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間宮と八尋に向けられた眼差しからは無気力さがそぎ落とされ、狂信じみた輝きさえ宿っている。
「当社では個人情報保護におけるガイドラインというものが歴然と定められており、当然、それに反するような行為は行わない……いや、行われてはならないのです! ガイドラインの概要もご説明いたしましょうか?」
いかにもインテリ風に中指でめがねを上げて、太刀洗は薄い笑いを口元に浮かべた。レンズの奥で細められた目は剃刀の薄刃のように鋭利だ。
八尋は臆す。いや、臆さずにはいられない。
演説調にたっぷりと抑揚をつけた丁寧な言葉が、嫌味なほどの慇懃無礼さで切りつけてくる。猟犬の前に放り出されたウサギなら、こんな心細い心地になるのだろうか。
だが、間宮は産毛一本揺らさぬ凪いだ顔で胸元を払う。
「興味ありません。それよりも仕事を始めてください」
「そうでしたね。盗聴器の捜査、それでお間違いないですね?」
会社のロゴが入った大きな鞄から、電波探知機が取り出される。
「へえ、ドラマみたいだ」
八尋の言葉がよほどお気に召したのか、太刀洗の機嫌は明らかに良くなった。
「ドラマのように派手なことなど何もありませんよ。 これで地道に部屋中を探り、反応があったところを丹念に調べる、壁際を這いずり回る地道な仕事ですよ」
自分の職によほどの矜持があるのだろう。鼻先を上げてくいっとメガネを直す。それは優秀なビジネスマンじみた、自信にあふれる表情であった。