失われた心 2
おひさしぶりです。
いや、本当にお久しぶりです。すいません、生きてます。
11日すぎれば余裕ができるかな……またペースを上げて更新していきたいです。
やるやる詐欺にならないよう、頑張ります。
馬車は比較的ゆっくりとした足取りで、街道を進んだ。
行きはかなりの強行軍だった。
王都や街道の安全が掛かっていたのだから、当たり前の事ではある。
だが訓練された兵士でもなければ、旅慣れした傭兵でもない俺は、疲労困憊していた。
ケルベロスとの戦いの時、実際俺は竜の背に乗っていただけだというのに情けないな。
俺達は、街道からほど近い、小さな村へとやって来た。
ここから王都まで、残り馬車で半日といった所だろうか。
今日はこの村に泊まる事となっている。
出迎えてくれたのは、二番隊のシエロ隊長だ。
王都の門近くで別れた二番隊は、何かあった時の後詰めとして、この村に滞在していた。
トリスタンといくつか会話すると、シエロは自分の隊を率いて俺達が来た道を戻って行った。
沼地に置いてこざるをえなかった、ケルベロスの残りの素材を任せたようだ。
トリスタンはさらに、副隊長のバルドと一番隊を王都へと向かわせた。
討伐成功の知らせと共に、ケルベロスの子をどうするか、城の上層部に意見を求めるためだ。
ケルベロスの子は今、六番隊の魔術によって強制的な眠りについている。
村長へ挨拶に行くというトリスタンと、俺は一旦別れた。
「村長の娘さんが、宿を手配してくれたんだ。こっちだよ」
騎士団以外のメンバーは、仲介役のルークに付いて、村の中へと進む。
「この村には、魔獣士がいるらしいんだ。子ケルベロスをどうするにしても、扱いに長けた人がいた方がいいでしょ?」
ルークがこの村を選んだのには、そういった理由があったのか。
魔獣士とは、モンスターを飼い慣らし、使い魔や家畜として扱う人の事をいう。
竜騎士の乗るドラゴンを調教したりするのも、彼らの仕事だ。
彼らの努力の末、竜騎士の乗るドラゴンは、人工的に繁殖させる事に成功している。
レベルの高い魔獣士だと、野生のモンスターや攻撃性の高いモンスターも飼い慣らす事が可能らしいが、それはほんの一握りの者に限られる。
暗黒期はもちろん、モンスターの脅威に怯えるこの世界にとって、魔獣士は貴重な存在なのだ。
「ようこそ、わが村へ。私は村長の娘のメリッサです。皆さんの案内役を勤めさせて頂きます。よろしくお願いします」
王都が近いからだろうか。
村娘といっても、その装いは垢抜けていて、とても華やかに見えた。
案内された宿も、食堂には陽の光が明るく差し込み、広々とした造りで、落ち着いて腰を下ろせた。
傭兵達はすでに、好きずきに散らばっていった。
アリスとクインシーは、食堂をぐるりと回っている。
「お疲れでしょう? 夕食まで、もうしばらくお待ち下さい。どうぞ、自由におくつろぎになってね」
メリッサは、俺とルークの前に、飲み物を用意すると、にこりと笑ってお辞儀した。
俺は遠慮なく飲み物に口を付け、ひと息つく。
「そうだ、例の檻の件なんだけど……」
ルークが、メリッサに尋ねると彼女はあら、と驚いた顔をした。
「表でアンリに会いませんでしたか? すれ違ったのかしら……」
アリスが席に着き、フードを下ろして飲み物に手を伸ばした。
「ケルベロスの子を入れておく檻があるのか、この村には」
「ええ、そうなの。あ、あなた……!」
アリスの方の顔を見た瞬間、それまで穏やかに話していたメリッサが、衝撃を受けたように震えた。
「どうした?」
その反応に、こちら側も驚いた。
「ちょっと待って、待っていて下さい! ……カミュ、カミュ!」
メリッサは、俺達を手で制止すると食堂の扉に向かって走り出した。
「ごめん、メリッサ。遅くなって」
「ああ、カミュ!」
扉が空いて、メリッサの探していたカミュという男性が入ってくる。
斜に差し込む陽の光が、逆行となって、彼の顔はよく見えない。
隣から、ガシャンと陶器の割れる音がした。
「ニコル……?」
アリスは、自分が割ったゴブレットの破片を踏みつけて、小さく呟いた。
「ニコルって、そんな。本当に?」
俺はメリッサの側に立つ男に目をやった。
ニコルは死んだ。
遺体は見つからなかったが、他のパーティーメンバーが逃げるための囮として、一人モンスターと森に残された。
彼の血と遺品とされた、いくつかの所持品が、ニコルが最後に目撃された場所で発見されている。
俺がニコルの件を知ったのは、半年程後だった。
時間が経ちすぎてはいたが、アリスの為に、できる限りの事はしたかった。
森へ足を運ぶ事はできなかったが、精霊に聞いてみたりしたのだが、結局、モンスターと共に森の奥に消えて行ったとしか分からなかった。
よろめきながら、アリスが二人に近づく。
メリッサに引っ張られ、カミュと呼ばれた男もこちらにやってきた。
「……ニコル」
「……俺と同じ顔?」
男の肌は、アリスと比べて日に焼けていたが、そんな違いは微々たるものだった。
性別ですら、小さな問題だった。
二人は呆然として、鏡合わせのように立ち止まった。
2015/01/12 修正




