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場面.3 眠りが平穏であるように 俺は貴女にそう言った。





  『堕ちる覚悟は出来てますか、アルト君。』

  『サラ、ちびっこ脅かさないで欲しーな。』

  『・・・・・・・シャール、裏社会を頼ると言う事は、堕ちるも同然です。

   麻薬に身を任せるが如く、一度頼れば、抜け出せなくなるかもしれない。』

  『でもさ、サラ。

   オトコノコが、オンナノコ助けたいって言うのは、いいんじゃないかな。』

  『シャール!!』


 リーチェを助けたいって、二人の義兄に頼った。

 そしたら、こう言われた。

 サラ兄は、最後まで、反対してた。

 だけどね。

 その時には、リーチェは、もう『他人』じゃなかったんだ。

 少なくとも、あの一緒に遊んだ日々を諦めたくなかったんだ。



「で、想い出に出来た?」

「話せるぐらいにはね。」

「・・・・場所は、確か中東でもなく欧州でもないような、その中間の国。」

「そう、その国のとある研究所。

 そこが、彼女のある意味での最後の場所だった。」

 こうして、ヴィルに促され、また話し始めた。

 ・・・そういえば、でもないけど、これで、ヴィルと出会ったんだったか。








        場面.3 その眠りが平穏であるように、俺は貴女に言った。








「・・・・・・××××のベリューシオン研究所だね。」

「あと、結構時間もないみたい。」

「アルト君、今日の日付変わる頃に、迎えに来ますから。」

 リーチェが、短い手紙を残して、ネットゲームから消えて数日後。

 サラ兄とシャー兄の報告が、そう言う内容だった。

 珍しく二人とも、慌てたように思う。焦ってたでもいいけど。

 二人は、様子が違うとは言え、微笑と笑顔の余裕は崩さないのに。

 その理由は、リーチェのところに、言ったら解ったよ。

 でも、その時は、また一緒にネットゲームを楽しめるって本気に信じてた。

 まだ、思ってんたんだ。

 ・・・・で、その日の夜半。

 俺は、義兄二人に、連れられてそのベリューシオン研究所とやらに来ていた。

 向こうは、日が沈んだばっかりぐらいだったけど。

 白い白い箱みたいな建物。

 窓もろくに無くて、息が詰まりそうだった。

 周りは砂漠で、何もなかった。

 んで、サラ兄が、爆弾で壁と門とそこの守衛を吹き飛ばした。

 ほら、上海だか香港だかにいる、ライラって居るでしょ?

 先々代の《氣殺》使い・ベルの奥さんの。あれに作ってもらったんだって。

 『薬』には違いないからね、『爆薬』も。

 そんで、探した。

 二人の話によると、リーチェはゲームのアバターとそう変わらない外見だったらしい。

 金髪のふわふわの綿菓子みたいな猫っ毛とミントキャンディみたいな鮮やかな瞳らしい。

 ちょっと、場違いにもドキドキしてた。ゲームのオフ会とかに憧れる年代だったし。

 んで、地下か、一階だったかな。

 二人が、牽制に投げた小型爆弾・・・手榴弾って言うの?あれのせいで、一階の天井から上は、夕焼けがの空がのぞいていた。

 ポッド・・・・ヴァーチャルダイバーのアーケード版っていうかそれのもう少し大仰にして、横になって入るタイプね。

 ヘルメットタイプの三十倍だったかな、バカ高いの。

 その一つに、リーチェは居た。

 でも、金髪のふわふわだったかもしれない髪は、ばさばさで、肌もかさかさだった。

 それに、ゲームでは、十代半ばほどだったのに、そのリーチェは、二十歳少し過ぎで、当時のファラン姉と同じぐらいだった。

「・・・・・・リィ・・・チェ?」

 彼女を抱き上げて、そう呼びかける。

 義兄二人は、その研究についての資料集める為に、隣の部屋に居た。

 俺の呼びかけに、彼女はゆるゆると瞼を開ける。

 瞳は、ゲームと同じミントキャンディみたいな緑色だった。

 どうやら、身体を起こせないようで、手だけを俺に伸ばして来た。

 ガサガサの手は、少しくすぐたかった。

「・・・・・誰?

 ・・・・・・・・ラビ?

 あれ、なんか小ちゃくない?」

幼児幻想薬チャイルドファンムは飲んでないよ。

 それに、ここは、現実だよ。」

「現実でも、兎みたいなふわふわの髪なんだね。」

「・・・うん。」

 ゲームの中の彼女と何も変わらなくて。

 でも、何かが違っていて。

 淡く笑う彼女は、人魚姫のように泡になって消えてしまいそうで。

「逆だね。

 ゲームだと、私の方が年下だったのに。」

 リーチェの言葉を聞いても、俺は返せなかった。

 会いたかったのに、聞きたかったのに。

「一番、私が幸せだった頃の、外見だったの。」

 今とは、全然違う様相。

 知っている外見から、今までの数年間何があったのだろうか?

「・・・・・ラビ、泣いてるの?」

「わかんない。」

 でも、俺は泣いていた。

 何でだかなんてのは、解んない。

 だけど、涙が出て来た。

 その涙が、リーチェを濡らしていた。

「ごめんね。

 あんな手紙残して。」

「ううん、そんな事ない。

 ・・・でも、助けになれた?」

「うん。

 最後に、ラビに会えて良かった。」

「え?」

 ―――すぐには、理解出来なかった。

「よくわかんないけどね、私もうすぐ死ぬらしいんだ。」

「え?」

 ―――正確には、したくなかった、

「研究の被験体だったんだ。

 失敗したらしくて、私の精神、もうダメなんだって。」

「え?

 う、う・・・・ウソだよな。」

 ―――それだけしか、言葉にできなかった。

「ううん。

 今こうやってても、自分が消えてしまいそうな感じだから。」

「せっかくあえたのに。」

「ごめんね・・・・、本当にごめんね。」

「ベアトリーチェ?」

「あ、嬉しいな。

 名前で呼ばれるの、久しぶりだ・・・・・よ・・・・・。」

 ・・・・・・・・・・・・・・そして、彼女は、目を閉じた。

 たぶん、ずっと目覚める事のない眠りに落ちたんだ。

 そう、サラ兄から、聞いた時は、俺は泣いて、泣きまくった。

 その後、時期だったね。

 スキル・《重力への反抗レジスト・グラビティ》に目覚めたの。

 え?それからどうしたかって?

 知ってるくせに、ヴィルは、意地悪だよね。

 そもそも、《記憶のロザリオ》は、或る意味、《御伽噺》関係者のためのアイテムでもあったもん。

 過去の記憶の覚醒。

 そのスイッチが、リーチェの永遠の眠りなのは、皮肉過ぎるけど。






「あの時は、本当に会社が傾いたからね。」

「あんな研究させる方が悪い。」

「だけど、代替え品でも、人は愛せるのかねって思ってさ。」

 ヴィルは、困ったように笑うが、ラビの台詞に、頷くしかなかった。

 その後の顛末は、ヴィルもすこしだけど、知っている。

 ・・・それで、二人は出会ったモノのような形だけど。

 最初は、敵対していたのだけど。




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