望まれた帰還
いつも読んで下さってありがとうございます!
続々、ケルベロスのお名前集まってます。
お名前の発表は、次話の作中でできればと思います。それまで、まだ募集してます~
どのお名前に決まっても、恨みっこなしで!よろしくお願いします!
「髪はアリスの方が長いのね」
「ちょっと前まで、同じくらいだったよ。 カミュは日に焼けてるな」
「そうね。彼、働き者なの。いつも父が、助かるって言っているわ」
話し合いが一段落した所で、メリッサが飲み物を用意してくれた。
ありがたくそれを頂きながら、俺とメリッサは、双子の違いを探していた。
「おい、メリッサ……」
「そんなに見られると、気恥ずかしいな……」
二人は少し赤くなりながら、同時に頬をかいた。
それを見て、俺はメリッサと顔を見合わせた。
「「本当にそっくり」」
隣どうしに立てば、カミュの方がいくらか背が高いのが分かった。
それ以外にも、もちろん男女の差はあるだろうけれど。
しばらく四人で話し込んでいると、ルークが明日の事について知らせに来た。
「王都からの返事は、朝には届くと思う。問題はケルベロスの子をどうするかなんだけど……」
「カミュ、もしケルベロスを調教するとしたら、どの位かかる?」
俺がカミュに質問すると、彼は「駒犬」のスキルについて軽く説明してくれた。
「このスキルは、一時的にモンスターの理性を奪うスキルだ。連続してかけると、ケルベロスを殺してしまう可能性がある」
「スキルがかかって、従順な内にモンスターにそれが当たり前だって刷り込みをするの。 カミュは元から、モンスターに好かれる体質みたいだから、調教はとっても上手よ」
メリッサが、まるで自分の事のように誇らしげに言った。
「俺を主人として調教する訳じゃないから、普通より時間がかかると思うけどな」
カミュがスキルを使えば、従わせるのは簡単だが、他人に慣れさせるのは難しい。
カミュは少なくとも、二十日は欲しいと言った。
ルークが分かったと、頷く。
俺達はそのまま夕食をとって、すぐに眠りに入った。
静かな村に、馬の嘶きが響く。団員の話し声が徐々に大きくなっていき、ざわざわと人が起き出す気配がする。
パチリと目が覚めた。
辺りは薄暗く、夜明けまでまだ時間がありそうだ。
王都からの返事は朝には来るだろうと言っていたが、少し早すぎる。
ともかく、目が冴えてしまった俺は、起き上がって下の階へと向かう事にした。
割り当てられた自室の扉を開けると、向かいの扉からアリスが顔を出していた。頷いたアリスと一緒に、階段を静かに降りる。
食堂を通って外に出ると、トリスタンとルーク、王都からの使者の姿が見えた。
「ノアさん、ちょうどいい所に!」
「ルーク! トリスタンも。一体どうしたんだ?」
俺の姿を見つけたルークが、こちらを向いた。
俺はできるだけ声を潜めて、二人に事情を尋ねる。
「ノア、荷物をまとめろ。早朝、日の出と共に出発する」
トリスタンの言葉に、俺は目を丸くした。
「一刻も早く王都へ戻るよう、王からの命令だ」
トリスタンが端的にいった。ルークが珍しく眉間にしわを寄せて、補足した。
「具体的には、ケルベロスの頭と、その子供を連れて王城に来いってさ」
王都からの使者は、騎士団からの討伐成功の知らせを聞いて、すぐにこの村へ早馬を飛ばしたらしい。
ケルベロスの頭と子供を王に献上しろというのは分かるが、なぜそんなに急ぐのだろう。
そして、ケルベロスを討伐したのは騎士団と傭兵達だ。俺は急ぐ必要ないだろう。
「ノアさんも、呼ばれてるんだ」
嫌な予感がする。呼ばれるって、何にだろうか。
「我々騎士団と共に街に入り、そのまま登城しろと、王からの命令だ」
トリスタンが、諦めろとばかりにいった。
命令ならば、トリスタンは従うしかないだろう。
ルークは先王の下、働いてはいるが、立場はただの情報課のいち職員だ。
現国王に物申せる訳ではない。
トリスタンは、すぐに団員をまとめにかかった。
ルークはカミュを起こして、事情を説明しに向かう。ケルベロスを王都に運ぶため、魔獣士の力が必要だからだ。
「俺、何かしたかな……?」
「大丈夫だ、ノア。私もついて行く」
突然の王からの呼び出しに、血の気が引いた。顔色が悪い俺の肩を叩いて、アリスが安心させるように言う。
ケルベロスの討伐が終われば、確かに俺は城で働く事になっていた。
それでも、先王陛下に従って生活するのだと思っていたのだ。
これまで直接は関わってこなかった王に、いきなり会う事になったら腰が引けるのも仕方ないだろう。
カミュがメリッサに短い別かれを告げて、ケルベロスの檻を積んだ馬車に立つ。
トリスタンが、俺とアリスも、この馬車に乗るよう指示した。最低限の荷物で向かうためだという。
少ない荷物を手早くまとめて、アリスと共に馬車に乗り込む。
クインシーは単騎で併走するらしい。
朝日が登りはじめる。
メリッサが見送る中、俺達は王都に向けて慌ただしく村を出発した。
太陽がもうすぐ真上へと登る頃、俺達は王都の門をくぐった。
王城から先だって、知らせが来ていたのだろうか。
城壁の扉は全て開け放たれており、ケルベロスを乗せた騎士団の一行は、真っ直ぐ街のメインロードへと進んだ。
妙に静かだ。
この時間、三の郭は買い物をする人々で賑わい、メインロードも馬車で混雑しているはずだ。
「街のざわめきが、聞こえてこない」
「アリスも感じたのか。なんか、静かだよな……」
王城の兵士達が先頭に立ち、メンシス騎士団がケルベロスの二つ首を引いて、メインロードに入る。
その途端、ワッという大歓声があたりに響いた。
「な、何なんだ?」
カミュが困惑して、アリスを見るが、俺達だって分からない。
続いて、檻を乗せた馬車も、石で組まれたアーチをくぐって、メインロードに入った。
そこには、人という人が集まっていた。
まるで街の住民全てが押し寄せてきたかのように、メインロードの左右を取り囲んでいる。
「メンシス騎士団万歳!」
「ケルベロスの首の、なんて大きい事。体はどんなに巨大だったんだ!」
どこから話が漏れたのか知らないが、ケルベロスから王都を守ったヒーローとして、騎士団は迎え入れられているようだった。
「どこかの馬鹿が民衆の恐怖を煽ったらしいな。王都の民の中には、魔獣なんぞ、見た事もないってヤツもいるんだ。いつもは上品な言葉しか言わない口で、ワンコロの死体を散々罵ってやがる」
併走していたクインシーが、ケルベロスより凶悪な顔で笑った。
王都は、死の土地からも遠く離れている。王都の民は、この城壁の中が、どこよりも安全であると信じているのだ。
こんなに大型のモンスターに襲われるという危機を、はじめて実感したのかもしれない。
これまでお飾りと言われ、風当たりの強かったメンシス騎士団に、手の平を返したように感謝する民衆を見て、よかったと思う反面、俺は複雑な気分になった。
先を行くトリスタンは、民衆から寄せられる熱い視線など物ともせず、堂々とした姿でメインロードを進む。
「王サマからしたら、街の不安を解消できて、民衆に防衛力も示せる。俺達は見世物なのサ」
横目でそれを見ながら、クインシーが呟いた。
ケルベロスの頭の大きさに怯える声や、騎士団を賞賛する声が、歓声と共に耳に入ってくる。
その大きな声に驚いた、ケルベロスの子が、うなり声を上げた。
集団の視線が更に集まる。カミュが大丈夫だと檻に手を入れ、それぞれ頭を撫でて、なだめようとしている。
それすら民衆の興味を引き、ざわめきは大きくなる一方だった。
「ケルベロスの子よ! なんて凶悪な顔をしているのかしら」
「あの兄ちゃんは、魔獣士か? あんなに恐ろしいケルベロスを撫でてるぞ!」
彼らの視線が、隣にいるアリスや俺にも移るのが分かる。
「ケルベロスの一つ首を倒したっていう女騎士だ!」
「凛々しいわねぇ」
「じゃあ、あのギルドの制服の男が、ケルベロスの弱点を看破したっていう?」
「彼なしじゃあ、危なかったって聞いたわ」
アリスは被っていたフードを、更に深く被った。
ここで、大声で違うと叫んでも、誰も聞いてはくれないだろう。
ケルベロスの話が漏れたのは、ありえても、具体的に誰がどうしたなんて情報が皆に知られているのは、いくらなんでもおかしい。
多分、情報が操作されている。それも、今から向かう場所の主によって。
クインシーの言うとおり、俺達は見世物だ。
俺はカミュとアリスの間で、どこにも隠れる場所などなく、ただ手を振る民衆に笑って応えるしかなかった。
2015/01/12 修正




