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フィクション  作者: 神風紅生姜
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禁じられた者達

“小説の登場人物”


マーク・ジュディゲル:

29歳

地球連邦軍所属の軍人で階級は少佐。

名は偽名。

遺伝子操作されて生まれた人間。

しかし元々のニュータイプ能力が乏しかったらしく自ら薬物強化を施して後遺症で白髪になる。

性格は温厚だが皮肉屋で一度戦闘になると冷血な一面も垣間見えるが、それは遺伝子操作による部分が影響している模様。

戦闘スタイルや機体色から“黒い鷹”の異名を持つ。

養父であり上司であるグレンを尊敬してはいるが時に疎ましくも思っている。

白髪ではあるが美しい長髪で容姿端麗。

かなりモテるが恋愛に関心が無い模様。

作品の主人公。

俺と同じ…


「強化人間という事ですか?」


「もっと悪い」


もっと悪い…


その言葉で思い当たるのはあと一つ。


「では… “エンキト”だと」


グレンは硬い表情のまま頷く。


エンキト。


遺伝子レベルで身体能力や知能指数を強化した人間。


戦力の乏しいアクシズが優秀な戦士を確保する為にクローニング技術と並行して研究をしていた技術だ。


しかし疑問が残る。


「連邦にそんな技術が有るとは考え難いのですが?」


「それがアジール・コロニーを攻撃した本当の理由だ」


「…!?」


驚愕で言葉が詰まる。


「彼女は戸籍上22歳ではあるが実際はまだ17歳の子供にすぎない」


「作戦後に得た技術を使って造られた…」


「そういう事だ」


「チッ!」


心から溢れる憎しみが止まらない。


どんなに時がたってもオールドタイプは力への欲を捨て切れないのか!


同じ過ちを幾度となく繰り返して…


クソッ!


「だからお前に彼女の事は任せる」


グレンへ返事する為己の感情を覆い隠す。


「解りました」


「同じ境遇のお前なら彼女の心のケアも出来るだろう」


哀しみを含んだ言葉であったが同時に俺が成すべき使命の提示と俺への信頼から出た言葉なのだと感じた。


グレンは部屋に漂う暗い空気を察して話題を変える。


「話が逸れてしまったな。それでもう一つ頼みというかこれは命令なのだが」「何でしょう?」


「新型受け取りの際お前はキショウ中尉と共にMSで降下して現地に向かってもらう」


「シャトルでなくMSですか?」


「ああ、向こうがお前達のMSのチューニングを見たがっていてな。今お前とキショウ中尉が乗っているMSと引き換えに新型を受け取る事になった」


「命令なら従いますが今の機体も一応は機密では?」


「上からの指示だ。“独立”なんて名前は付いているが上から命令が出れば従うしかない、それに代わりと言っては何だが今より優れた機体に乗り換えるのだから損は無いさ」


「今のが最低ですがね」


「また愚痴か。お前が特別だからだよ」


フォローの様な言葉だがグレンはそれに笑いを含めた言いようだった。


「お褒めの言葉として受け取ります」


「あれはお前専用に組まれた機体らしいからそう言うな」


「確かに遠距離狙撃は得意ですが格闘戦が苦手な訳では」


「そのお得意の遠距離狙撃に合わせたのだから格闘に向かなくても仕方あるまい」


「アナハイムで試作した最新の小型ジェネレータと大推力を生む熱核ロケットと遠距離狙撃をサポートするAIの実験機体…」


「まさに特化しているな」


品の良いグレンの笑いが部屋に響く。


「だがあんな機体役に立ちますか? 加速Gは殺人レベルですし、並の人間に扱える機体の方が…」


俺の皮肉を最後まで聞かずにグレンが口を出す。


「私はお前のクレーム処理係ではないぞ。この隊が組まれる前からお前の戦績は聞いていたし『マークなら』と思って実験機をお前に回していたのも私だ」


少し驚いた。


ずいぶんと高く評価されたものだ。


まぁ普通じゃない俺に毎度危ない仕事が回される事は仕方ないという諦めもあったし慣れていたが、まさか危ない仕事を回す張本人の一人が俺の養父で、しかも理由が『信頼』だ。


見方を変えれば俺を超多忙にして軍を除隊させる気でもあったのかもしれんが、何故か嫌な気はしない。


親心というやつか。


「すみません、また悪い癖が出ました」


「お前もいい歳になったのだから直せ、上官からの命令だ」


お叱りなのだろうが親しみの有る言い回しだった。


「前から言っているだろう。難しい事を任された時はそれだけ…」


「自分が評価されていると思って勤めろ… ですね」


今度は俺がグレンの言葉を最後まで聞かずに口を挟んだ。


この言葉はグレンのお叱りの定番だったから覚えてしまった。


「相変わらずなのはお互い様ですね」


何だが可笑しいな。


こうして話すのは3年ぶりだろうか。


俺が連邦軍を志望した時グレンは激しく反対したが結局最後は俺の決意に折れて応援してくれた。


以降はグレンお得意の根回しで仕事が忙しく、たまに会食に行く程度で疎遠になっていた。


「まったく… そうだ! いい歳ついでに聞くがお前恋人はいないのか?」


突然何を閃いたかと思えば女の話だった。

俺は結婚する気が無いというのに…


こういうのは適当にあしらう。


「明日は出港なのでそろそろ…」


席を立とうとするとやはりグレンは俺を呼びとめる。


「もう3人も見合い写真を送ったのに返答が無いのはどういう事だ?」


まるで尋問の様だ。


「自分はやはり独り身の方が…」


「見合いが嫌ならフィリアはどうだ? 彼女は優秀だし美人じゃないか、お前に興味も有るようだし歳もそう離れていまい。職場恋愛でも構わんから」


要望の様な言葉が続く。

俺の感想を言えば『知るかよ』の一言だ、しかしそれを口に出来るほど幼稚な子供ではない。


ふと言い訳の様に出た言葉が「今は仕事が忙しく…」だったが「こういう時ばかり忙しいのだなお前は」とすんなりグレンに言い訳とバレた。


「マーク… お前も今年で29だ。女性士官から人気が有るとよく噂を聞くがまったく色気のある情報を耳にしないのはどういう事だ? 私は早くお前に家庭の幸せを知って欲しいのだよ」


俺の事を思っての言葉と理解出来るが、それに応える事は出来ない。


それにしても吹き出す様にそんな言葉をポンポンと…


こんな事をグレンに吹き込んだのはきっとフィリアだな。


グレンは一つの事に思い至りゆっくりとそれを確かめる様に口にする。


「やはり身体を気にしているのか…」


俺は遺伝子操作された人間な上に未熟なニュータイプ能力を補う為の薬物常用で既に身体はボロボロだ。


白髪だけならまだしも男としての機能も無くなっていると思う。


そういう色っぽい関係になってもお互いに辛いだけ。


グレンが思い詰めた表情で告げる。


「過去に囚われるのは辞めろ。お前一人の問題じゃない自分をもっと大事にしろ」


奴が生きている限り俺の幸福なんて無い。


絶対にあいつを…


「俺一人の問題ではありませんが、俺の問題な事に変わりないです」


俺は席を立つ。


「マーク…」


グレンの口から悲しい響きの俺の名がこぼれた。


奴を殺せるのは生き残りの俺一人。

幸福なんて二の次でいい。


俺はドアへ向かって歩きながら呟く。


「キショウ中尉の事はお任せ下さい」


言いながらドアの前でグレンの方を向くと彼はソファーから立ち上がり両手をズボンのポケットに突っ込みこっちを見る。


「彼女の背中とあの朱い髪を見ると少年時代のお前を思い出すよ」


「グレンも嫌味がお上手だ」


俺はそれではとグレンに挨拶をし部屋を出ようとする。


「マーク!」


ドアを開けようとするとグレンに呼び止められた。


「まだ何か?」


ゆっくりと間を持たせグレンが口を開く。


「お前…」


そこまで言うとグレンの言葉は詰まる。


「…笑うのが上手くなったな」


「おかげさまで」


「それだけだ」


「…? では明日」


彼へ敬礼して部屋を出た。


グレンは自分のデスクへ歩き黒革張りの立派な椅子に腰を下ろし背もたれに身体を押し付ける。


「マーク… 彼女はお前にとって生易しいものでない… エンキトと呼ぶより…」


独房の様な部屋に一人残されたグレンは、かける対象を失った言葉を呟き続ける。


「キメラだ」…









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