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手負いの獣 3

よ、予告に間に合わなかった!すいません!

でも連続更新できました!

明日も頑張ります!!


上空から、沼地を見下ろす。

俺は今、アリスと一緒に竜に乗って空の上にいた。


いくつかの村を素通りして、メンシス騎士団と傭兵の混合討伐隊は、沼地の近くまで辿り着いた。

沼地から一番近い村に馬車は預けてある。

アリスは道中、馬車を降りて竜の世話をしてくれていた。

 コミュニケーションを取るためらしい。俺もアリスと一緒に、騎乗の練習はさせてもらった。

 先行していた十番隊は、オルトロスが未だに沼地から動いていないのを確認し、数名を残して一度こちらの隊に合流した。

 その後、十番隊はリーダーと共に馬で再び沼地へと向かった。

 ルークは数人の団員と一緒に、近隣の村を回ってくれている。

 避難指示や、食料の確保は任せてくれと言っていた。


 竜の乗り心地は、思ったより良好だ。

 アリスの操縦が上手いからだろう。なんとも言えない浮遊感は、たびたび感じるが、我慢できない程ではない。

 ただ、俺はいまアリスにしがみ付く形で竜に騎乗している。

 この体勢に慣れなくて、はじめはかなり戸惑ったが、革の鎧を着ているから気にしなくていいと、逆にアリスに言われてしまった。


 視界の限り、ひたすら草原が広がり街道が遠くまで伸びている。

 例の沼地は、街道の右横にあり森と一体化していて薄暗い雰囲気だ。

 生い茂る木々が邪魔で、ここからだとオルトロスの姿は確認できない。

 空気は澄み渡り、今のところ、太陽はしっかりと顔を出している。

 このままの天気ならば、助かるのだが。


「もうすぐだ……」


 アリスが呟く。

 木陰の間から、点々と騎士の姿が見える。

 リーダーを先頭に、彼らはオルトロスが潜んでいると思われる巣穴へと向かっている。もう少しで辿り着く。

 ボコボコとした深い窪地が幾つも見える。

 そこに入り込んでモンスターと戦うのは、人や騎馬には不利だろう。

 魔術を打ち合えば、崖が崩れるかもしれない。

 ひとりの騎士が、巣穴と思わしき場所に魔術を放った。

 その瞬間。

 地響きとも、唸り声ともつかない音が窪地に反響した。



「現れたぞ……!」


 黒く巨大な何かが、木々の間を素早く移動している。

 かなりの大きさだ。

 全貌はまだ見えないが、オルトロスだろう。

 トリスタン達は、距離を保ったまま魔術で挑発を繰り返す。

 俺達も竜に乗ったまま、平行して追い掛けた。

 オルトロスは、トリスタン達の挑発に乗り沼へと向かっているが、未だ藪に隠れて全身が見えない。


「アリス、もっと寄ろう!」


「――前方に回り込む!」


 アリスが竜を急降下させる。

 一瞬の浮遊感。

 空気を切る風の音を聞きながら、トリスタン達から見て反対側へと旋回した。

 トリスタン達が挑発を繰り返すが、オルトロスは、なかなか藪の中から出ようとしない。

 沼まで引きずり出せば、視界が広くなり、戦いやすいというのに。


「なんで、出てこない……?」


『『―――ォオオオオンッ!』』


 ビリビリと空気が震えた。

 思わず耳を塞ぎたくなるような遠吠えが、ハウリングのように鼓膜を揺らす。


「霧が……!」


 どこからともなく、霧が発生する。

 オルトロスはこれを待っていたのか。それとも、霧を呼ぶ能力でもあるのだろうか。

 白いもやがかかりはじめた沼へ、オルトロスが進み出て来る。

 俺達の眼下から、待ち伏せしていた六番隊が陣形を下げ魔術を練り上げる。

 泥混じりの沼の水が、軋みながら凍りついた。

 彼らは、あらかじめ魔法陣を沼に仕掛けていたのだ。

 足止めされたオルトロスは、唸り声を上げる。

 トリスタン達が近付こうとするが、オルトロスは尻尾を跳ね上げてそれを許さない。


「クソ、霧が邪魔だ……!」


 その間にも、霧が深くなっていく。

 足止めもいつまで保つか分からない。

 その時、オルトロスの首に何かが引っかかった。その先にいるのは、クインシー率いる傭兵部隊だ。

 特殊な縄が、オルトロスの首に絡まっていく。

 反対側の尻尾も、同じように縄がかけられた。

 傭兵達は、縄の反対側を近場の木に結びつけている。


「右から横切る。ギリギリまで近付くから、気を付けて……!」


 アリスが巧みに竜を操り、首輪をかけられたオルトロスへ接近する。


 オルトロスのギラギラした二対の眼が、霧の隙間から鈍く光って見えた。


「アリス、分かった! あれは、オルトロスじゃない!」


「何っ」


「とにかく、トリスタンの所へ!」


 尻尾を抑えた事で標的に接近できた三番隊が、足に杭を打ち込んだ。

 悲痛な遠吠えが響く中、俺とアリスを乗せた竜は、トリスタンの元へ降下した。


「――トリスタン!」


「ノア、何か分かったか?」


 俺はトリスタンの頭上、少し離れた所から大声で言った。


「ああ、あれはオルトロスじゃない! 三ツ首のケルベロスだ!」


「ケルベロス……?」


 モンスターの正体は、ケルベロスだった。

 ケルベロスは、オルトロスよりさらに珍しいモンスターだ。

 本当は三つの首があるはずが、怪我をしたのか、ひとつの首を失っていたのだ。そのせいで、元いた場所にいられなくなったのかもしれない。

 ケルベロスは、オルトロスよりも上位のモンスターだ。オルトロスより体が大きいのも、頷ける。


「ケルベロスの弱点は、音だ! 口から吐き出される炎に気をつけてくれ!」


 トリスタンが力強く頷いた。

 こんな時でも彼は冷静だ。


「ノア、六番隊に弱点を伝えてくれ」


「分かった!」


 横で聞いていたアリスと視線が合う。俺が頷くと、竜は再び舞い上がり、六番隊の方へと向かって飛んだ。

 俺が六番隊へ弱点を伝えると、彼らはケルベロスの顔付近に魔術を撃ち出した。

 少しずつ、ダメージを与えてはいるが、ケルベロスは未だ弱った気配を見せない。

 霧はますます深くなっていき、先程まで晴れていた空に雲がかかり出した。


「……まずいな」


 上空で、様子をうかがっていたアリスが呟く。

 視界が閉ざされれば、魔術が使いにくくなる。

 このまま戦いが長引いて陽が沈めば、こちらにかなり不利な状況になるだろう。

 俺は、腹をくくった。

 深く考えている暇はない。


「――アリス、今からする事は、誰にも言わないでほしい」


 アリスは俺を振り返ると、柔らかく微笑んだ。


「分かった。言っただろう。ノアのやりたいようにすればいい。私がお前を支えよう」


 当たり前だと言わんばかりのアリスの言葉に、俺は少し面食らった。

 アリスを信じよう。

 俺はこの世界で生まれて、初めて、自分の事を知ってもらいたいと思った。


「ありがとう、アリス」


 俺は笑って、風の音に耳をすました。


『ノア、どうした?』


『あいつキライ。うるさい。ねぇ、どうした?』


 風の精霊が、ふわふわと集まってくる。

 俺は、彼らに、霧を晴らしてくれないかとお願いした。


「今日はせっかく晴れてるし、君たちの力で霧を払って、沼を太陽で照らしてくれないか? そうしたら、ケルベロスはどうにかするよ」


 風が集まり、竜は翼を羽ばたかせるのを止めた。

 暖かい空気が、俺達を包む。

 アリスは、精霊の声が聞こえないまでも普通じゃない状態なのは分かるだろう。

 それでも、俺を信じて、アリスはただ静かにしてくれていた。


『いいよ』


『えー、どっちにする?』


『こっちに飛ばそうよ~』


 きゃらきゃらと笑い声が響きわたり、暖かな風が離れて行った。

 そして、木々が風に揺れ始める。風は長く横殴りに吹き続け、窪地がみるみる晴れていった。


「今のは……いや、深くは聞かない方がいいか?」


「俺もまだよく分かってないんだ。……いつか、話を聞いてくれるか?」


 アリスは、何も言わずに頷いた。ありがたかった。


 視界が開けると、騎士団の動きは活気づいた。

 傭兵達は足止めに徹し、六番隊は、ケルベロスが炎を吐き出すのを徹底的に妨害した。

 三番隊が尻尾を叩き、一番隊が双頭を相手に奮闘する。


「すごい……!」


「ああ、やるな」


 俺達は、ケルベロスの首の後ろ辺りの上空で、討伐隊の活躍を見ていた。

 とうとう、三番隊が尻尾を切り落とす。

 尻尾をやられ、最後のあがきとばかりにケルベロスが暴れた。

 その力はとてつもなく強かった。

 打ち付けられていた縄のひとつが、巻き付けられていた木ごと、引っこ抜かれる程だ。

 右首に付けられた縄が緩み、前に出ていた一番隊を襲う。


「危ない……!」


 六番隊が、魔術で援護するが距離が近くて思うようにいかない。

 驚いた馬が、嘶きを上げて反り返り、団員が一人転げ落ちた。

 トリスタンが、落ちた団員を助けようと果敢に前に出る。

 迫りくる牙を剣でなぎ払い、時に魔術を放ちながら必死に戦っている。

 傭兵達が、ケルベロスの右首に新たな縄をかけた。


「炎を吐く気だ! 下がれ、トリスタン!」


 ケルベロスの口の端から、煙が立ち上る。

 正面から炎を被れば、ひとたまりもない。


「ノア、手綱を持て。お前なら大丈夫だろう」


「――え?」


 聞き返す暇もなく、アリスが竜から飛び降りた。

 二つ名の通り、閃光となったアリスは、腰から抜いた剣に氷を纏わせて、ケルベロスの右首を刺し貫いた。

 ケルベロスが前足を折る。

 右に傾いたケルベロスに、六番隊が追い討ちをかけた。

 その隙に後退したトリスタンが、頭を垂れた左首を切り落とした。


 ケルベロスは、その巨体を沼に沈ませて、二度と起き上がる事はなかった。


さっそく感想に、温かいお言葉ありがとうございます。

とても励まされました。

タイトルから離れていってると、よく言われますが、広い意味で広い心でお読み頂ければと思います。

物語の最後まで読んで頂ければ、多分、きっと分かるはず。分かるといいな。

頑張ります。


2015/01/12 修正

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