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「ご存知のとおり? カメラで撮影した映像、マイクで拾った音声は回収されなければ意味がありません。そのために何らかの電波信号への変換を……」
「御託はいらないから、さっさとしてください」
太刀洗の瞳に剣呑な色がともった。それでも言葉遣いは崩さず、あくまでも『お客様』に対する礼儀を貫こうとする。
「とりあえず、盗撮されていたのは寝室でしたよね」
ふすまを開けようとする手を間宮の声が制する。
「そこにカメラがあることは確定しているんです。むしろこのリビングからはじめてください」
盛大な舌打ちが響き渡った。
「これだから学生《世間知らず》ってのは……困りますねぇ。こっちは遊びじゃなくて、仕事なんだ。ちゃんとマニュアルってものがあって、それに沿って行動するべきなんだよ」
「それは結構。だけど、こちらは客ですからねえ、勝手を言うんですよ。そういったイレギュラーにいかに対応するかこそが、大人のやりかたじゃないんですか」
いかにも興味なさそうに手袋の毛羽をむしる間宮の態度は、ひどく挑発的だ。
太刀洗の表情が一気に険しくなる……リョウケンハ、トキハナタレタ。
「ねえ、あんた、プロなんでしょ? プロの『お仕事』って言うのを見せてくださいよ」
一単語にだけ妙に力を込めたあざけりに太刀洗が本性を剥く。
「大人をなめるなよ、ガキが!」
理知は影を潜め、鋭く視線をくれながら肩を怒らせる姿は、さながらチンピラだ。
「おい……」
「センパイは黙っていてください」
冷たい制止の言葉。
毛羽をむしる手を止めた間宮は、初めて真っ直ぐに相手を見据えた。
「マニュアルどおりにしか動けないんですか。プロっていうのもたいしたことないんですね」
「ふん、やるよ。やってやりゃあいいんだろ!」
ゆさりと乱暴に揺れるその男に触れられたくなかったのだろう。間宮は大げさに体をひねって場所を開ける。
太刀洗はしたり顔でこつこつと壁を叩き、電波受信機のスイッチを入れる。
八尋はふと、電波狩り《フォックスハンティング》という言葉を思い出した。