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たおやかな一撃 3

※本当に軽くですが、嘔吐表現あります。お食事中の方、苦手な方はご注意下さい。


お待たせしました!

昨日は本作品の書籍版発売日でした。

お手に取って頂きました皆様、本当にありがとうございます。

嬉しい声が届いております。

なろう読者の皆様に支えられて、ここまで来る事ができました。

改めて評価を付けて下さった方、新規お気に入り登録者の皆様、本当に嬉しいです。

これからもよろしくお願いします!


「急にすまない。しかし、どうしても君を呼べと言うのでね」

 王から直々に言われれば、俺は頷くしかない。場をしきるロバートが、油断なくあたりを見回している。

 王は笑っていたが、声は真剣そのものだった。この扉の先では、本当は合わせたくない俺を呼ばないといけない事態に陥っているのだ。

「隠せるものではないから言うが、ロトス側の使者のひとり、ハイドレンジアが倒れた。何らかの呪いに掛かったようだが、原因は不明だ」

「レンジーが?!」

 動揺した。しない訳がない。

「原因が分からないので、我々も処置の施しようがないのです」

 ロバートが首を振る。

「宮廷魔術師ですら、打つ手なしだというのだから、どうしようもない。だが、もう一人の使者、エマ・キューピット子爵夫人が、君を呼ぶように、と言うのだ。アルビオン側としては、使者をここで見捨てる訳にはいかない」

 だから俺が呼ばれた。何か分かるかもしれないから。宮廷魔術師といえば、この国最高峰の魔術師であり、賢人であり、学者である。彼らは医療行為なども兼任する。

 そんな人達でも分からない事態だというのに、俺に何が分かるんだろうか。いや、考えている暇はない。とにかくレンジーの様子を確かめない事には。

「待て、まだ話しは終わっていない」

 こうしている間にも、刻々と容態は悪くなっているかもしれない。夜会が行われている広間は、一時的に閉鎖されている。俺はその扉を開こうとして、王に止められた。

「我々としても、使者に死なれては困る。しかし、もっと困るのは、原因が分からないままになる事だ。例えば、犯人がいるとして、その人物が分からないままでは、両国の関係は悪化する一方だろう」

 俺は足を止めた。アルビオン側としては、最低でも犯人が分かればいい。俺には、レンジーは死んでも構わないと言うように、王の言葉は聞こえる。

「……つまり、俺にどうしろっていうんですか?」

「原因が分かっても、何も言わずに戻ってくるんだ。後は私達が対処する」

 驚きに目を見開く。王の意図が掴めない。

 いいな? そう言って、王がロバートに目配せした。俺に聞き返す間を与えず、王は俺を扉の中へと送り出した。

 目的の人物はすぐに見つかった。赤く豪奢なカーペットの上に、レンジーが顔色悪く横たわっている。

 「レンジー!」

 俺は急いで、彼女の側へ駆け寄った。

 レンジーは胸を押さえて苦しそうにしている。一歩下がったところで腕を組む、エマ子爵夫人から視線を感じる。アリスが間に入って、警戒する。

「ノア、君が最後の希望だ。妹君を助けておあげ」

 俺はこの時、王の言いたい事に少しだけ気がついた。周囲はアルビオン貴族が取り囲み、俺達の様子を伺っている。最初は、王宮魔術師の顔に泥を塗るな、という事かと思っていた。

「(それだけじゃない。ここで俺が必死になれば、レンジーを妹だと認めるようなものなのか?)」

 俺はレンジーを見た。額に大粒の汗。息は浅く早い。王宮魔術師に、毒の可能性はと尋ねる。毒消しを飲ませたり、回復の魔術を掛けたが、少しも回復しなかったという。

「レンジー、辛いと思うが頑張れ。一瞬だけでいいから、こっちを見るんだ」

 俺はスキルを使って、レンジーのステータスを見た。すると、今も体力が減り続けているのが分かった。今も何かが、レンジーの体を蝕んでいる。

 先程から一定の間隔で、王宮魔導師が回復魔術を掛けているようだが、原因を取り除かなければ、レンジーはずっと苦しいままだ。

 王宮魔導師が呪いの痕跡を辿れないならば、やはり毒である可能性は否定できない。聞けば、薬草を飲ませただけで、吐かせてはいないという。基本中の基本だというのに、なんで処置をしなかったのか。

「もし毒だというのなら、他の高貴なる方々にも影響が出ているはずだ。彼女の食べたものは、みんなが口にしているものと同じ」

 いくらでも狙おうとすればやれるだろう、という言葉を寸前で飲み込む。レンジーを狙うなら、エマ子爵夫人を狙うだとか、王を狙うだとか、そういう話しは、例えでも危険だ。

「アリス!」

 俺はアリスと協力しあって、レンジーの体を持ち上げた。胃の中のものを吐かせる為だ。そうすれば、原因が分かるかもしれない。

 と、同時にあたりを見回す。怪しい動きの者はいないかチェックしたのだ。そうすると、ひとりのメイドが青ざめた顔で後ろに下がったのが見えた。

 顔は覚えた。アリスも俺の視線に気がついたらしい。アリスがレンジーを支える手を、近くにいた給仕と交代するのを横目で見届ける。

 まずは、レンジーを助けよう。二人で頷きあい、行動に移そうとした時、ロバートが俺の手を止めた。

「王のご命令どおり、ここは彼らに任せよう。さあ、こっちへ」

 なんで。命令を忘れたわけでは無かった。でも、こんなレンジーを残して、去る事なんて、俺にはできない。遠くで悠然と構える王と目が合う。雰囲気が、こちらへ来いと言っている。命令に真っ向から逆らう勇気など、俺にはない。しかし、足が赤いカーペットに引っ張られるように付いて離れない。

「――彼を離したまえ」

「せ、先王陛下!」

 ロバートの手が離れ、見上げた先にいたのは、ユースティティ・アルビオン。先王陛下だ。

「ノアくん、君は同僚を助けたいだけだ? そうだろう?」

「はい、俺はギルドで彼女と共に働いていました。同僚を助けたい、それだけです」

 本当は妹のように可愛がっていた。今それを言う事はできない。

 先王は、ニコリと笑って続けなさいと言った。王の方は見ない事にする。二人の仲がどうかは知らない。俺は俺のやれる事をする。それでもダメならまた考える。

 レンジーが吐き出したものの中に、黒い花の飾りがあった。ほんの小さな木の実くらいの大きさのものだ。俺はひと目で、これがマジックアイテムだと分かった。

 毒ではない。レンジーは呪いの元を飲み込んでいた状態だったのだ。回復しても、このマジックアイテムが力を発揮し続ける限り、苦しみから解き放たれる事はない。

 俺はその黒い花を、直接触らないように布で包んだ。

「レンジー、レンジー大丈夫か?」

 瞼のふちから、涙がこぼれている。ゆっくりとあけられた瞳に俺が写った。

「ノア、せんぱい……」

「お見事だわ、ノア。ロトス帝国の者として、礼をさせてほしい」

 静観を決め込んでいたエマ子爵夫人が、白々しく言った。彼女は、一度もレンジーを心配している素振がなかった。

「ノア、捕まえた」

 アリスが、不審な動きをしていたメイドの後ろ手を掴んでやってくる。すぐさまロバートの部下がメイドの身柄を拘束した。

「わたしは、何も知らないわ……! お願いです、離して下さい! 聞いて、あれは薬だと聞いていたの。お嬢ちゃんが腹痛だから渡せって、私は頼まれただけで……あ、」

 拘束を振りほどこうと、騒いでいたメイドが、突然話すのを止めた。

 俺は不思議に思って、メイドの方を振り返った。彼女は一点を見つめていたかと思うと、恐怖に引きつった顔で震え出した。

 拘束していた騎士が、大人しくなったメイドを連れて行く。

「さて、一体誰の差し金かしらね?」

 ロトス帝国は襲われた側だから、アルビオン王国の者を疑うのは当然だろう。しかし、わざわざアルビオンの旗色が悪くなるような場所で、要人の暗殺なんて実行するだろうか。

「おい、口を開けろ!!」

「誰か、誰か来てくれ! クソッ、一体何を飲んだ?」

 メイドが連れていかれた方から、騎士の怒鳴り声と、貴族達の悲鳴が聞こえる。

「どうやら、自分の口を封じたみたいね?」

 エマ子爵夫人が薄く笑った。


 あれから半日が経った。ロトス帝国の使者は、予定通り、本日の帰国の途につくらしい。

 レンジーは、まだ倦怠感は残るものの、無事回復したという。

 そして、例のメイドだが、どこの国の者なのか判明せず、というのが上の答えだった。

 彼女はアルビオン出身者ではなかった。身元を知っているもの、家族などが誰もいないのだ。王宮に出入りする人々は、管理されているはずだった。今回の事で、そのチェック体制も怪しくなったが。

 ロトス帝国側も調査に加わったようだ。ロトス側は、もちろん自分達の国の者ではないだろうと言い張った。

 それにしても、最後にメイドが言いかけた言葉が気になる。メイドは、

 故意に犯行に及んだのではないと言った。だが、彼女はあの後、口の中に隠していた毒を飲んで、死んだ。ほとんど即死だった。

 口封じ。エマ子爵夫人はそう言った。俺もそう思う。でも、そうした理由が分からないまま、ロトス帝国の使者は帰っていった。

「あのメイドは、即死できる毒を手にしていて、なんでレンジーに使わなかったんだろうな?」

「アリス……分からない……」

 メイドが声を失った先に見ていたのは、エマ子爵夫人だった。どうして、回りくどいやり方で、レンジーに辛い思いをさせたのか。

「ノアを引っ張り出すだけにしては、あっさりと帰って行った。このまま、終わると思うか?」

「やめてくれ!」

見事な中庭を眺めながら、そんな会話をしていると、近衛兵が走りよって来た。アリスが手前に立つも、彼は全然気にしていない顔で、王が俺を呼んでいると言った。

「単刀直入に言おう。ノア、君をロトス帝国へ連れて行く事になった。詳細は追って知らせる。理由は、使者を助けた事への、お礼だそうだ。ぜひわが国で、もてなしたいとね。ロトス帝自らのご指名だ。アルビオンとしては、断る理由がない」

 俺はあまりの事に、腰が抜けそうになった。

 オプティマス王の目が、余計な事をしてくれたと俺を責めるようだった。

 俺はアルビオン王国に見放されたわけではない、そうだよな?

「だが、なんとか策を考えよう。父もそうするべきだと言っておられる。だが、今回ばかりは躱し切れないかもしれん。覚悟しておくように」


書いてる途中で、「見た目は大人、頭脳は人生二回目、その名も命探偵ノア!」ってよく分からないセリフが頭に浮かんだのは秘密です。推理モノじゃありませんよ!

いつもながら急展開ですw


2015/01/12 修正

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[一言] 鳴かぬなら鳴くまで待とう…アルビオン 鳴かぬなら殺してしまえ…ロトス帝、じゃないといいなぁ
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