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如月先輩  作者: みゅう
1.如月姫紗良
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1-3 優良物件

 利樹の居残りに付き合い、少し遅く帰ると、玄関に学校指定のローファーが二足行儀よく並んでいた。一つはきー姉の、もう一つは……。

「お帰り、まーくん」

 リビングから出てきたきー姉が俺を出迎える。その格好はまだ着替えてないらしく、制服のまま。いつもは帰ってきてすぐに部屋着に着替えるので、その辺は友人に合わせてだろう。

「遅かったね」

「ちょっと友達の居残りに付き合ってて」

「その友達って、女の子じゃないわよね?」

 そう言って、疑いの眼差(まなざ)しを俺に向けてくるきー姉。

「違うから」

「ふーん。なら、いいけど」

 きー姉がリビングに引っ込む。それを追って俺もリビングに足を踏み入れた。

「やぁ、まーくん。お邪魔してるよ」

「まーくんは止めて下さい」

 案の定、リビングには制服姿の柚希(ゆずき)さんがいた。ソファーに座り、俺にからかうような笑顔を向けている。

 髪はショート。目つきは鋭く、顔立ちは一見厳しく見えがちだが、彼女の人柄や性格を知るとその印象は大きく変わる。俺にとっては、優しく気のよく利く年上の綺麗なお姉さんだ。

 柚希さんとは高校に入る前からきー姉を通じて交流があった。とはいえ、本当にただ〝あった〟という程度だが。

「失礼。姫紗良の呼び方が、知らず知らずの内に移ってしまったようだ」

 絶対、嘘だ。

「まーくん、何飲む?」

「あ。じゃあ、アイスコーヒー」

「はーい」

 台所から聞こえてきた声に返答をし、俺もソファーに腰を下ろす。もちろん、それなりの距離を開けて。

「学校はどうだい? もう慣れたかい?」

「まぁ、それなりには。もう十日目ですから」

 入学式から数えて、ちょうど今日で十日目の登校が終わった。ようやく、学校・クラス・授業等に慣れ始めた所だ。

「そうか。学校でも家でも色々苦労は絶えないと思うが、頑張ってくれ」

「はぁ……」

 あからさまな肯定は出来ないが、否定も出来ない。

「何? 学校はともかく家で苦労なんてさせてないわよ。ね?」

 コップを持ったきー姉が俺のすぐ隣、触れ合いそうなくらい近くに座り、俺に同意を求めてくる。

「え? うん。そうだね……」

 コップを受け取る際、きー姉と視線を合わせられなかったのは、今日までの生活を(かえり)みれば仕方のない事だろう。

「本当、雅秋(まさあき)君には同情するよ」

「何それ。まるでまーくんが不幸みたいな言い方じゃない」

「そこまで言わないが、大変そうではあるね」

「もう。柚希はすぐそういう事を言う」

 ふん、ときー姉がそっぽを向く。

「まぁ、その反面、幸福でもあるとも言えるけどね。何て言っても、この容姿、このプロポーションだ。性格も好意的に捉えれば可愛いと捉えなられなくもない。優良物件である事はまず間違いないだろう」

 確かに。きー姉は俺には勿体ないぐらいの優良物件だ。今までの苦労とこれからの苦労を差し引いても余裕でお釣りが来る。

「おや、雅秋君の目付きが変わったようだよ。純情少年の我慢が限界を迎えるのも、そう遠くはなさそうだ」

「な? そんな事は……」

 ない……かも?

「え? そんな、私達まだ高校生だし、そういうのはちょっと早いんじゃないかな?」

「いやいや、今時高校生で早過ぎるなんて言ったら、皆に笑われてしまうよ。それに、他の人に取られる前に既成事実を作ってしまうのも一つの手だよ。お互いに」

「既成事実……」

 何やら良からぬ事を想像しているのか、視線を上空に向けたきー姉の顔は赤く、その口元はだらしなく緩んでいる。

「姫紗良、顔」

「あ。いけない、いけない」

 柚希さんに指摘され、きー姉が顔を引き締める。

「あの、俺、自分の部屋に戻ってもいいですか?」

 女子高生二人(しかも、二人共に美人)の会話は、俺にはまだ刺激が強過ぎる。

「いやはや、少し悪ふざけが過ぎたようだ。すまない。雅秋君といると、楽しくてついつい調子に乗ってしまっていかんな」

「勘弁して下さい」

 迷惑を掛けられる相手はきー姉一人で十分だ。

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