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CASE 5 球磨川 彰
『完璧』とは、彼のために用意された言葉だといっても過言ではない。
笑えば甘く緩む切れ長の目元、ぱっと眼を引く顔立ち、胸の奥から鳴るようなバリトンヴォイス。
もちろん外見だけではない。一流大学を出て、一流の企業に勤めていた。
……ついこの間までは……
家は母親が厳しくてね、テレビの娯楽番組すら見せてはもらえなかった。その分、何をしていたかって? 勉強だよ。
友人と遊ぶことも禁じられていたからね。
勉強の妨げになるようなことを全て禁じられていた俺のひそかな楽しみは、帰り道で良く見かける小さな女の子と遊んであげることだった。
そうさ、雪月だよ。
可愛かったね。俺のことお兄ちゃんって……もっとも、そう呼ぶように躾けたのは俺だけど?
「お兄ちゃんのお嫁さんになる~」なんて言っちゃってさ、ませているというか、生意気というか……本当に、ほんとうに可愛かったんだ。
ああ、でも、あまり賢くはないよね。あの約束を忘れてしまっているんだから……




