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フィクション  作者: 神風紅生姜
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願い

MS隊副隊長の命令に従いパーソン中尉のパヴヂガンを連れ艦の格納庫へと私は自機を誘い、カタパルトデッキで脱力したパヴヂガンを幾人かのメカマンへ預ける。


庫内は出撃する際とは異なりノーマルスーツを纏ったメカマン達が他のMSを臨戦体勢へ立ち上げる作業を忙しなく熟し、先程とは違う緊張した空気感を漂わせていた。


「お疲れ」


ハンドレットをハンガーへと待機させると他の作業中だったハンナさんが無線で私を労う言葉をかける。


彼女は激しい殴打を受け傷付き塗装の剥げたハンドレットの機体ヶ所を見付け「随分と可愛がってもらったもんよね」と溜息含みに言葉を続けた。


「………」


その言葉は私に対しての失望のそれから出ているものなのか、はたまた自身の手掛けた作品に傷を付けられ苛立って言っているのか。


どちらにしろその言葉は今の私が不甲斐無く感じている心を更に深く落とすには十分だった。


「ディーと何か話してたわね。奴から何を言われたの?」


接触回線は電波を用いない原始的な通信方法なので外部には内容を聞き取れない。


故にハンナさんは私がビィーツ大尉から何を言われたか気になったのだろう。


「命令? それで戻ってきたの?」


図星だ。


だがそれ以上に私は彼から“邪魔だ”と言われた事がショックだった。


「…パーソン機を連れ艦に戻り、要請するまで待機しろと」


「そう」


嘘を伝えたつもりはないが、現状でそれを直接言われるという事は私はビィーツ大尉に『直接言わないと理解出来ない』と判断される程に信用が無いというものだ。


そして今それをハンナさんに伝えた事で深まる感情は底辺まで落ちきった。


「模擬中に何があったかは解らないけど、とてもあなたらしくなかった」


「………」


ハンナさんは気遣かいつつもビィーツ大尉と同様に私の行動に疑問を感じて、彼女の性格らしさを滲ませつつも優しげのある言葉でそれとなく告げてくれた。


確かにらしくはない。


この私がこんな戦場で日常的に起こる不測の事態に動揺し、己の身体と心の総てが一時の感情に支配されてしまうなんて…


「まぁ誰にだって本調子じゃない時はあるわよね。それじゃあハッチを開けて出て来なさい。少し休まないと」


ハンナさんは優しかった。


けれどもその優しさは私に幾つかの思いを抱かせる。


この優しさに甘えたいという思いと同時に、悔しさと苛立ちとを。


そして現場に立つ上官達が下士官のミスに対してよく使う台詞を思い出す。


『不始末は自分で片付けろ』


それは今回、模擬戦で相手を仕留られなかった件でも艦長が口にした言葉だ。


しかしそれも結局マーク隊長の狙撃で片付けられうやむやのまま。


そうだ。


私はまだ自分のしでかした不始末を処理しきれていない。


彼等からしたら私はまだまだ赤子同然なのだろうが、それでも私は戦士だ。


今私に出来る事を探そう。


ただのうのうと此処であの人達からの命令を待つ事こそが私には子供の様に思えてならなかった。


「…ユリ?」


ハンナさんが私へかける言葉も無視してコンソールパネルを操作し無線チャンネルをブリッジへ繋いだ。


「こちらハンドレット」…










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