4 言うが易し、料理するは難し
朝から献立を考えていた結花は、ノートにいっぱいになった料理を見て溜め息をつく。
「こんなにできないわ……というか、こんなに食べられないわ」
茄子を無駄にして、夢でまた追いかけられたくはないと、初めの献立に酢の物か何かを足そうと冷静に考える。
この時点では結花はまともに返りかけていた。
しかし、南部からのメールが結花の気持ちを逆なでする。
『おはよう。今晩はサージと麻雀することになりました。
お母さん旅行なので、何か買って行きましょうか?』
スマホを持つ手がぶるぶるする。
「何よ! 茄子を食べたいと言ったから、朝から考えているのに!」
まるで自分が料理できないみたいに思われていると結花は腹を立てる。
『おはようございます。
何も買って来なくて良いです』
素っ気ないメールを返し、結花は先ずは漬け物から取りかかる。
冷蔵庫の中には大きなタッパーが鎮座していた。
どっこらしょと糠床で重いタッパーを台所のカウンターに置く。
艶やかな茄子は、この地方でしか採れない水茄子という種類だ。
なるべく小ぶりの茄子を6個選ぶと、洗い桶で洗う。
また板でヘタの部分を切ろうとして、小さな産毛のようなトゲが指を刺した。
「痛ったぁ! 茄子のくせに生意気や」
思いっきりバシンとヘタを切り落としていく。
ザルに入れた茄子に、漬け物用の粗塩をゴシゴシしていると、さっきのトゲの傷が微妙にしみる。
茄子は表面を粗塩でゴシゴシされて、紫色の汁が少し出ている。
旅行に行くので糠床の中は空にして、きっちりと表面を撫でつけてあった。
結花は茄子を糠床に漬けて、表面を滑らかにすると手を洗う。
「糠味噌くさいかな……」
茄子を漬けただけで、既に疲れた結花だったが、今更ナンベーに何か買って来て貰う訳にはいかないと、妙なやる気を出して、料理を始める。