謁見 2
こんにちは!
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これからも、当作品を、どうぞよろしくお願い致します!
本編にて、ケルベロスの名前の発表いたします。
あとがきにて、考えて下さった方々に、お礼を申し上げます。
正面横の扉から、王が入ってきたのが分かった。
「面を上げよ。ついでに、直答を許す」
イスに着くより先に、淡々とした声で王が言い放った。
そもそも、俺は自分が住む国だというのに、王の事をよく知らなかった。
王様とは、死ぬまで王であるイメージが強かったが、アルビオンは違う。
先王が若くして、現王にその地位を譲った。
どうやらそのサイクルには、暗黒期が関係しているらしい。
顔をゆっくりと上げると、シンプルだが美しい彫刻のされた、石造りのイスに、ゆったりと腰掛ける王の姿があった。
トリスタンの動きに従って、俺達も立ち上がる。
「久しぶりだな、トリスタン。元気そうでなにより。今回のケルベロス討伐は見事だった」
「陛下には益々のご健勝、拝察申し上げます。過分なお言葉を賜り、光栄に存じます。我らメンフィス騎士団……」
トリスタンが、ツラツラとお堅い挨拶を続ける中、俺は不自然にならないように、しかしあまり見過ぎないように、王の顔を観察した。
張りのある声の印象のままに、王は若々しく輝いて見えた。
先王は柔和という雰囲気を持っている人だったが、王はハツラツとしていて、とても爽やかに笑う人だった。
三十代になったばかりの王は、今が一番、肉体的にも精神的にも絶頂期のようだ。
アルビオンは、死の土地に接してはいるが、それ以外は土地も豊かで気候にも恵まれている。
ロトス帝国より総面積は狭いが、それでも大陸の中央にあるアルビオン王国の領地は広大だ。
その大国を、この人が全て治めているのだ。
「で、それが件のケルベロスの子だな。ロバート、この男は魔獣士か?」
「はい陛下。カミュという名の魔獣士で、スキル持ちのようです」
ふむ、とひとつ頷いた王は、カミュを見て言った。
「カミュよ、ケルベロスを俺の騎獣にしたいのだが、できるか?」
「……はい、時間を頂ければ、その様に調教してみせます」
「それは結構。最近翼種の馬を献上されて乗ってみたが、どうもしっくり来なくてな。国としても、スキル持ちの魔獣士は一人でも欲しいところだ」
王がチラリとロバートを見た。
「カミュ、王は君を専属の調教士として雇いたいそうだが、どうだい?」
「……俺でよろしいので?」
「強制ではない、とは言わないが。ある程度の自由と金銭の融通はきかせよう」
「はっ。陛下のお心遣い、ありかたく存じます」
カミュが、胸元のペンダントを握った。村に残してきたメリッサを思っているのだろう。
だが、カミュの声に迷いはなかった。
俺は王の即決即断に、内心驚いていたが、カミュはある程度覚悟していたようだ。
「ケルベロスの名前だが、プルガトリアというのはどうだ? いかにも強そうだろう」
「よろしいかと思います、陛下」
目を輝かせる王に、ロバートが笑う。
そうか、と一度頷いた王は、しかしとケルベロスを見つめ直した。
「こやつらには、頭が三つあるのだ。それぞれ見る方向も違えば、どうやら気性も違うようだな?」
イスの上から、王が戯れに指を振ると、ケルベロスの三つ首は、それぞれ別の反応をしてみせた。
王の質問に、カミュが答える。
「その通りです、陛下。真ん中が強気、右が慎重、左が弱気と、頭ごとに性格があるようです」
「さて、どうしたものか。トリスタン」
「はっ。炎を吐くのは、陛下もご承知の事とは存じます。さらにこのケルベロスの親は、霧を呼び我らを苦しめました」
トリスタンが、ケルベロスの特徴を伝えると、王は報告にあったなと呟いた。
「ふむ。中央の元気な頭を、シャムス、慎重な右の頭をミストと呼ぼう」
ケルベロスを見ていた王が、パチリと俺に視線を合わせた。これは来るぞ。
「ノア・イグニス・エセックス、だったな」
「はい、陛下」
やはり来た。よし、声は震えてないな。
大丈夫だ、深く息を吸って、吐いて、笑顔を忘れずにだ、俺。頑張れ俺。
「君が飼い犬に名前を付けるなら、何とつける?」
「……ハチ?」
この時王の質問が、ケルベロスといってくれていたら、もう少しマシな名前を思いついたかもしれない。
ハチって、よりにもよってハチはない。逆に珍しいくらいだろう。そもそも世界が違った。
いやつまり、俺はとんでもなく緊張していたのだ。
「変わった響きだな。どういう意味を持つ言葉だ?」
「――古い言葉で、忠犬を差す言葉でございます、陛下」
嘘は言っていない、よな?
俺は冷や汗よ引っ込めと祈りながら、必死に笑顔で保った。
「ほう、いい名だ。では、左の弱気な頭には、私に忠実になるよう願いを込めて、ハチと名付けよう」
採用されてしまった。
シャムスにミストにハチ。なんともアンバランスだが、王は機嫌良さそうに、それぞれの名前を呼んでいる。
「皆、ご苦労だった。私はこれより、ノア君と内密な話がある。君たちも宴に参加してきたまえ」
「!」
俺はピクリと肩を弾ませた。トリスタンも、無表情ながら少々戸惑っているようだ。
衛兵が、こちらです、とトリスタンやカミュを誘導するように脇を固めた。
「君も行くんだ、女騎士殿」
ロバートが、アリスを連れて行こうとするが、彼女は決して足を動かそうとはしなかった。
「ロバート、お前も席を外してくれ」
「……陛下」
ロバートが諦めたように、しかし納得がいかないという様な顔で、王に訴える。
王はロバートに鷹揚に手を振って、彼の訴えを拒否すると、アリスに話しかけた。
「女騎士よ。これから話す事は、一度知れば、生きて帰れぬ秘密かもしれんぞ?」
「アリスと申します、陛下。私は、いつ何時でもノアの側にいると、自分の剣に誓いました」
「ア、アリス……」
慌てる俺に、王は笑い飛ばした。
「ははは! これは度胸のあるお嬢さんだ。我が親衛隊にも女騎士がひとりいるが、彼女と気が合うかもしれぬ!」
王が笑うのを止めて、じっとこちらを見つめて来る。
「ま、半分は冗談だ。残り半分は、ノア君次第といった所かな?」
太陽の光のように強い視線に、俺が無意識に下がりそうになった時、ふいに手に温かいものが触れた。
「ならば大丈夫。私はノアを信じている」
アリスが、俺の手を握って、そういった。
アリスのどこから来るのか分からない自信と、澄んだ瞳に見つめられて、俺は落ち着きを取り戻した。
カミュがプルガトリオを引き、トリスタンとロバートが退出した。
衛兵も全てが扉の向こうに見えなくなり、謁見の間には、俺とアリスと王だけになった。
ケルベロスの名前、たくさんの方が、一緒に考えて下さって、とても嬉しかったです。ありがとうございました。
Aquaさんから、全体の名前のプルガトリア(煉獄)を。
JAN-UMIさんから、シャムス(太陽)を。
月兎さんから、ミスト(霧)を。
佐助さんから、ハチ(笑)を。
それぞれ採用させて頂きました。
もう本気でタマとかポチとかにしたかったんですが、あまりにも迫力がないので、皆さんに考えて頂きました。
星座とかニックのつづりの頭文字を利用するとか、全部採用したかったのですが、今回はこうさせて頂きました。
考えて頂いたお名前候補は、作中で他のキャラの名前として使わせて頂くかもしれません。
では、改めまして、本当にありがとうございました!
2015/01/12 修正