えた。
目の前に一瞬で迫ってきたのだと確信したときには、すでにその腕から重い一撃を食らわされていた。
間一髪、絶刀でその攻撃を受け止めつつ、空中に跳んでダメージを軽減させることに成功したが、飛ばされた先で柱に背中をぶつけ、ダメージを負う。
「っ痛...!?」
さらに追撃を続けるルナ。
間一髪、俺は横に逸れ、下から上に斬り上げを腕に当てる。
だがしかし、絶刀はその腕に弾かれ、ルナに裏拳を食らわされて大ダメージを与えられる。
(んなの、どうやって倒すんだよ...)
口から流れる血を拭い、構える。
体に鈍痛が走り、思わず刀を地で支える。
不意に、後方から空気の揺らぎを感知。
頭を下ろす。
と、さっきまで俺の頭があったところに白く細い少女の足が駆け抜ける。
「......」
彼女は、着地すると、地に伏せ、足を回して、支えに使っていた刀を弾き、体勢を崩される。
「がふっ!?」
次の瞬間、鳩尾に彼女の重い一撃がインパクトし、上空に体が投げ出される。
くそっ、こんなの、無理ゲーだろ!?
さっきまで下にいたルナが見えない。
(どこだ?)
ついに俺は下へ自由落下を始め出す。
視界の隅に、白い何かが上に跳び上がるのを確認したとき、俺は、ものすごい勢いで地に落ちた。
「がはっ!?」
体の中で、何かがおれる音がした。
体を捻り、起き上がる。
俺がいたところに、ルナが両足で着地する。
おそらく踏み潰す気だったのだろう。
彼女が降り立った所に、ちょっとしたクレーターが出来上がる。
背中にオゾケと血の滴が走る。
「ex ul!」
(魔法言語訳:強化!)
俺は唱えながら全力で絶刀を横に薙ぐ。
無論、逆刃刀であることを意識して、本来の刀なら峰であるところで攻撃を仕掛けた。
少しの抵抗の後、彼女の背中に絶刀の刃が食い込み、脊髄を両断して止まる。
ルナの足から力が抜け、その場に倒れた、と思ったのもつかの間、両腕をバネにして跳び上がると、右手が横から迫る。
それをバックステップでぎりぎりかわし、刀を引く。
脊髄をやられたのだ、下半身不随になっているはず。
俺は再び強化の魔法を唱え、その首を斬り飛ばした。
瞬間、体のなかに流れ込んでくる力に耐えきれず、俺は気絶した。
気がつくと、俺は病院のジェルベッドの上で寝かされていた。
「ここ...は...?」
すると、横から手がのびてきて、俺の手をつかみ、
「よく頑張ったな、一記」
「一記っ!」
と、フツルギと、もう一人、母親の声が聞こえてきた。
「フツルギ...。俺は確か、イシソレの都市でルナと戦ってて...どうしたんだっけ?」
俺がそう呟くと、フツルギが
「勝ったんだよ、目的を達成したんだよ、一記は」
そう言って、俺を抱き締めた。