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こちら討伐クエスト斡旋窓口  作者: 岬キタル@鬼他
王宮編

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たおやかな一撃 1

 戦いが終わり、俺の選んだメンバーに、それぞれ感謝された。

 特にアッシュには、許嫁の彼女共々、何度もお礼を言われた。俺は苦笑いしながら、その言葉を受け取った。

 親衛隊に知られたからには、報復される心配はないだろう。何と言っても、聖女様が付いている。

 後の事は任せて下さいと言われ、俺はアリスと共に、王宮に与えられた自室に戻った。


「どうしたんだ、ノア?」


 豪華な扉を開けた瞬間、何か見えた。ここにいるはずのない人物だ。

 言葉を失っている俺を後ろに下がらせ、アリスが警戒しながら扉を開けた。


「……誰だ?」


「貴女がノアさんの騎士、アリスさんですね。こうして顔を合わせるのは、初めてですね。わたし、イズーと申します」


 俺は戸惑うアリスに、警戒は必要ない事を伝えると、現実逃避をやめて、室内へと入った。

 にこにこと笑うイズーは、いつもの室内用のドレスではなく、メイド服のようなものを来ていた。

 俺の思い違いでなければ、彼女が着ているのは、アッシュの許嫁が着ていたものと同じ。この城の侍女が纏う制服である。

 俺はさっそく現実逃避したくなったが、目で問いかけてくるアリスに、説明した。


「あー、彼女はイズー。トリスタンの妹だ。シュテルン家の屋敷にいたが、訳あって表には出ていなかった。だから、アリスは直接会った事なかったんだ」


「なるほど、私はアリスだ、よろしく。それで、その公爵家のお嬢さまが、なぜ侍女の服でここに?」


 アリスは俺の言いたい事を、イズーに聞いた。だが、まあ、質問が答えのようなものだ。


「陛下とお兄さまの命により、行儀見習いのため、お城に上がる事になりました。ノアさんの元に、侍女として控えさせて頂きます」


 アッシュの許嫁もそうたが、貴族の娘が作法の勉強のため、お城に上がる事は多々あるようだ。

 だが、公爵令嬢が侍女なんて、ましてや貴族でもない俺に侍女が付くなんて、聞いたことない。


「本当は、陛下に事情を承知された上で、ずいぶんと前からお城に上がるよう、お話を頂いていたのです」


 彼女のように身分の高い女性が城に呼ばれる場合、外交や、貴族同士の中を深める夜会などが主な目的だ。

 行儀見習いとして登城しても、お嬢さまはお嬢さま。侍女の為に侍女が付くなんていう、ちょっと不思議な事になる。

 イズーは外交や、パーティーには出られない。だが、王はイズーがずっとあの屋敷に閉じ込められているのを気にかけていたらしい。

 公爵令嬢を適当な貴族に付かせる事は出来ないが、事情を知る俺に付かせれば、彼女の秘密は露呈しにくいし、警備も万全と言うわけだ。

 うん、あの王様ならやりかねない。


「あの、ご迷惑、でしたか……?」


「いやあの」


「これでも、公爵家の娘として教育を受けて来ました。貴族同士の習わしなど、少しはお役に立てるかと思います」


 その通りだった。

 俺が何か言ったところで突き詰めれば、彼女は王の命令で、ここにいるのだ。もちろん、俺だってこんなにかわいくて気心の知れた侍女なら、大歓迎だ。

 イズーはこれから、遠慮ぎみに言った何倍も城や貴族との生活に不慣れな俺を助けてくれる事になるだろう。

 正確に言うと、イズーの側には、シュテルン家のメイドがひとり、世話役として付いて来た。

 俺はアリス達女所帯に世話を焼かれながら、城の一等地で、随分と贅沢な生活を送る事になった。


 さて、肝心な仕事の方だが、一応順調に進んでいる。

 例のヒゲの兵隊長の席には、隊の二番手だった、ワットと戦った男が座る事になった。ワットとの戦いを見ていて、ヒゲのように下衆では無いと思ったが、まだよく分からない。

 右腕と呼ばれていた訳だし、ヒゲの悪行を全く知らない訳でもないだろう。

 全ての人物像を把握する時間は無いし、俺にできる事は限られている。

 今近衛兵に求められている事は、対人戦闘の練度ではなく、暗黒期に備えた、対モンスターの戦闘だ。

 五大国同盟間で行われる、伝統的な軍事演習を念頭に置かれた近衛兵の訓練は、時代遅れと言って間違いない。

 これまでは、おじさんのような辺境地域の兵士達が、モンスターから街を守ってきた。近衛兵は王を守る為、敵兵と戦う為に、城に据え置かれてきた。

 だが、次の暗黒期が来れば、近衛兵団も動かざるを得ない規模の被害が出るだろうと言われている。

 何年も前から、暗黒期の研究者達が訴えていたが、ようやく、その声が届いた頃には、暗黒は目前に迫っているというわけだ。

 今回、国境付近から少しのところで持ち堪えられたとしても、暗黒期には次がある。

 そこに俺が現れた。スキルもそうだが、対モンスター戦にアドバイスが出来る。ギルドの窓口係という経歴は、王の求める人材としてはピッタリだったのでは無いだろうか。

 さらに、ここ最近、国境付近がきな臭い。ロトス帝国だ。

 それなら対人戦だろうと言われるかもしれないが、兵士達が戦っているのは、帝国の兵士ではない。

 帝国は、国境付近で大規模なモンスター討伐を行い、アルビオン王国の方へモンスターを追いやっているのだ。

 帝国がやっているに違いないが、モンスターを実際に討伐しているのは、雇われた傭兵である。地元周辺の被害を考えれば、モンスターを討伐するな、とは言えないので、両国の国境付近はピリピリしているらしい。

 ただの嫌がらせにしては、被害が大きいので、最近では仲裁として近衛兵が派遣されているらしい。

 援軍としての働きも、地元の領主からは期待されていた。

 だが、対人戦しか想定していない近衛兵は、あまり大きな声では言えないが、援軍という程役に立っていないようだ。

 それが広範囲に接している、国境の各地で起こっているともなれば、早急な対応が必要だろう。

 まず、城に残る近衛兵のステータスを、片っ端からカードに焼き付け、例のギルドの教本を参考にしつつ、個々のスキルアップをはかる。

 対モンスター戦のための訓練の見直しや、各隊の編成、配置の見直しも同時に行わなければならない。

 ヒゲを追い出してから、そこそこ認められたのか、下手に逆らうのはまずいと分かったのか、近衛兵達は表面では俺のする事に、協力的な態度を見せている。

 

 今日も、兵士達のステータスを見るため、アリスと共に訓練場に向かっている最中の事だ。


「騎士団の時は、ユージンやレンジー達が手伝ってくれたけど……」


「私に出来る事なら手伝うんだがな」


 進んではいるが、とにかく数が多い。アリスは護衛なのだから、いざという時動けなければ意味がない。

 ギルドの面々が、どれほど俺を助けてくれていたか改めて感じた。


「ノア先輩~!」


 ああ、幻聴が聞こえる。これは、レンジーの声だ。疲れてるんだろうか。


「ノア、久しぶりだな」


 今度は、エマ支部長の声がした。

 ギルドの、アルブス支部で俺の上司をしていた人だ。

 いや、そんな筈はない。何故なら彼女は、畏まった場や貴族を嫌っていた。それに、彼女は結婚して、仕事を辞めたとユージンが話していた。


「ノア……、ノア!」


「あ、ああ……」


 アリスの声に、俺はやっと我に返った。中庭を挟んだ反対側、十人程の隊列の中から、二人は顔を出した。

 彼女達の側には、騎士が付き添い、物々しい雰囲気で石畳みの廊下を歩いている。

 だが、おかしな事に、彼女達を取り囲む騎士は、ロトス帝国の正装をしていた。見間違いでなければ、エマ支部長とレンジーも。

 つまり、彼女達はロトス帝国の使者という事になる。

 アルビオンの案内役の騎士が、静止するのにも関わらず彼女達は俺の前まで進路を変えてやって来た。

 アリスが、さりげなく俺の前に立つ。


「どうして、二人がロトス帝国の使者として、ここに?」


 俺の口からは、自然と疑問が飛び出していた。


「随分な挨拶じゃない。まあ、いいわ。私が結婚したというのは、聞いたかしら?」


エマ支部長の言葉に、俺は頷く。


「はい、ユージンから。おめでとうございます」


 ありがとう、そう言ってエマ支部長が笑った。あの、エマ支部長が笑った?

 俺は背筋がゾッとした。


「結婚相手は、ロトス帝国の子爵。エマ・キューピットと名前を改めたわ。今は私も帝国貴族の端くれという訳」


エマ支部長、いや、エマ・キューピット子爵夫人は、幸せそうに微笑んだ。


「今日は、ロトス帝国の使者として来たの。貴方にも関係ある事よ」


「そうなんです! 私と、ノア先輩に関係あるお話しなんですよ!」


 レンジーが、いつもの様に明るく言った。こんな状況なのに、ギルドで働いていた時と同じように彼女は笑っている。


「前に私が話した家族の事、覚えてますか?」


 ああ、覚えている。彼女には生き別れの兄弟がいるらしい事。それを調べるために、俺も力になったが、結局分からずじまいだった筈だ。


「それがー、やっと父親が誰か分かったんです! その人の名前は、レスター・イグニス」

 

 嘘だ。そのひとことが、喉に引っかかって出てこない。


「私のお兄ちゃんは、ノア先輩です!」


レンジーの無邪気な笑顔が、俺を貫いた。


別名、女祭り。

視覚的には、よりどりみどりでうらやましい限りですが、そう簡単にいかないのがこのお話です。


2015/01/12 修正

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