使命
いつも観覧ありがとうございます。
そろそろ誤字修正せねば。いつも報告ありがとうございます。
至らないところが多々ありますが、これからもどうぞよろしくお願いします。
次はアリス視点の閑話。
さくっと終わらせて、次章に入ります~
ルークは、二人が馬車に乗り込んだのを確認した。
状況を把握するため、辺りを見回す。
あまりにも火の回りが早い。
炎の竜巻は、まるで何者かに操られているように、ギルドへと向かっていた。
本部長は、ルシオラと共に事態の鎮圧に向かった。
すでに近くを火の粉が舞い、頬を熱風を感じる。
ルークは、舌打ちしたくなるのを我慢した。
今は一刻も早く、ノアを連れてこの場を離れる必要がある。
「Qの旦那、行くよ!」
クインシーが馬車に掴まろうとしたところで、急に馬が嘶きを上げた。
「オイオイ、置いて行く気か?」
後輪の足場に乗り損ねたクインシーが、再び飛び乗ろうとする前に、馬車は勢いよく走り出した。
「くそ、追いかけるよ!」
「マジかよ!」
ルークは今度こそ舌打ちして、馬車に向かって疾走した。
クインシーがその後ろに着く。
ルークが御者に大声で呼びかけるも、馬車は止まらない。
それどころか、コーディ卿や、ノア達の声すら聞こえないでいた。
「気を付けろ! ナニかいやがる!」
クインシーの忠告が飛ぶ。
一つ目の角を曲がった時、いくつもの小さな影が足元へ飛来した。
走るスピードは落とさずに、追う二人は横飛びでそれを避ける。
次は顔面を狙って放たれたそれを、ルークはナイフで跳ねのけた。
高い金属音が鳴る。
太い針のような、棒状の鉄が二人に降り注ぐ。
その間にも、馬車は人気の無い路地を走り抜けて行く。
二人と馬車の距離は、じわりじわりと離れて行った。
「上だ! 少なくとも四人! 闇ん中にいる!」
「どうにかしてよ、Qの旦那」
「テメーの事はテメーでどうにかしろ!」
クインシーはそう言いながらも、手元から水球を打ち出した。
どうやらあちらも、屋上を走って追ってきているらしい。
馬車がひた走る通路の両壁、建物の右手に向かって、水の塊がぶち当たる。
その衝撃に足元をすくわれた男が、建物を滑り落ちてくる。
「大人しく足でも折ってくれりゃあ良いのにヨォ」
黒い外套に身を包んだ男は、体勢を崩しながらも、見事地面に着地してみせた。
もう一方の建物からも、ひとりが地上へと降り立つ。
あちらは、上下から攻撃を仕掛けるつもりらしい。
男達は頭の天辺から足先まで、全てが黒に覆われている。
フードを深く被り、その表情は伺い知ることができない。
「今そのツラ拝んでやるよ!」
金属棒を弾いた手で、クインシーが空に向かって指を二本立てた。
ピッと、手首だけで左右に何かの合図を送った。
「来るよ、Qの旦那!」
地上に降りた男達が、左右斜め前方から距離を詰めてきた。
ルークが流石に足を止めかけた時、唐突に、上からの攻撃が止んだ。
「高いところが好きなのは、お前らだけじゃなかったみたいダゼ?」
ニィと笑うクインシーの顔は、まるで悪役のようだった。
「旦那のお仲間か!」
ルークが喜びの声を上げる。
これで、上からの攻撃を気にせずにすむ。
さあ来いとばかりに構えたクインシーをよそに、男達は急に立ち止まった。
「ナンダァ、やんねーのか?」
男達は二人に背を向けて、走り出す。
「Qの旦那、深追いは止めとこう。今は馬車を」
「ツマンネー」
不気味な男達は、そのまま建物の影に吸い込まれて行った。
気が付けば、少し離れた先で馬車は止まっていた。
刹那も惜しいとばかりに、ルークが馬車に走り寄る。
内側から、豪華な布の覆いがかけられており、窓から中の様子は分からない。
「失礼しますよ!」
ルークは素早く断りを入れて、荷台の扉を開いた。
「……コーディ卿!」
華美な装飾が施された客室部分は、それなりの広さがある。
二つあるソファの片方に、コーディ卿がぐったりと倒れていた。
ルークが息を確認する。
生きている。
しかし、肝心のノアがいない。先に乗ったはずの、ソーンとユージンもだ。
「いない! どこだ! ノアさん! ユージン!」
ルークは室内をくまなく探り、ソファや備え付けのチェストを全てひっくり返した。
しかし、二人の姿は忽然と消えていた。
「Qの旦那!」
ルークが外に出ると、クインシーはいかにも傭兵といった風体の男と言葉を交わしていた。
「二人がいない! ソーンもだ!」
「まあ、落ち着け。……で、上のヤツらには逃げられたのか?」
「ああ。どうする、追うか?」
クインシーの仲間らしい片目に傷のある男が、低い声で囁く。
「イヤ、そっちはいい。そんで、もう一方はどうだ?」
「Qの旦那、どういう事?」
珍しく余裕のない表情で、ルークが問いかける。
「ギルドの出口に、馬車が二台あったダロ?」
まさか。
ルークは確かに、ノア達がコーディ卿の馬車に乗り込むのを見たというのに。
「いつの間に……! ノアさん達を入れ替えたのか!」
「オマエがやりそうな手口だよな。俺達は、まんまとヤラレタわけだ」
クインシーが、喉の奥で笑う。
「で、Qの旦那はなんでそんなに余裕なわけ?」
「オマエこそ、随分と焦ってるみたいじゃねーか」
その一言に、ルークは口を閉ざした。
「監視対象が誘拐されたとあっちゃあ、マズい展開だよな」
「……。」
クインシーはやかましいやつを黙らせたと嬉しそうに言った。
「アレのスキルを犯罪組織や弱小国に利用されたら困るもんナァ」
「ねぇ、早くノアさんを探さないと」
「もしかして、何かあった時はセンオーに先に殺せって言われてんじゃ」
「アンタこそ! ……Qの旦那だって、護衛対象から離れてるじゃん」
まずいのは、どっちもでしょう?
ルークは笑顔で言い切った。言外に、この話は終わりだと感じさせる口調だった。
「ツマンネーやつばっか。 おい、行くぞ」
クインシーは、仲間を先導させて、走り始めた。
「もう片方の馬車が気になって、後を付けさせておいた。この先に、馬を用意させてある」
「こんな時だけ用意周到だね」
「すぐに取り戻せば、問題ないダロ?」
ルークはギラリと笑うクインシーの後を追った。
クインシーの余裕の答えだった。
ルークの、「Q」の旦那という表示は誤字ではありません。
ノアは音で聞いて、キューが姓名にあたる部分だと思っています。
本当は頭文字を略して呼ばせています。
理由はいつか明かされます。
2015/01/12 修正